#2087 『工藤冬里 / Tori Kudo at Goodman 1984-1986』
Text by 剛田武 Takeshi Goda
CD 9枚+特典DVD:Fuji FJ201
工藤冬里 / Piano, Guitar, Synthesizer, Organ, Vocal
篠田昌已 / Alto, Sopranino, Tenor, Flute
森下寿一 / E.Bass
高田洋介 / Tenor
久下恵生 / Percussion
渡邉浩一郎 / Violin
牧野譲 / Baritone
三谷修二 / Soprano
向井千惠 / Vocal, Er-hu
西村卓也 / E.Bass, E.Guitar
三谷雅史 / E.Bass
中崎博生 / Euphonium
鈴木卯多 / Soprano
鈴木武志 / Cello
中尾勘二 / Percussion
岩田侑三 / E.Guitar
平松薫 / Alto
大泉究 / Piano
長原一郎 / Synthesizer
Disc 1
1. to my elder sister
2. Unknown Happiness ‘of’ the past
3. 月La Haute Fagne 1914 Georges Le Brun, Clair de Lune 1898 Léon Frédéric
4. 都会のアリス ヴィム・ヴェンダース
5. the days of Noah (An alarm clock was set in the piano but it did not start)
6. mirror man (don van vliet)
7. しびれるような柔和さ
8. Silver Apples風
9. 628 8697 大阪の電話番号
10. アモルファ~無定形へ~
11. 律法以前の罪の感覚
12. ’82 2月3日 PM6: 30
13. かなしいくらいの満月が
14. piano solo
15. 最初の日
16. Walking with the Ghost
17. 子供が帰った partI
Disc 2
1. 蝶
2. 末日記I
3. 久下とのDuo (partI)
4. 久下とのDuo (partII)
5. solo
6. 騎馬民族的垂直演歌
7. 夢のつづき
8. português ポルトガルのマリアの血の涙
9. piano solo 反動的なものの清算
10. solo
11. 末日記I encore
12. キリギリス
13. crystal ship
14. みよちゃん
Disc 3
1. piano solo 水を張った田植え前の水田に雨が降ってゐる様子~トリオ
2. solo
3. かなしい位の満月が…
4. piano solo portraits 客席右から篠田君のお姉さん, 篠田君, 金田一さん, 金田一さんの連れの女の人
5. guitar play of Marc Bolan
6. 628 8697 テレホンNo.の短い曲
7. Resurrection of life or death
8. 律法以前の罪の感覚「…の生活」
9. 女の中で一番美しいものよ
10. solo (partI)
11. solo (partII)
12. Heart & Soul & Mind 心と魂と思いの区別について
Disc 4
1. 爆破計画
2. solo
3. 篠田風
4. ドン・タッポ変奏曲 戦前の映画効果音楽集より
5. イントロダクション~エリコの斗い
6. Intro for ‘fascinating tenderness’
7. Snow Flakes (Shuji Mitani)
8. solo
9. composition
10. composition, in my early teens
11. 花は何処へ行った Sung by Miriam
12. ハルマゲドンの斗い
13. march 1+2
14. ché-shizu「まだ生きてる」
15. Namio
Disc 5
1. composition
2. composition
3. solo
4. composition (Shuji Mitani)
5. 天現寺交差点の唄
6. 市ヶ谷の雪
7. solo
8. ミドソ
9. Nan Nan Nan
10. ドミシラ
11. 国立風のドレミ
12. 小ソロ
13. Highway
14. 小ソロ
15. Non titled Am
16. tired
17. 小ソロ
18. 仕事・青空
19. 最初の日
20. 末日記I
21. 末日記II
22. peter, why can’t stay with me tonight? (Ivers)
Disc 6
1. solo
2. 末日記I(心と魂と思い)
3. 枯葉I, II, III
4. 蝶
5. 腰くだけの犬
6. this side of paradise
7. 冬のサーファー
8. ネフェシェ
9. 雨
10. 8mmの昼食風景(アメリカン・ポップス風の昼休み)
11. ルーアハ
12. Deborah
13. good bye I, II
14. 7つの封印
15. 天現寺交差点の唄
16. 本質的にはお寒い話(相続財産(優先順位))
17. しびれるような柔和さ
18. Great Gothic Country Song
19. 薫
20. No Title
21. ギレコ
Disc 7
1. Duo with 平松薫
2. アルメニア民謡
3. 銭湯の為のインテリア・ディスプレイ
4. ゴシック カントリー ミュージック
5. 山岡さんの死
6. 21のシャーペンのリズム・事務員風の踊り
7. Peter at his third timesII~子供が帰った PartII
8. ネフィリム
9. クラリモンド 自転車に乗るクラリモンドよ恥を知れ
Disc 8
1. My body is his temple
2. Peter at his third timesI
3. 遠いけれど生々しい a suite
Disc 9
1. Sometime I feel like a motherless child (Spirituals)
2. 河口湖畔にて
3. 9月になれば
4. アメリカンポップス風の昼休み(8mmの昼食風景)
5. 冬のサーファー
6. Non titled Am
7. しびれるような柔和さ
8. this side of paradise
9. Deborah
10. こんな寒い夜は
11. 僕は戦車
12. unknown Happiness ‘of’ the past
13. guitar improvisation
14. pslm for you by 長原一郎
封入特典DVD
マヘル・シャラル・ハシュ・バズ(Maher Shalal Hash Baz) ライヴ
Date: 1987/09/17
Location: 吉祥寺JAV50(Tokyo)
Original 7 cassettes edited by Tori Kudo.
All recorded at Goodman, Ogikubo, Tokyo. (except as noted)
地下音楽の謎を塗り替える10時間の演奏記録。
灰野敬二、白石民夫、竹田賢一らと並び70年代末に勃興した東京地下音楽シーンを象徴するミュージシャン・工藤冬里。幼少時からピアノを嗜み、中学生の頃には地元高松のキャバレー・バンドでジャズ・ピアノを弾いていたというが、77年に上京して吉祥寺マイナーを中心に演奏活動を始めてからリリースされた作品の多くは、ピアノよりもオルガンやエレキギターをフィーチャーしていた。実際に筆者が80年代初頭に何度か観たライヴでは赤いエレキギターで素っ頓狂なフレーズを巻き散らす演奏が印象に残っている。’84年に結成した自己のバンド、マヘル・シャラル・ハシュ・バズでは主にギターとヴォーカルを担当し、90年代後半には優れたメロディメイカーとして国内外で注目を集めたりもした。シェシズやA-Musik、ジジキといった参加グループの作品でピアノを聴くことはできるが、70年代末に東京に現れた頃の工藤を知る者が口をそろえて「天才ピアニスト」と呼ぶ才能を十分に味わえる録音作品は存在しなかった。
そんなところへ突然、CD9枚+DVDという膨大なボリュームのボックスセットがリリースされた。工藤が定期的に出演していた荻窪グッドマンでの1984年~86年のピアノ演奏を中心とした10時間を超える音源である。特筆すべきは、単に未発表音源を寄せ集めたのではなく、80年代当時に工藤が自ら編集した7本組のカセットテープ(90分)のCD化であることだ。保存していたカセットテープを提供した園田佐登志によれば、これが個人的に渡されたのか、作品として販売されていたのかは定かではないとのことだが、インデックスに曲名やクレジットが丁寧な手書きで記されている(解説ブックレットに掲載)上に、グッドマンのライヴ音源だけでなく、ホーム・レコーディングなどを加えて編集が成されていることを考えれば、作品を意図して(園田によれば“たくらみや仕掛け、思いつきやアイデア”を“そこかしこに散りばめ”て)制作されたことは間違いないだろう。
そのたくらみや仕掛けや思いつきやアイデアは、当然ながら演奏に散りばめられ、というより満載されている。ほとんどが後付けと思われるダダイスティックかつ詩的なタイトルの楽曲には、過去の自作ナンバーやのちのマヘル・シャラル・ハシュ・バズのレパートリーのフレーズの引用や原型が多数聴き取れる。共演者では特に篠田昌已のサックスとフルートが印象的。ジャズの生活向上委員会でデビューし、地下音楽のPUNGO、ロック/ファンクのJAGATARA、クレズマー・ミュージックのコンポステラ、そして東京チンドンへと異端の道を歩いた篠田の憂いに満ちたサックスが、工藤の逸脱するピアノと絡み合う風流な演奏は、和的フリー・インプロヴィゼーションの理想形を見るようだ。篠田以外にも地下音楽の名手や、マヘル・シャラル・ハシュ・バズの中核メンバーが参加し、個性的なアンサンブルを聴かせる。
しかし何といっても素晴らしいのはソロ・ピアノである。工藤は小学校6年の頃からピアノで即興演奏をすることを自分に課していたという。“ある種の基準を定め、そこを超えないと、その日は終われない。ルート音などに束縛されず、非常に自由な状態で即興が出来て、解決を見たというところに行けば、演奏を終えて就寝する”(剛田武『地下音楽への招待』より)という訓練をずっと続けていた。当時のジャズの流行りのワン・コードのピアノ・インプロヴィゼーションや4度5度のアドリブは「敵」と考え、それらと違うところに行けるかどうかが勝負だ、自分でフリーなことしないといけない、と考えていたという。その訓練を20代半ばを過ぎた’84-’86年当時に続けていたかどうかは分からないが、子供の時に身に付けた習慣は年をとっても簡単には忘れないもの。基本的な心構えとして<完全自由な即興と解決>がある事は、何曲かある長尺のピアノ・ソロ(特にDisc 8)を聴けば明らかだ。これほどジャズからもクラシック(現代音楽)からも遠いピアノ・ソロは他には聴いたことがない。
当時の録音・編集機材の制約、カセットテープのヒスノイズ、そして何よりもライブ演奏時の“ノイズ”(観客や環境のノイズはもちろん、演奏者が意図的に加えたノイズも多数あり)を忠実に再現した音質が、あの時代のあの空気を生々しく伝えてくれる。SP復刻盤のように「歴史的録音」と注釈を入れるべきかもしれないが、39年前に何度か足を運んだ荻窪グッドマンで聴いた音楽は、記憶の中で正にノイズ交じりの音質で鳴っている。なぜなら記憶とは音楽だけでなく五感の刺激の集積、つまり自分の歴史なのだから。工藤冬里のピアノを聴きながら記憶の中に浮かび上がる風景は、輪郭のぼやけた幽霊に過ぎないが、自分の歴史の投影だとしたら、それはすなわち幽体離脱体験と言えるだろう。
いみじくも解説の中で工藤は本作(7本組カセットテープ)制作の動機をこう述懐している。「ジャズ界のヒエラルキーが残る特殊な場所との拮抗を記録したかったのです」。別稿で書いた筆者のジャズとの接点の喪失体験の現場での演奏記録は、筆者が諦めずにジャズとの接点を持とうと演奏し続けたパラレル・ワールドからの呼び声なのかもしれない。(2021年6月3日記)
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