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CD/DVD DisksNo. 310

#2300 『川嶋哲郎 with Chaka String Quartet/ア・ウォーク・イン・ライフ』
『Tetsuro Kawashima with Chaka String Quartet / A Walk in Life』

text by Keiichi Konishi 小西啓一

SPACE SHOWER NETWORK  DDCB-13055 ¥3,300(税込)

1.Dear Days
2.A Walk in Life
3.Sunrise Flight
Suite Emotion(4~7)
4.Desire
5.Pathos
6.Modulation
7.Aspiration
8.Sunset Voyage
9.Llanos Wind
all composed & arranged by Tetsuro Kawashima

川嶋哲郎 (ts, fl, cl, b-cl)
SAYAKA (Chaka String Quartet/ 香月SAYAKA)
岡部洋一 (perc)

Recording & mixing engineer: Kentaro Kikuchi
Recorded at Ideal Music Fabrik, October 2023
Mixed at KK Studio, October, 2023
Mastered by Yoei Hashimoto at Aubrite Mastering Studio, November 2023
Produced by Takashi Tannaka 淡中隆史


『ア・ウオーク・イン・ライフ』。“人生を歩く…” はたまた “人生という旅路…” とでも訳すのだろうか。日本のテナー・シーンの最前線を疾駆し続けてきた川嶋哲郎、4年振りとなる待望の新作である。タイトル・チューンはアルバム2曲目に収録されているが、アルバム全体の、ひいては川嶋というミュージシャンそのものを象徴するような、仲々に良いタイトルでもある。

洗足音大の教え子達による総勢20名近い木管オーケストラをバックに、故郷の川をテーマにした雄大な組曲〈ソウ〉等を、サックスで豪快に歌い上げたり、彼らと精緻に刺激的に絡み合ったりと…、聴かせどころ満載の挑戦的アルバム『ウオーター・ソング』。初の全編自作&編曲となったこの前作に対し、今回の新作はラテン・ジャズの世界などでも活躍するバイオリン奏者、さやかがリーダーの「チャカ・ストリング・カルテット」という小編成ユニットを相方(曲によって岡部洋一のパーカッションも加わる)にしたもので、組曲作りにこだわる彼らしく”熱望““調和“など4部構成の”組曲エモーション(情感)“をメインに据え、これまた聴き応え充分な全9曲の構成。前作とはバックの規模の大小という違いはあるが、その曲作りや(ストリングス&自身担当の木管アンサンブル等)編曲の妙など、様々な面でその成果をさらに深化・充実させ、さらにはピアノやベース、ドラムといったリズム隊を伴わずに、自身の新たな表現地平を色彩感豊かな形で、果敢にそして鮮やかに切り開いている。ここではあの未曽有のコロナ禍を乗り越えた川嶋哲郎という卓抜なサックス吹き、その現在の率直な心情や人生への向き合い方(歩き方)を、聴き取り・読み取ることもできる。ある意味で前作がサックスによる情景描写としたら、こちらは卓抜な心象表現とでもいった感じか…。

いうまでもなく川嶋はわが国きってのサックスの達人だが、同時に書き手としても(音楽エッセイなど)無類の人でもあり、さらには人生そのものの達人だとも言える。その証左ともなるのが、彼が長年にわたってジャズ・ライフ誌に連載しているジャズ・コラム「気ままにジャズ・エチュード」(書籍化を望む)。その音楽観(ジャズ)を超え含蓄豊かな人生談にまで達する、様々に愉しめるこの「ジャズ・エチュード」は、気ままで愉し気、飄々として恬淡、しかも透徹した眼差しの持ち主でもある川嶋哲郎という“漢”のある種の神髄を浮き彫りにする。〈ディア・デイズ〉というアルバム冒頭のオリジナルが象徴しているように、日々を愛しみ人生そのものを愉しむ…、その達観した軽やかな足取りとその美点、それらがこの新作には存分に詰まっている。

悠々として力みのない、風格に満ちたサックスの歌い上げ。優し気にそのプレーに寄り添い、時に少し厳しめに相対する、躍動感溢れたさやか以下の手練れストリングス陣。なによりこの両者の親和性が心地良く嬉しい。好漢川嶋ならではの印象的な逸品だ。

©2023 Ryuichiro Suzuki

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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