#2288 『Lee Ritenour / Friendship』
『リー・リトナー/フレンドシップ』
text by Tomoyuki Kubo 久保智之
ビクターエンターテイメント
NCS-77004
Lee Ritenour (g)
Dave Grusin (key)
Don Grusin (key)
Ernie Watts (reeds)
Abraham Laboriel
Steve Gadd (ds)
Steve Forman (perc)
1. Sea Dance
2. Crystal Morning
3. Samurai Night Fever
4. Life Is The Song We Sing
5. Woody Creek
6. It’s A Natural Thing
Producer Toshi Endo
リー・リトナーが1977年〜1983年にリリースしてきたダイレクト・レコーディング・シリーズ5枚が、このたび最新リマスタリング/UHQCD化されて再リリースされた。そのうちの1枚。
リー・リトナーの「ダイレクト・カッティング」シリーズ第3弾。1978年の作品である。
本アルバムは、「ダイレクト・カッティング」第2弾『シュガーローフ・エクスプレス』とは打って変わって、ダイレクト・カッティングによる「一発録りの緊張感」が非常に高い作品だ。
アルバムの白眉はなんといっても一曲めの〈Sea Dance〉だろう。4度重ねのハーモニーでトップノートがコンビネーション・オブ・ディミニッシュ的に動くという怪しげなイントロから始まったかと思うと、7/8, 6/8, 8/8が入り乱れる変拍子が続くという、「一発録り」ではあり得ないような展開が続く。ドラムは、これまでダイレクト・カッティング・シリーズでおなじみだったハーヴィー・メイソンは今回はスティーブ・ガッドに代わり、タイトなドラミングがその変拍子を力強く支えている。曲後半のドラム・ソロ部分では、7/8で繰り返すだけでなく途中では8/8や6/8も挟み込むようなトリッキーなフレーズもあり、それがまたこの曲の緊張感をさらに高めている。後半はなんとなく1/8足りないようにも聴こえるところもあるが、どのような譜割りになっていたのか非常に興味深い。それにしても何度聴いても「一発録りのダイレクト・カッティング」ということが信じられないような、本当に凄い演奏だ。
キーボードはデイブ・グルーシンとドン・グルーシンの二人だが、アコースティック・ピアノ、エレクトリック・ピアノに加え、クラビネットのようなサウンドも聴こえ、一発録りとは思えないような多くの楽器が聴かれることにも驚かされる。
〈Sea Dance〉の説明が続くが、エレクトリック・ピアノは、リー・リトナーのギターソロのバックでのパーカッシブなバッキングが秀逸で、ギターと一体となって場を盛り上げていく部分がとても印象的だ。ギター・ソロの間は、エレクトリック・ピアノとギターが呼応しあって昇りつめて行くように感じられるが、特に2:55あたりでエレクトリック・ピアノのトップノートが「G→Ab→A→Bb→B」と半音で上っていくところ、コードでいうと「Em7→Am7→D7#11→G△9→Db13→C△7」といった流れの心地よさ、そしてそれに続くギターのハーモニック・マイナーっぽい感じのつながりなど、スリリングかつとても美しく、聴くたびに鳥肌が立つ。その後のピアノの16分の刻みとギターの16分のフレーズの絡み合いは、もはやどちらのソロなのかがわからなくなるような、とてもエキサイティングな展開だ。ちなみにこのエレクトリック・ピアノの演奏者は、勝手にデイヴ・グルーシンではないかと思っていたが、youtubeで見つけた1978年のスタジオ・ライブの動画(本記事後半に添付)を観た感じでは、ドン・グルーシンがほぼ同じような演奏をしていたので、このソロのバックもドン・グルーシンなのだろう。
全体を眺めると、「ダイレクト・カッティング」という編集なしの録音でもあり〈Sea Dance〉のような超難曲があるスリリングな内容ながらも、なぜかリラックスした余裕のようなものも感じるとても不思議なアルバムだ。バンドメンバーも録音スタッフも『ジェントル・ソウツ』から「ダイレクト・レコーディング」に関する経験を積んできて、もはやこの程度のストレスはなんとも思わないということかもしれない。バンドメンバー、録音スタッフのこれまでの経験を活かしながら、さらなる高みを目指して制作されたアルバムということなのだろう。リー・リトナーの「ダイレクト・レコーディング」シリーズ中の最高傑作と言えるだろう。
<〈Sea Dance〉の1978年のスタジオライブ演奏>
今回の「リー・リトナー ビクター・イヤーズ」(ダイレクト・レコーディング・シリーズ)の各作品は次のとおり。