#1585 『Kuzu / Hiljaisuus』
text by 定淳志 Atsushi Joe
Kuzu / Hiljaisuus (Astral Spirits)
- Fontanelles 1
- Fontanelles 2
- Gash
Dave Rempis – alto/tenor/baritone saxophones
Tashi Dorji – guitar
Tyler Damon – percussion
Recorded in Chicago, September 13th, 2017 at Elastic Arts
1975年生まれ、イリノイ州シカゴを拠点に活躍するサックス奏者デイヴ・レンピスは、1990年代後半に活動を開始。すぐにケン・ヴァンダーマークが率いる「Vandermark 5」にマーズ・ウィリアムズの後任として、98年録音の『Simpatico』から起用され、知名度を上げた。前任者との比較で当初は印象が弱かったが、ヴァンダーマークの隣で鍛えられるうち、気づけば素晴らしいミュージシャンとなっていた。もともと活動を開始する前の彼は、ノースウェスタン大学で民族音楽学とアフリカ研究(ガーナで1年間過ごした経験もある)を専攻していたそうで、シンプルで力強いリフを繰り返してクライマックスにクライマックスを重ねるヴァンダーマークの影響も相まってか、原初的衝動を感じさせるダイナミックな音と咆哮をこれでもかと重ねていくスタイルを確立させた(もちろんそれだけじゃないけど)。
ブータン出身でノースカロライナ州アッシュビルで活動するエレクトリックギタリストのタシ・ドルジと、オハイオ州シンシナティ出身で現在はシカゴを拠点とするドラマーのタイラー・デイモンは、近年デュオ活動を活発化させており、そのハードコアサウンドを聴いたレンピスが2人を誘って生まれたのが本作品だという。なおグループ名の由来が「葛」なのか、「屑」なのか、はたまた「九頭」なのか、そもそも日本語起源なのかどうかは不明だ。タイトルの〈Hiljaisuus〉はフィンランド語で〈沈黙〉という意味だそうだが、時おり呪術的にも感じられるドルジのギターと、巧緻なデイモンのパーカッションと、レンピスの力強いサックスの響きが重なり合い、ダイナミックで雄弁な音楽を生み出している。
ドルジとデイモンは一昨年、世界的に注目されるデンマークのサックス奏者メテ・ラスムセンとも、トリオアルバム『To The Animal Kingdom』(Trost)を発表しており、「化学変化」のあり方の違いを比べてみるのも一興かもしれない。