#1571『Joe Moffett / More of It and Closer』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Tubapede Records #11
Joe Moffett (tp, amp, aplications)
1. Donners
2. Quill and Quiver
3. Catbird
4. Mohair
5. Ticker
6. Waders
Recorded at the Chamber of Commerce by Lily Wen
Mixed and mastered by Nathaniel Morgan
Artwork by Joe Moffett
Copyright 2018
トランペットのソロとひと言でいうには随分変わっている。それは旋律よりも音色に対する常ならぬ追求姿勢であり、ジョー・モフェットのカルテット作品『Ad Faunum』(Not Two、2010年)でも違和感として残っていたものだった。その違和感とは、アンサンブルや各人の即興の絡みよりも、モフェットの音自体がもたらすものなのだと、あらためて気付かされる。ここに萌芽があったのだ。
その面白さは、「アース・タンズ(Earth Tongues)」グループ名での『Ohio』(Neither/Nor Records、2015年)において、もっと前面に出た形となっている。ここではチューバのダン・ペック、パーカッションのカルロ・コスタと組んでいて、かれらも同じように音色への追及と執着をみせる。その結果、各人の音色の提示がサウンド全体の響きを作り上げており、また混ざりあってもいるのだが決して融合することはなく、たとえばモフェットの生々しさも、楽器の存在を意識せざるを得ないペックの共鳴も、耳の触手を伸ばすことによってアクセスできるものとなっている。
トランペットの完全ソロということでいえば、25分ほどのパフォーマンスの記録『Majick』(2017年)と比較できる。これを音色の試行作品として1枚の絵画になぞらえるとすれば、今回の『More of It and Closer』は6枚の絵画の展覧会のようなものだ。ロングトーンでの連続的でうねうねとした流れは、どこかその先にあるものの視覚的な画像を強く喚起させられる。そういったひとつながりの音が、何度も何度も飽くことなく提示され、直前の過去との違いを際立たせる。差異と反復、固執、試行、結果を期待しない提示、まるで生きることそのものだ。
音の発生源を楽器から身体側に引き寄せる局面もある。共鳴そのものよりも、息遣いであったり、唇の震えであったりして、それらが楽器で増幅させられているのは確かなのだが、しかしサウンドの注視は生々しい身体となっている。モフェットによれば、マイクをトランペットのベルから奥深く入れており、それは、より唇や喉の音を増幅するためであるという。また、生音からクレッシェンドして次第に増幅する表現をも効果的に使っている。微かな音をいかに多様な表現に結びつけるかが探求されているのである。
モフェットは2015年にソロライヴを開始し(NYのFONTにおいて)、それ以降、ソロ表現を追求してきた。本作はまだ2枚目である。さらなる探求が期待される。
(文中敬称略)