#329 『MIZUHO / Waltz for Moonlight』〜Hear, there and everywhere #1
PonyCanyon PCCY-30233 ¥2,778+税
MIZUHO (vocal)
Tiger Okoshi (trumpet, flugelhorn) タイガー大越
Bill Frisell (guitar) ビル・フリゼール
Luke Burgman (bass) ルーク・バーグマン
Ted Poor (drums) テッド・プア
01.Fly Me To The Moon
02.Moonlight In Vermont
03.When You Wish Upon A Star
04.Moonglow
05.Old Devil Moon
06.Waltz for Moonlight*
07.It’s Only A Paper Moon
08.Moonlight Serenade
09.Moon River
10.Moonlight Sonata
*Words by MIZUHO Music by Ken Yahara
Recorded & mixed at Avast! Recording, Seattle, August, 2016
Engineer: Adam Bird
Recorded at Fixe, Sapporo, 2016
Engineer: Toshiaki Nishioka
Mixed at Record Company, Boston, September 2016
Engineer: Matt Beaudoin
Mastered at PonyCanyon Mastering Room, October 19, 2016
Mastering engineer: Yuta Tada
Produced & directed by Tiger Okoshi
Executive producer: Ken Yahara for house of jazz
ヴォーカルの音像処理のバランスが特徴的。バックが空間感を強めていることと対立を感じる。
ギターとのデュオのトラックは見事だ。ミックス時の配慮が効を奏している。 ギターの透明感あるサウンドが強烈に印象的。透明感を伴って音場を造りトランペットと気持ちのいいサウンドを構成。 エフェクトも取り込んでバックに謎の音源が浮遊する。
Hear, there and everywhere #1
text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
札幌を本拠地に活動を展開するコンサドーレ(道産娘)MIZUHOの6作目、月が大好き、というMIZUHOの願いが叶い、月をテーマにしたアルバムだ。「満ちては欠けるお月様は、優しい存在ですね。しかも不思議なことに、いつ見上げても、懐かしくて新しい月の姿に出会えますね」という彼女の月に寄せる心情が全編にみなぎっている。それを実現に導いたのが、プロデューサーでアレンジャー(トランペットとフリューゲルホーンでも参加)のタイガー大越とビル・フリゼール・トリオだ。それに、タイトル・チューンになった<ワルツ・フォー・ムーンライト>でMIZUHOの詩に曲を付けたパートナーの箭原顕(やはら・けん)。月に因む古今の名曲の間に1曲カップルのオリジナルを滑り込ませた。ビル・フリゼール・トリオとの演奏だから満願成就というべきだろう。タイガー教授もラッパで絡んでる。
夢幻的なフリゼールのギターとMIZUHOのヴォーカルがいきなり拉致する月の世界。このスペイシーな浮遊感はフリゼールとMIZUHOならではだろう。ECMのフリゼールは充分浮遊感に飛んでいたし、MIZUHOのヴォーカルももともと重力感には無縁に近いと言えるだろう。そのふたりが月に遊ぶ、月と遊ぶ。そのトーンが全編を貫いている。加担をするのがミュートのかかったタイガーのラッパだ。しかし、そこはタイガー教授。ふたりを夢遊状態に放置しておくわけではない。<オールド・デヴィル・ムーン>のロックビートで目覚めさせ、<イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン>でスインギーに踊らせる。<ワルツ・フォー・ムーンライト>は文字どおりジャズ・ワルツだが、ややJポップ風でもある、という按配。フリゼールのギターとMIZUHOのヴォカリーズをフィーチャーしたクローザーの<ムーンライト・ソナタ>(ベートーヴェンの「月光」>は、満月に舞う優雅な天女の趣き。夢の中のワン・シーンであっても良い。
タイガー大越とビル・フリゼールはバークリー時代のバンド仲間だと聞くが、単なるフレンドシップだけで実現できるプロジェクトではない。バークリー大の教授とギター界の重鎮の一人としてお互いを認め合うミュージャンシップあっての共演に違いない。ビル・フリゼールのレギュラー・トリオとの共演に敬意を表しタイガーとMIZUHOはシアトルに飛んだ。その甲斐あっての大いに実りある成果であり、バークリー音大の学長まで務めた恩師ゲイリー・バートンをゲストに呼び出した前作『Romantic Gershwin』とともに、プロデューサー タイガー大越の目を見張る手腕である。タイガーからのまたとないギフトはMIZUHOにとって厳しい試練でもあるだろうが、それを見事にクリアしていくMIZUHOの底知れぬ可能性は端倪すべからざるものがある。(本誌編集長)