#1260 『十中八九』
text Kenny Inaoka 稲岡邦弥
アンモナイトレコード/地底レコード
AMMO-001 2,500円(税抜)
不破大輔:ダンドリスト
佐野テルマサ信行:Trumpet、Fluegelhorn takasy:Trumpet、Fluegelhorn
DETCHI:Alto Saxophone 三浦 翔:Baritone Saxophone
朔羽:Violin
Licca:Vocal 織内竜生:Vocal&Guitar
ゲリラ:Guitar
Chiharu:Piano
室井潤:Bass
石山雅宏:Drums 浦島 渉:Drum B-sic:Beatbox 小松崎政雄:Percussion(ゲスト・M1,M4)
あかね:Chorus(ゲスト・M6)
ユアサミズキ:Art, Design & Vocal 会田勝康:Art & Vocal 佐藤創:Art とっくん:Art
Okayan:Dance ゆっきい:Dance Yumiko Omori:Dance
おーひら:Direction & Art
前田優子:Direction
1. エレファントカシアリ:織内竜生 作詞・作曲
2. Russian Driving:佐野テルマサ信行 作曲
3. 蛙のうた~るるる葬送:草野心平詩集「定本蛙」より / 織内竜生 作曲
4. 室井印刷所のバラード:佐野テルマサ信行 作曲
5. じゃんがスカ:織内竜生 作曲 / いわき郷土芸能「じゃんがら念仏踊り」より
6. よくばり:Licca 作詞・作曲
7. 今夜はアンモNight:織内竜生 作詞・作曲
8. ふたばちゃ~ん:織内竜生 作詞・作曲
9. moon:takasy 作曲
10. フタバスズキリュウ:佐野テルマサ信行 作曲
11. 流星群:佐野テルマサ信行 作曲
12. ブルボンじいちゃん:佐野テルマサ信行 作詞・作曲
録音:
2015年5月16日&17日@Bar Queen(M1~M11)
2015年6月15日@いわきアリオス(M12)
レコーディングエンジニア:田中篤史
マスタリング:石崎信郎
プロデュース:不破大輔
8月にアルバム『十中八九』をリリースしたいわき市のパフォーマンス集団「十中八九」が11月にリリース記念ライヴを決定したという。充分な手応えを感じたのだろう。その前には街なかコンサート、選抜メンバーと沖縄のミュージシャンによる沖縄ライヴも予定されているというから、大変な盛り上がりだ。
「十中八九」は、2年前にいわき市で行われた「渋さ知らズ」のダンドリスト(プロデューサー)不破大輔とキー・メンバーによるワークショップに共鳴した地元の学生、教師、医師、デザイナーなど20数名で結成された音楽、ダンス、アートなどを中心とするパフォーマンス集団。演劇性とエンタテインメント性を大きく打ち出しヨーロッパを中心に大成功を収めた音楽集団「渋さ知らズ」を手本としながらも、いわき市に基盤を置き内容的にもいわき市という地域性を強力にアピールしている点で「渋さ知らズ」のコピーバンドに堕すことを巧みに避けている。これは彼らを指導してきた不破の賢明な選択である。
たとえば、M3<蛙のうた~るるる葬送>は、蛙の詩で有名な郷土の詩人草野心平の詩集の一編に織内竜生がジャズ・ファンク調の曲を付けたものだ。織内はメンバーのひとりでメイン・ヴォーカルとギターを担当しているが、本職は医師である。織内の若さ溢れる力強く明るい歌声がこのバンドのカラーに大きく寄与している。M5<じゃんがスカ>は、郷土芸能「じゃんがら念仏踊り」をヒントに同じく織内が作曲、NHKの朝ドラ「あまちゃん」のテーマで市民権を得たジャマイカのスカのリズムを使っている。M8<ふたばちゃ~ん>とM10<フタバスズキリュウ>は、文字通りいわき市から発掘された白亜紀の首長竜「フタバスズキリュウ」を歌ったもので、織内と佐野テルマサ信行の競作になっている。トランペットの佐野テルマサ信行は、日野皓正に引っ掛けたネーミングであることは一目瞭然で、遊び心も満載である。彼らはその道のプロではなく、アマチュアである。市井の人たちである。アルバムのあちこちから街の顔がのぞき、街の声が弾け飛ぶ。
いわき市は東日本大震災の被害の中心ではなかっただろうが、原発事故では少なからず影響を受けたはずである。不破の胸には沈む市民の心を鼓舞したい気持ちが少なからずあったに違いない。その心情と行動がいわき市民を動かし大きなうねりとなりつつある。私事にわたって恐縮だが、僕が所属する(社)ふるさと未来研究所では縁があって、いわき市でいくつかのプロジェクトを起こすべく何度か現地へ足を運んだ。少なくとも大災害の直前までは。いま、“人間賛歌”ともいえるこの『十中八九』を聴き、いわき市の人たちが雄々しく未来に向かって突き進んでいる姿を目の当たりにすることができた。そして、音楽やアート、パフォーマンスがその原動力となっていることに心から感動している。