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CD/DVD DisksReviewsNo. 222

#1342 『 mostly other people do the killing / MAUCH CHUNK 』

text by Yumi Mochizuki  望月由美

hot cup Records  hot cup 153

Jon Irabagon(as)
Ron Stabinsky(p)
Moppa Elliot(b)
Kevin Shea(ds)

1. Mauch Chunk is Jim Thorpe (for Henry Threadgill)
2. West Bolivar(foe Caetano Veloso)
3. Obelisk (for Dave Holland)
4. Niagra (for Will Connell)
5. Herminie (for Sonny Clark)
6. Townville (for Brieanne Beaujolais)
7. Mehoopany (foe Frank Fonseca)

Produced by Moppa Elliot
Engineer: Ryan Streber
Recorded May 23rd, 2015 @Oktaven Audio

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モッパ・エリオット(b)のグループ「Mostly Other People Do the Killing」の新作

前作『BLUE』(Hot Cup Records 2014) ではジャケットもブルー、CDの印刷面もブルー、インナー・スリーブもブルーとすべてがブルー一色、演奏もマイルスの『Kind of Blue』(COLUMBIA 1959) の完全コピーという徹底ぶりでこのグループの偏狂ともいいいたくなるほどのこだわりが面白かったが、ジョン・イラバゴンが多重録音でコルトレーン (ts)とキャノンボール (as)を吹き分けて演じていてイラバゴンのジャズへのスタンスが分かる面白い作品でもあった。

今回は全曲モッパ・エリオット (b) の作曲とあってモッパ色が濃く反映されている。

アルバムのライナーノーツにはペンシルベニア州の街マウフチャンクとアメリカの伝説的なアスリート、ジム・ソープにまつわる物語が載せられている。

曲名もマウフチャンクに関連した名前になっている。そしてさらに副題にヘンリー・スレッギル (reeds) やデイヴ・ホランドオ (b) 等に捧げるなどと記されている。

モッパらしいひとひねりひねったタイトルであるが演奏の方は至極まっとうで、興味の的はもっぱらジョン・イラバゴン (as) の過激な演奏にある。

本作のジョン・イラバゴンは全曲をアルト1本に徹している。

(1)< Mauch Chunk is Jim Thorpe (for Henry Threadgill)>ではファンキーなテーマをかなりオーバー・ファンクに吹いた後いきなりパワー全開、フリーなソロをとるあたり快調そのもので、硬質で芯の太いサウンドはアンソニー・ブラクストン (reeds) の『FOR Alto』(Delmark 1970)をリファインしたような力強さである。

因みにブラクストンの『FOR alto』も全曲ジョン・ケージ (comp) やセシル・テイラー (p) 等に捧げるという曲名が付けられていた。

フリーと伝統のはざまを軽々と往き来しながら表現の幅を広げてゆくジョン・イラバゴンに純粋に音を出すことによろこんでいる姿を見ることが出来る。

(2)<West Bolivar> (foe Caetano Veloso)は一見ボサノバ調で始まるがそこは「Mostly Other People Do the Killing」である、ダンサブルなリズムに乗ってイラバゴンが倍速で吹ききる辺り、まるでアケタ (p) のトリオに闖入した林栄一 (as) がソロをとっているような奇想天外なシーンが繰り広げられる。

(5)<Herminie (for Sonny Clark)>は副題をソニー・クラーク (p) に捧ぐ、となっているがここでのイラバゴンはジョン・ゾーン (as) のようなごつごつとしたトーンで吹ききる。

以前ジョン・ゾーンもソニー・クラーク (p) 作品集、『The Sonny Clark Memorial Quartet / VOODOO』(Black Saint 1985)を発表しているしニューヨークのシーンでは今でもソニー・クラークに着目しているようで興味深い。

YouTube で MOPDTKのライヴを見ると演奏中にドラム・セットを蹴飛ばしたりボードを倒したりと一時代前のフリーのようなステージ・アクションが見られるが音楽そのものはいたって真面目でむしろジャズの伝統に異常なまでに執着しているような作品創りが多かった。

『MAUCH CHUNK ╱ mostly other people do the killing』は普通の主流派のビ・バップのスタイルをとりながらハッとするような仕掛けが施されていて「MOPDTK」はやっぱりひと味違うよ、と話しかけてくる。

とりわけ、パーカー、マクリーン、オーネット、ブラクストン、そしてジョン・ゾーンにいたるまでのアルトの系譜をたどるようなジョン・イラバゴン(as) のソロは十分聴き応えがある。

ジョン・イラバゴン (as) は今年の春、自主レーベル「Irabbagast Records」からソプラニーノによる完全無伴奏ソロ・アルバム『Inaction is An Action』とトム・ハーレル (tp) を入れた2管のクインテットのよるオーソドックスなスタイルの『Behind the Sky』とを同時に発表した。とりわけ『Inaction is An Action』でのソプラニーノによるソロは楽器の機能の極限をこえるような試みが行われていてブラクストンのアルトによるソロ『FOR Alto』の域に到達したことを世に示したものであった。

37歳にしてこの領域に達したイラバゴンが存分に暴れまわれる場である「Mostly Other People Do the Killing」の次の作品はどのような企画で登場するのか心待ちしている。

望月由美

望月由美 Yumi Mochizuki FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

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