#857 『佐藤允彦/江戸戯楽』
text by 横井一江 Kazue Yokoi
Baj Records BJSP-0006
佐藤允彦(p)
加藤真一(b)
村上寛(ds)
1. Dong To Coy[一番太鼓]
2. Curtain Raiser[前座の上り]
3. It’ choily[一丁入り]
4. Oimatz[老松]
5. Klama[鞍馬]
6. No Haggling[正札附き]
7. Nozaki[野崎]
8. Doyen’s Step[中の舞]
9. Cup-Ole[かっぽれ]
10. Plover’s Aikata[千鳥の合方]
11. Do, Do It[都々逸]
12. Blithe Kacko[二上り羯鼓
13. Gen-rock[元禄花見踊り]
14. De Te Que[追い出し]
[ ]内は原曲
Recorded at ONKIO HAUS 1st Studio, 2011.07.13(Wed),2011.07.14(Thu)
『巴翁戯楽』(BAJ Records)で、バッハをスウィングさせてジャズにしてしまった佐藤允彦。「戯楽」第二弾はジャズ出囃子集である。出囃子とは噺家が高座に上がる時にかかる音楽で、ひとりひとり違う。寄席通いの通ならば、出囃子が聞こえただけで次が誰かわかるというもの。しかし、出囃子の原曲は長唄、端唄あるいは歌舞伎の曲、バッハをジャズ風に弾いた人は過去にもいたが、出囃子をジャズにした人はいない。日本の音階はなかなかジャズに馴染まないのではないかと思いきや、いい塩梅にコードとリズムでジャズに変身させている。それは佐藤の編曲家としての技であり、テーマから発展させてインプロヴァイズ、聴かせるのは佐藤と加藤真一、村上寛というベテラン演奏家の芸のなせるもの。
しかも本作は寄席に見立てたアルバム構成になっていて、村上の叩く<一番太鼓>で始まり、<前座の上り>、そして古今亭志ん生の<一丁入り>と続く。いきなり大御所が登場というのは寄席ではあり得ないが、ジャズならではの無礼講というところか。出囃子ではない<かっぽれ>、<千鳥の合方>、<都々逸>も取り上げ、それを「仲入り」に見立てているとは。英文曲名もまた遊んでいて、佐藤との共演もある古今亭志ん彌の出囃子<元禄花見踊り>が一番モダンジャズらしいのに<Gen-rock>という具合で笑わせてくれる。
ジャズと落語には「即興性」を含めて相通じるところが多いとはよく言われるところ。ジャズファンで落語ファンも多いし、噺家の師匠にジャズ好きも少なからず。きっと落語について蘊蓄を語れるほどの人ならば、出囃子それぞれのテーマに噺家の顔を浮かべ、演奏を聴きつつ、その語り口を思い浮かべてニヤリとするのではないだろうか。とはいえ、落語を深く知る人もそうでない人も、純粋にジャズとして聴きたい人も楽しませてしまうところが、巧者3人の技と芸。江戸の遊びゴゴロ、洒脱さをジャズで粋に聴かせてくれる。いや、これぞジャズ。楽しい!