#363 『本田珠也トリオ/セカンド・カントリー』
「及川公生の聴きどころチェック」今月の9枚
本田珠也 (ds,marimba)
守谷美由貴 (as,ts)
須川崇志 (b)
Special Guest:
峰厚介 (ts/on track 5)
1. Haevest Moon(守谷美由貴)
2. M’s Dilemma(守谷美由貴)
3. むかしむかし(守谷美由貴)
4. Key Man(本田珠也)
5. 宮古高校校歌(本田幸八)
6. Mad House(守谷美由貴)
7. Awakening(本田珠也)
8. Second Country(本田竹広)
9. Samba de Orfeu(Luiz Bonfa)
10. This love of Mine(Sol Parker)
Recorded at Studio DeDe, Feburary 2,3, 2017
Recording & Mixing Engineer:Shinya Matsushita
Mastering Engineer:Akihito Yoshikawa
Produced by Ryoma Kadomura
Co-produced by Akihito Yoshikawa (Studio DeDe)
いきなりドラムソロが展開。どのトラックでも同じ。制作のポイントに沿ったサウンドが全面に展開する。注目したいのがドラムの唸りが捉えられていること。つまり、あのセットが個別に鳴っているわけではなくお互いに共鳴しあっている。これをちゃんと処理した録音に乾杯だ。
音像を絞ったアルト、テナーサックスがそれに乗る。ベースにも効いている環境を重視。唸りを表に派手に出さない。時に空間感がドラムに出ていて、かぶりの使い方が巧いと評価したい。
Hear, there and everywhere #7
by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
本田珠也といえば、つねに“ジャズ界のサラブレッド”という接頭語を以って紹介されてきた。ピアニストの本田竹彦とヴォーカリストのチコ本田を両親に持ち、叔父が渡辺貞夫 (as)と渡辺文男 (ds) というそれぞれトップ・ミュージシャンだったからだ。しかし、日本のジャズ・ドラム、いやジャズ界を背負って立たねばならないポシジョンにある今、もはやそのようなキャッチフレーズは不要だろう。本田珠也自身のキャリアがすでに充分「本田珠也」という存在を語っているからだ。本田はエルヴィン・ジョーンズに私淑したポリリズミックでスケールの大きなドラミングを特徴としていたが、最近の活動に顕著なようにここ10年ほどのインプロの世界での経験が精神を解放し自由無碍な演奏が可能になったと言えるのではないか。本田自身、「今は、10年かけ俯瞰して見えてきたものを即興演奏を通して自分が得た感覚(これはなかなか言葉にするのは難しい)によって、初めて本田珠也という一人のミュージシャンが演奏しているという、状態になったと思います。なので今は演奏するのが楽しくて仕方がない」と語っている。一方、本田は若いミュージシャンに対しては、「音楽家として、楽器を操るものとして “今、何をなすべきか?”とつねに自問自答してほしい。音楽家たる者、音楽で表現できなくてどうすんだ?」と鼓舞し、翻って己に対しては、「今こそ日本のジャズを再興すべき時が来ていると本気で思っている。」からこそ、「僕が大切に貯金してきた素晴らしいものを次の世代へと渡していかなければ」と、覚悟を決めているのだ。
このアルバムは、そんな本田珠也が気鋭のふたりのミュージシャン、サックスの守谷美由貴(本田のパートナーでもあるらしい)とベースの須田崇志と組んだトリオでの演奏を収めたもの。本田は24歳でリーダー・デビューした時も白庭潤 (ts) と米木康志 (b) によるピアノレスのサックス・トリオで、その理由として、「コード楽器による制約をなくしたサックス・トリオで、好きなドラムを好きなように叩き、また自由に演出できる」ことを挙げている。本田は若いふたりを充分インスパイアしながらも大きな包容力のあるドラミングで包み込む。守谷のアルトは肩肘張らず滑らかで、込み入ったフレーズもスムースに吹きこなす。峰厚介 (ts) がゲストに入った校歌ではテナーに持ち替え、ベテランに伍し堂々とバトルを戦いきる。ピアノレスの負担をしっかり引き受け崩れるところがない。バークリーOBの須田はバンドに筋を通しながら、随所で挑戦的なフレーズを繰り出してふたりをインスパイアし、緊張感に富んだソロで耳を敧てさせる。
全編を通して聴きどころが多く、緊張感と和みの微妙なバランスが貫かれたアルバムの造りは見事という他ない。祖父や父親の楽曲を取り上げたり、父親の遺品のマリンバで小曲を演奏するなど、肉親とはいえ本田の先達に対するリスペクトの念は気持ちが良い。
ジャック・ディジョネットが、ラヴィ・コルトレーン (ts) とマシュー・ギャリソン (b) からなるトリオを率いジャズのスピリットを伝承する努力を続けているが、本田珠也のこのトリオにもそれに通じるものを感じたことを告白しておこう。(本誌編集長)