#2287 『Lee Ritenour & Gentle Thoughts / Gentle Thoughts』
『リー・リトナー&ジェントル・ソウツ/ジェントル・ソウツ』
text by Tomoyuki Kubo 久保智之
ビクターエンターテイメント
NCS-77001
Lee Ritenour (g)
Dave Grusin (key) <Tracks: 1-3>
Patrice Rushen (key) <Tracks: 4-6>
Ernie Watts (reeds)
Anthony Jackson (b)
Harvey Mason (ds)
Steve Forman (perc)
1. Captain Caribe ~ Getaway
2. Chanson
3. Meiso
4. Captain Fingers
5. Feel Like Makin’ Love
6. Gentle Thoughts
Producer : Mah Young
Associate Producer : Lee Ritenour
リー・リトナーが1977年〜1983年にリリースしてきたダイレクト・レコーディング・シリーズ5枚が、このたび最新リマスタリング/UHQCD化されて再リリースされた。そのうちの1枚。
リー・リトナー&ジェントル・ソウツのデビュー・アルバム。1977年の作品である。
本アルバムの最も大きな特徴は、「ダイレクト・カッティング」という録音手法だ。1977年の当時のレコーディングにおける音質劣化の大きな原因となっていた、磁気テープによるノイズなどの影響を取り除くため、スタジオでの演奏を磁気テープを介さずに直接アナログ盤のラッカー盤に刻みこむ、という手法で録音を行っている。この手法をとる場合には、アナログ盤の片面に収める曲をすべてを連続して演奏する必要がある。録音後の修正が一切できないため、演奏のミスが許されないのはもちろんのこと、楽器の音色の切り替えなどにもミスが許されない。また各楽器の音量や音の定位、イフェクトの調整など、ミキシングに関連するミスも一切許されない。とてもスリリングな条件下でのレコーディングとなる。そのような過酷な条件の中でも〈キャプテン・フィンガーズ〉のようなキメだらけの曲を楽々と演奏してみせリスナーの度肝を抜いたが、演奏者側も収録中は相当なアドレナリンが出ていたのではないか。非常にアツい演奏を聴くことができる。
「ダイレクト・カッティング」という手法は、ノイズの少ないクリアな音で録音ができるということも大きなメリットなのだろうが、この「ミスが一切許されない状態で20数分の生演奏を一気に録音する」という、演奏上の緊張感が生み出されるということも大きなポイントなのだろう。
本作品のミュージシャンは、キーボードにデイヴ・グルーシンとパトリース・ラッシェン、サックスにアーニー・ワッツ、ベースはアンソニー・ジャクソン、ドラムはハーヴィー・メイソン、パーカッションはスティーブ・フォアマンという凄腕揃い。演奏曲として、高速ユニゾンなどがありミスの目立ちやすい超難曲を選び、世の中に「自分たちはどんな難曲でもミスをしない」という凄さも見せつけたアルバムとなった。音質の良さのみならず、緊張感の中に様々なテクニックの詰め込まれた、とても濃密で聴きごたえのあるアルバムだ。
またアルバムのジャケットには、LPサイズからCDサイズに縮小されているため文字はとても小さいが、各楽器に使われたマイクの型番なども細かく記録されている。このアルバム録音時の高音質へのこだわりもひしひしと伝わってくる。
本作品には、同一曲ながら別テイクの演奏が収められた「TAKE2」盤があり、今回はその「TAKE2」盤もリリースされた。そのアルバムについてはこちらを参照されたい。
また、今回の「リー・リトナー ビクター・イヤーズ」(ダイレクト・レコーディング・シリーズ)で再発された各作品は次のとおり。