#347 『ショローCLUB/from 1959』〜Hear, there and everywhere 6
「及川公生の聴きどころチェック」今月の8枚
芳垣安洋 (Drums & Percussion)
大友良英 (Electric Guitar)
不破大輔 (Contra Bass & Electric Bass)
Guest:
山本精一 (1,3:Electric Guitar 5,6: Electric Guitar & Vocal )
1. Lonely Woman (Ornette Coleman)
2.ラジオのように:Comme à la radio (Belkacem Areski)
3. session -2016- (芳垣・大友・不破・山本)
4. First Song (Charlie Haden)
5. ひこうき(作詞:石川啄木 作曲:不破大輔)
6. SORA (作詞:山本精一 作曲:大友良英)
Live Recording:河野悟 at Tokuzo (2016.11.30)
Mixing & Mastering:益子 樹 at FLOAT
Produced by 脇田妙子
エレクトリックの爆裂サウンドを、骨太で開放感たっぷりの音像群で捉え、アコースティックを良音質、明確で切り立ったシャープな音像形成で低音群を構成。素晴らしい録音だ。エレクトリックが左右空間を濃厚に埋め尽くす音量感は、たまらない魅力だ。ドラムとのバトルに、ちょっとした空間感が感じられ、ライブスペースの雰囲気が開放感に繫がる。収録、ミックス技術が、充満という音量感に繫がっていて混濁にならず、しっかりと整理されているのに驚嘆。
Hear, there and everywhere 6
Kenny Inaoka 稲岡邦彌
ショーロクラブが巷の噂になっていると耳にしたのは5月の初め頃だったろうか? 武満徹に次ぐエポックメイキングな作品を発表したのかとネットで探ってみたがそれらしき情報はヒットしなかった。それからまもなくして地底レコードの吉田さんから新譜の案内が届いた。開けてみると「ショローCLUB」とある。ウン? よくよく目を凝らして見ると「ショローCLUB」。あちらは確か「ショーロクラブ」のはず...。アルバム・タイトルは『from 1959』。案内文を読んでやっと合点がいった。1959年生まれの3人の初老のミュージシャンたち、芳垣安洋 (ds)、大友良英 (g)、不破大輔 (b) が新たに結成したトリオが「ショローCLUB」だったのだ!今度は正確に「ショローCLUB」と入力して検索するとショーロクラブと前後して色々出てくる...。これは完全に確信犯だね。老舗のショーロクラブに対する意図的類似商標(商法?)。念のため確認して見ると老舗の方には一応挨拶をし、同意を得ていると。そりゃあそうだろう、芳垣、大友、不破のむくつけき強面(こわもて)3人に仁義を切られたら、あのアコースティックの極致ショーロクラブが嫌と言えるはずもないだろう。ジャケットには「ショロークラブ」の表記もあるが、帯には“初ツアー「ショローCLUBの回春行脚 2016名古屋編」から選りすぐりの演奏を収録した待望のCDがここに完成!”とあるから、「ショーロクラブ」のファンが誤ってこのCDに手を出すことはよもやないだろう(地底レコードには気の毒だが)。
内容は前半3曲がカオス、後半3曲がカタルシスといったところ。M1とM2は泣く子も黙るオーネット・コールマンとアート・アンサンブル・オブ・シカゴ。M1とM3に山本精一がギタリストとしてゲスト参加、後半は彼のヴォーカルがフィーチャーされる。M1の<ロンリー・ウーマン>。大友のギターのハウリングのような効果音、山本のギターとエレキベースの爪弾き、芳垣のブラシのざわめきが何かを予兆させゾクゾクするようなイントロで幕が開く。やがて大友がメロディーを繰り出しディストーションのかかったギターでノイジーに展開、芳垣のドラムスが煽る中エレキベースが疾走、山本のギターがカウンターメロディーをぶつける。こうなるとイアフォーンやヘッドフォーンでは我慢ができず、大音量のスピーカーで音圧を受けながら音楽を全身に浴びたい欲求に駆られる。70年代、80年代、僕らがジャズ喫茶に日参したのはいち早く新譜に触れたいこともあったが、日本の住宅事情では叶わない大音量でジャズを浴びたかったからだ。M2の<ラジオのように>、山本が抜け、ベースパターンとリズムパターンが繰り返される中、大友によるブリジット・フォーンテーヌのヴ ォーカル・メロディーが形を変えながら何度かリピートされ、徐々にクレッシェンド、クライマックスを迎える。M3は4者によるフリー・インプロヴィゼーション。アブストラクトなスタートからインテンポでの大友と山本のツインギターによるせめぎ合いはヘヴィメタ風で思わず笑みがこぼれる。
これはショローの回春行脚ではなく、セックスレスと言われる現代の青壮年の回春のための音楽ではないのか。青壮年はすべからくショロークラブを聴いて回春に励むべし!M3以降、チャーリー・ヘイデンのバラード、石川啄木、山本のとっておきのヴォーカルなど気持ちの良いカタルシスも用意されている。不破雷同など微塵もない、際立つ個性とアンサンブルのショロークラブに万歳だ!(本誌編集長)