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CD/DVD DisksNo. 303

# 2255『アビシャイ・コーエン&アブラハム・ロドリゲス Jr./イロコ』
『Avishai Cohen & Abraham Rodriguez Jr. / Iroko』 

text by Keiichi Konishi 小西啓一

NAIVE KKJ-216

Avishai Cohen (bass and vocals)
Abraham Rodriguez Jr (conga and vocals)
Virginia Alves (vocals)
Horacio ‘ El Negro’ Hernandez (drums, percussion)
Yosvany Terry (saxophone, chekere)
Diego Urcola (trumpet, trombone)

1.The Healer
2.Abie’s Thing
3.Tintorera
4.It’s A Man’s World
5.Descarga Para Andy
6.Avisale A Mi Vecina – Iroko
7.Thunder Drum
8.Exodus
9.A Bailar Mi Bomba
10.Crossroads
11.Venus
12.A La Loma De Belen
13.Fahina
14.Fly Me To The Moon

Recorded at Strange Weather, Brooklyn, NY. January 16th – 18th 2022Recorded and Edited by Javier Lemon (Casa Limon Studio Madrid, Spain) September 25th – 27th 2022


今、ジャズをワールド・ワイドな視点で眺めた時、本場のアメリカ(我が日本も含め)以外で最も意欲的で刺激的な活動を展開している国(都市)として、イギリスのロンドン(サウス・ロンドン)とイスラエルのテルアビブを挙げることに、否を唱える人はあまりいないはずだ。シャバカ・ハッチングスなど生きの良いミューシャンを数多く輩出するロンドン地域。一方首都テルアビブを拠点としたイスラエル・ジャズには、アメリカ戻りのミュージシャンも少なからずいるようだが、その中心にいるのが先日の来日公演も大盛況だった人気者、俊才ベーシストのアビシャイ・コーエン。圧倒的なテクニシャンにして、イスラエルならではの独特のテイストを感じさせる音楽を提供する彼。その新作がラテン・ジャズ関連もの…と聞いて、この手の音楽に目の無いぼくは直ぐに飛びついてしまった。アルバム・タイトルは『イロコ』。
アビシャイとラテン・ジャズ、一見何とも意外な結びつきのようだが、その要点がNY ラテンの大物~アンディとジェリーのゴンザレス兄弟だと知って納得した。アビシャイが地元のイスラエルから 90 年代初めに NY に来た時、師事した(?)のがアンディだとも言われ、その関係はかなり深いもののようだ。この新作でもアビシャイの NYラテン・コミュニティへの愛と憧憬が、ほのかに感じとれるのだが、アルバム自体も敬愛するアンディと兄ジェリーの亡きゴンザレス兄弟に捧げられている。そして彼ら兄弟はこのアルバムのもう一人の主役、ニューヨリカン(NY 育ちのプエルトリコ人)の歌手/コンガ奏者のアブラハム・ロドリゲスJR にとっても師匠格的存在。NY に渡ったばかりの頃に始まったアビシャイとロドリゲスの交友、それは30 年近い年月を経てこのデュオ作(スペインの女性シンガー、ヴァージニア・アウベスも数曲で参加)として結実したわけだが、アビシャイの長年の夢の実現ともされるこのラテン・ジャズ・プロジェクト作は、同時に兄弟の存在無くしては生まれなかった…とも言えそうである。
さてこのタイトル『イロコ』だが、ナイジェリアのヨルバ族の伝承で偶物を捧げて崇める“木”の意味で、精霊が宿っていると信じられている“霊木”を指すようである。となるとここでのアブラハム・ロドリゲス JR のチャントは、“サンテリア” 等とも相通じるヨルバ族の土俗的宗教歌といった趣きで、こうした宗教歌はキップ・ハンラハンの ”アメリカン・クラーベ“ の作品の中にも散見されたもので、ぼくのかなり苦手とする世界。いささか荷が重い感もあったのだが、アフロ・キューバンのクラーベのリズムを基調にした、アビシャイの豪放に紡がれるベース、アブラハムのチャントと力強いコンガ叩き、これらの融合は不可思議な魅惑と生命力を帯び、想像以上に心地良く響く。アルバムは全 14 曲収録で、当然ヨルバ語チャント(&シング)がメインになるわけだが、それらの中にジェームス・ブラウンの<イッツ・ア・マンズ・ワールド>(④)、イスラエル建国を描いた帝国主義的大作映画『エクソダス』の主題歌(⑧)、スタンダードの<フライ・ミートゥ・ザ・スター>(⑭)など、英語で歌われる数曲が混在しており、ドゥワップとキューバン・ルンバを組み合わせた“ドゥワップ・ルンバ”で唄われるこれらのナンバーが、仲々に愉しいもので独特のアクセントと輝きをアルバムに付加しており、ここら辺もこの作品の興味深いところでもある。
ところで最初このアルバムの存在を聞かされた折り、オラシオ・エルネグロ(ds)、ヨスバニ・テリー(sax)、ディエーゴ・ウルコラ (tp) といった、ラテン・ジャズ・オールスターズといった感じの面々が参加…という触れ込みだったので、これはかなりな驚き…と思ったのだが、実際にはこのデュオ・アルバムのリリース・ツアーのメンバーたちと判明、かなりがっかりしたものだった。まあしかしこのデュオ・アルバム自体もかなり愉しめたし、これらのツアー・メンバーを加えたアルバム、これが実現すればアビシャイの “夢” もより発展したものになるだろう。さらにはラテン・ジャズ・シーンの話題になることも必至で、その実現にも大いに期待したいものである。

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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