#1575『Sabu Toyozumi / Preludes and Prepositions』
『豊住芳三郎/プレリューズ・アンド・プレポジションズ』
text by Yumi Mochizuki 望月由美
Chap Chap Music(ちゃぷちゃぷレコード) CPCD-013(2枚組)3,500円(税込)
Sabu 豊住芳三郎 (ds,erhu)
Rick Coutryman (as)
Simon Tan (b)
Disc 1:
1.Preludes and Prepositions
2.Philosopher Turtle
Disc 2:
1.Geography of Soun
製作:末冨健夫
録音:2017年8月9日、Alvin Cornista
場所:フィリピン 「Tago Jazz Cafe」にてライヴ・レコーディング
寅さんは思いつくまま気のままに柴又を出て日本全国を巡り騒動を起こす。
我が “SABU”さんは、思いつくまま気のままに世界各地にインプロの旅に出る。
昨2017年夏はフィリピンを訪れ現地のミュージシャンとセッションを楽しんでいるが、その際のマニラのライヴ・ハウス「TAGO JAZZ CAFÉ 」での演奏がアルバム『SABU TOYOZUMI/PRELUDES AND PREPOSOTIONS』(ちゃぷちゃぷレコード)に収められている。
本作品の録音については及川さんが「及川公生の聴きどころチェック No. 247」で論評されている。https://jazztokyo.org/reviews/kimio-oikawa-reviews/post-32947/
フィリピンのジャズ・シーンには詳しくないが現地のミュージシャンとのセッションからフィリピンのジャズ事情が浮かび上がってくる。
何枚かある“SABU”のフィリピン・セッション盤には「Jya‐Ne」(じゃあ ね?)と云うタイトルのアルバムも出ていて“SABU”がいつもの無手勝流でフィリピンのジャズ・シーンに溶け込んでいるのが想像できる。
アルバムはアルト、ベース、ドラムのピアノ・レス・ワン・ホーン編成。
例によって1曲が40分~50分という長尺もの。
サックス、ベース、ドラムの編成はソニー・ロリンズ(ts)の『a night at the“Village vanguard”』(blue note 1959)やデイヴ・リーブマン(ts)の『Ghosts』(night bird music 2001)など多数あるが、全編フリーでしかも一曲40~50分もの長尺となるとあまりなく、ジョン・イラバゴン(ts)の『FOXY』(HOT CAP 2010)で、78分28秒間延々吹きっぱなしというのが保有するアルバムの中では最長。
ジョン・イラバゴンはこの長時間リズムを叩き続けることが可能なパートナーとしてバリー・アルトシュル(ds)を選んだがフィリピンのリック・カントリーマン(as)は “SABU”を相手に迎えての長尺演奏である。
DISC1がステージのファースト・セットを、DISC2がセカンド・セットを収めてあり、居ながらにして「TAGO JAZZ CAFÉ」の一夜が再現される。
ファースト・セットは “SABU” のシンバルの一撃から始まりそのままスネアやバスドラを交え軽妙なソロをとる。
フィリピンでの一夜が相当快かったのか “SABU”が快調に飛ばす。
インテンポでの高速のスイングは “SABU”の大きな魅力の一つでありサックス・トリオの導入部としては正にパーフェクト。
普段はフリーなソロの途中で急にインテンポでスイングし聴き手をジャズの坩堝へ誘うという必殺技を使うことが多い “SABU”であるが、ここでは最初からハイ・テンションかつグルーヴィーにインテンポのリズムを炸裂させる。
そしてリック・カントリーマン(as)がそれに応えて演奏に加わりアルトとドラムのインタープレイへと展開する。
リック・カントリーマン(as)はかなり骨太のがっしりしたトーンで “SABU”と対峙する。
コルトレーンやブラクストンが下地にあると思われるリック・カントリーマンとパルシヴなビートをたたき出す “SABU” とのインタープレイはコルトレーンとラシード・アリ(ds)とのデュオ『INTERSTELLAR SPACE』(Impulse! 1967)のごとき様相を呈して緊張した空気が張りつめる。
バスドラを多用する“SABU”も快さげにたたいているようである。
かつてエルヴィン・ジョーンズ(ds)が66年暮れに日本に滞在した時、ピットインで日本のミュージシャンに大きな刺激を与えたというが、半世紀後に “SABU” は「TAGO JAZZ CAFÉ」でフィリピンのミュージシャンに良い刺激を与えたようである。
アルトのリック・カントリーマン(as)はフリーにありがちの観念的なところが感じられず往年のフリーの感触がよみがえって懐かしさもあり、また一途で湿っぽいところがないのがいい。
フィリピンと日本のジャズの交流は昭和の初期に来日し活躍したレイモンド・コンデ (cl,vo、1916~2003)やフランシス・キーコ(p)に始まり、マリーン(vo)やチャリート(vo)まで脈々と続いているが、SABU豊住芳三郎とリック・カントリーマンのようにフリーでの交流は近年になってからであり、本アルバム『SABU TOYOZUMI/PRELUDES AND PREPOSOTIONS』(ちゃぷちゃぷレコード)がその懸け橋となることを願うが、我が “SABU” は今ごろまた何処かを外遊していることであろう。