#1586 『James Brandon Lewis / An UnRuly Manifesto』
text by Akira Saito 齊藤聡
Relative Pitch Records RPR 1078
Jaimie Branch (tp)
Luke Stewart (b)
Warren “Trae” Crudup III (ds)
Anthony Pirog (g)
James Brandon Lewis (ts)
1. Year 59: Insurgent Imagination
2. An UnRuly Manifesto
3. Pillar 1: A Joyful Acceptance
4. Sir Real Denard
5. The Eleventh Hour
6. Pillar 2: What Is Harmony?
7. Escape Nostalgic Prisons
8. Haden Is Beauty
9. Pillar 3: New Lived, Authority Died
Mastered by Paul Wickliffe at Skyline Pro
Mixed by Mike Reina at The Jackfields on March 9th 2018
Executive producers Mike Panico & Kevin Reilly
All compositions by James Brandon Lewis
James Brandon Lewis Music Publishing : Ascap
Art and design by Bill Mazza
予兆のように提示される静かなアンサンブルに続き、12分ものタイトル曲が演奏される。ルーク・スチュワートのベースが地響きを繰り返す中で、また、ウォーレン・”トレエ”・クルーダップ3世のドラムスが次第に併行リズムから自律的に力強くなってゆく中で、ジェームス・ブランドン・ルイス(JBL)のテナーが重量級のブロウをみせる。周囲のサウンドを静かに睥睨し、その音色は確信に満ちている。ダークではありながら、そのテナーは暗鬱に沈まない。それは、かれが自らの裡だけでオリジナリティを創り上げようとはせず、悠然と扉を開いて音を聴く者と共有しているからだ。アルバムには「Pillar」と題された30秒前後のアンサンブルが3度のタイミングで挿入されており、これがさらにサウンドを外に開かれたものにしている。
「Sir Real Denard」では、一転して、スチュワートとクルーダップとが繰り広げるファンク・リズムにニヤリとさせられる。ふたりはデュオユニット「Blacks’ Myths」でも活動しており、その相性が反映されている。ここに余裕で入ってくるジェイミー・ブランチのトランペットとJBLのテナーは、かれらの内部にナマの伝統が脈々と息づいている証拠だと言ってよい。
続く「The Eleventh Hour」においては、アンソニー・ピログのカラフルなギターにサウンドの着色が委ねられ、その上で擦れるように躍るトランペットとテナーの音域の広さが特筆ものだ。ブランチは「Escape Nostalgic Prisons」でもJBLとゴールへ向かって激走するバトルを展開しており、JBLの剛球に同レヴェル以上で応えうる人だということが明らかだ。筆者は、ニューヨークでのマタナ・ロバーツのステージ(2017年)において、ブランチが隣のスーパー・トランぺッター(ピーター・エヴァンス!)を、ときにその飛翔で凌駕していたことを鮮やかに覚えている。
「Haden Is Beauty」のコンセプトは故チャーリー・ヘイデンのベースの残響だ。スチュワートのベースが耳にこびりつき、全員が持ち寄るものが多幸感を生み出している。
伝統の継承と、驚くほどにパワフルな革新。本盤を聴くと、「テナー・タイタン」の称号はJBLにこそ与えられるべきではないかと思わせられてしまう。そしてジェイミー・ブランチ。間違いなくかれらの時代である。
(文中敬称略)