#1589 『本田竹広トリビュートバンド/セイヴ・アワ・ソウル』
text & photos by Yumi Mochizuki 望月由美
ピットインレーベル PILJ -0013 2,500円+税
本田珠也 (ds)
峰厚介 (sax)
守谷美由貴 (sax)
橋本信二 (g)
板橋文夫(p)
米木康志 (b)
1. ザ・ウェイ・トゥ・ブルックリン(本田竹広)
2. リップリング(本田竹広)
3. サバンナ・ホットライン(本田竹広)
4. セイヴ・アワ・ソウル(本田竹広/小室 等)
5. セカンド・カントリー(本田竹広)
6. スーパー・サファリ(本田竹広)
7. ヘイ・ジュード(レノン=マッカートニー)
録音:2018年8月19日、新宿ピットインにてライヴ録音
エンジニア:菊地昭紀(ピットインミュージック)
プロデューサー:本田珠也
共同プロデューサー:品川之朗(ピットインミュージック)
エグゼクティヴ・プロデューサー:佐藤良武(ピットインミュージック)
本田竹広(p, 1945~2006)のピアノ・ソロ・リサイタルを初めて聴いたのは1988年10月21日新宿朝日生命ホールであった。
このリサイタルの最後、アンコールに応えて弾いた<宮古高校校歌>は胸を打ち心にしみた。
思わず、居合わせた峰さんとOKサインを出し合って素晴らしさを讃えあった。この時のピアノに向かう本田の姿がいまだに瞼に焼き付いている。
本田竹広はその後2度の脳梗塞を発症したが持ち前のタフな生命力で懸命のリハビリを行い復活、2005年7月紀尾井町でのリサイタル『My Piano My Life 05: Piano Recital』(2005, テイチク)を行うが、その半年後の2006年1月12日に急性心不全で世を去った。
今年は本田竹広の13回忌にあたる。
本田竹広@新宿・朝日生命ホール 1988年10月21日
定期的に血液透析を受けるようになっていた竹広のもとへ足しげく通ってサポートしていた本田珠也(ds)のところに病院から透析の時間に来ていないとの連絡を受け父親のもとに駆け付けた時にはすでに亡くなっていたという。
その本田珠也が敬愛していた父本田竹広の偉業を受け継ぎ発展させようとの思いで結成したのが「本田竹広トリビュートバンド」である。
このバンドは文字通り本田竹広の作曲した曲、そして愛奏曲を演奏するバンドである。
構成はテナー、アルト(ときにソプラノ)の2管にギター、ピアノ、ベースそして珠也のドラムという6人編成。
凝ったアレンジはせず、そのほとんどをユニゾンでメロディーを奏で本田竹広の作った曲の美しさを際立たせる。
そしてメンバーの各人が次々とアドリブの応酬を繰り広げる。
リーダー本田珠也がそのすべての局面で父への思いをぶちまけるような激しいドラミングを展開しメンバーを鼓舞する様子が伝わってくる。
バスドラの連打といい、スネアのフィルインのスピードといい、ハイハットやシンバルの多彩な展開といい、珠也の気合は凄まじく、ドラミングを通じて亡き父との交感をしているかのように聴こえ生一本,真っすぐな珠也が浮かび上がる。
そして米木康志(b)がしなやかな音でリズムをしっかりと支える。
アルバムのライナーノーツは小室等、山下洋輔そして本田珠也の豪華3本立てでこれを読めば本田竹広の音楽家としてのプロフィールが浮かび上がってくるという丁寧な編集がなされている。
ビートルズの(7)<ヘイ・ジュード>を除いて全て本田竹広の曲で統一し、ひたすら本田竹広をしのぶ演奏が続く。
(2)の<リップリング>では板橋文夫(p)がベートーベンのピアノ・ソナタ<月光>を想わせるメロディアスなソロをとる。本田竹広の好きな曲だったと聞いているが国立音大の後輩にあたる板橋から本田の曲ってこんなにも美しいんだよと云う本田への思いが込められた優しいバラードである。
1978年「ネイティブ・サン」結成以来の旧友峰厚介(ts)が古巣に戻ったかのように峰節全開、悠揚迫らざる貫録を見せる一方、守谷美由貴(sax)がソプラノで果敢に峰に挑んでゆくシーンがしばしば展開、守谷の物に動じない姿勢や2管のソロのチェイスもライヴを盛り上げるのに効果的である。
どの曲からも本田竹広の体臭が沸き立ってきてあらためて本田の個性の強い人となりが曲想にもはっきりと刻まれていたことを再認識する。
(6)<スーパー・サファリ>はネイティブ・サンのヒット曲、懐かしさがこみ上げる。
橋本信二(g)がシングル・トーンからトレモロまでブルース色の濃いソロをとり珠也が突き上げるようなリズムで終始バンドをプッシュすると客席からイヤー!っという声援が飛びステージと客席が一体となる、ライヴの醍醐味である。
アンコーのル(7)<ヘイ・ジュード>は云うまでもなくビートルズ・ナンバーでネイティブ・サンのステージでは必ず演奏された曲で青春を思い出させてくれる。
リーダーの本田珠也は自己のカルテットで一昨年(2017年)の6月、同じ新宿ピットインで『TAMAXILLE/Live at Shinjuku PIT INN』(2017, ピットインレーベル)のライヴ・レコーディングをしている。
そして昨年(2018年)の夏、峰厚介や板橋文夫などベテラン勢を交えての本アルバム『セイヴ・アワ・ソウル/本田竹広トリビュートバンド』という全く趣向の違うバンドをヘヴィーなリズムでぐいぐいと推進している。
その気迫のこもったプレイからは新たな音楽を生み出そうという強い自負がうかがえる。