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Concerts/Live ShowsNo. 330

#1382 9/4-13 Jazz From Poland In Japan 2025

text by Ring Okazaki 岡崎 凛

2025年9月4日(木)~10日(水)は大阪、そして9月11日(木)~13日(土)は東京で、ポーランドのジャズ・アーティスト9組の公演が行われた。大阪・関西万博における「ポーランド文化ウィーク」の一環として、現在のポーランド・ジャズが紹介された「ジャズウィーク」では、ポーランド・パビリオン内でジャズ・アコースティックライブが催された。また万博会場以外の大阪市内のホールやライブハウスでコンサートが開催され、東京の3か所の会場でも公演が行われた。大阪市内の公演について、ラフ・スケッチ程度のコメントを添えたいと思う。

musicians for Jazz From Poland in Japan 2025
出演アーティスト:Babooshki/Aga Derlak/Nikola Kołodziejczyk/Paulina Przybysz/Maciej Obara Quartet/Sub Silento/EABS/Hoshii/Tomasz Chyła Quintet/Dominik Wania
バブーシュキ/アガ・デルラク/ニコラ・コウォジェイチク/パウリナ・プシビシュ/マチェイ・オバラ・カルテット/サブ・シレント/エアブス/ホシイ/トマシュ・ヒワ・クインテット/ドミニク・ヴァニャ


日時と会場について:
■大阪での公演
9月4日(木)~10日(水) 関西万博ポーランド館
9月4日(木)~6日(土) 梅田(梅北)BLUE YARD
9月7日(日) 心斎橋 SPACE 14
9月9日(火)・10日(水) 梅田 CLUB QUATTRO
■東京での公演
9月11日(木) Brooklyn Parlor
9月12日(金) 晴れたら空に豆まいて
9月13日(土) Cafe,Dining&Bar 104.5
(ホール入場料および店内チャージは無料)

<BLUE YARD>
9月4日

☆ Sub Silento (サブ・シレント)
Kasia Pietrzko, piano (カシャ・ピェチコ)&Maciej Kądziela, alt sax (マチェイ・コンジェラ)
Sub Silentoはエスペラント語で「沈黙の下で」の意味。ピアニストのカシャ・ピェチコはアルバム『Fragile Ego』 (2023年、Polish Jazz Vol. 89) で日本のピアノトリオ・ファンから注目を集めた。(ピエトシュコと紹介されてきたが、発音はピェチコが近いようだ。)マチェイ・コンジェラは最近ポーランドジャズ界で存在感を増す気鋭のサックス奏者で、ピェチコと彼とのデュオ活動は今後さらに本格化しそうだ。静かな演奏に激情のエッセンスが潜み、それぞれの熱い思いがじわりと広がるような一瞬にスリルが満ちる。穏やかな序章から、いくつかのエピソード経てクライマックスに至るような流れが感じられるデュオだった。

☆Babooshuki(バブーシュキ)
ポーランド出身のKarolina Beimcik (vo & violin)とウクライナ出身のDana Vynnytska (vo)によるプロジェクト。二人の故郷などの民謡を題材にしながら、伝統的なフォークの枠に留まらない現代性を持つデュオであり、それぞれの声の違いを生かしたコーラスの美しさが魅惑的。ピアニストのグジェゴシュ・タルヴィド(HOSHII)と上記のサックス奏者マチェイ・コンジェラも登場し、個性的で芯のしっかりしたヴォーカリストたちに寄り添うサポートを務めた。

9月5日

☆Aga Derlak(アガ・デルラク)
Aga Derlak trio with Max Mucha, contrabass(マックス・ムハ)Miłosz Berdzik, drums (ミウォシュ・ベルジク)
2016年のデビュー盤がポーランド版グラミー賞とも呼ばれるフレデリック賞に輝き、その後も3作目『Parallel』が同賞の2部門に選ばれるという高い評価を受けるピアニスト、アガ・デルラク。新作『Neurodivergent』は、人が生まれながらに持つ「多様性」にスポットを当てる意欲作。初めて本人と話をして、難しいジャズを演奏する人という印象がどこかへ飛んで行った。屈託のない笑顔と音楽への飽くなき探求心の発露に出会うステージに圧倒された。関西万博ポーランド館では幻想的なピアノソロを披露。

☆Dominik Wania(ドミニク・ヴァニャ)
ECMレーベルからリリースされた彼のソロアルバム『Lonely Shadows』から感じたのは、静謐の冷たさと温かみ。それが目の前のグランドピアノから間近に伝わり、ドミニク・ヴァニャが弾く静かな「語り」に耳を傾ける。リスナーの心がそれぞれの空想へと向かい始めたころに、一転して激しい演奏となり、腕と手のダイナミックな動きに目が釘付けとなる。一気呵成に駆け上がる即興の端々に、クラシカルなピアノの音色が輝いていた。トリオやカルテットで聴くヴァニャのプレイとは少し違う。ピアニストのパーソナルで大切なものに触れた気がした。
9月6日

Maciej Obara quartet Photo by.Agnieszka Kiepuszewska
Maciej Obara quartet
Photo by.Agnieszka Kiepuszewska

☆Maciej Obara Quartet (マチェイ・オバラ・カルテット)
Maciej Obara, alt sax with Dominik Wania, piano(ドミニク・ヴァニャ)、 Ole Morten Vågan, contrabass (オーレ・モルテン・ヴォーガン)、Gard Nilssen,drums(ガール・ニルセン)
ポーランドとノルウェーのミュージシャンが2人ずつで組むマチェイ・オバラ・カルテットは2023年にECMレーベルからの3作目『Frozen Silence』をリリースした。オバラの故郷に近いカルコノシェ山脈の風景にインスパイアされたという本作の曲が次々と登場した。オバラが奏でるメロディーに寂しさと切なさが溢れるが、同時に温もりも伝わる。彼のサックスを楽しみに集まったファンは多かっただろう。だが何よりも心に残ったのは、4人が一体となり放つグルーヴである。陶酔と覚醒の間を行き来する体験は、まさに至福のひと時だった。


<心斎橋 SPACE14> 9月7日Nikola Kolodziejczyk Big Band Photo by Filip Tarasiuk

Nikola Kolodziejczyk Big Band Photo by Filip Tarasiuk

☆Nikola Kołodziejczyk (ニコラ・コウォジェイチク)Big Band
ニコラ・コウォジェイチク指揮による「Jazz From Poland in Japan 2025」の出演者全員によるビッグバンド+ゲスト石井智大 (vln)
ピアニスト、作曲家、編曲家、指揮者として高い評価を受けてきたニコラ・コウォジェイチクは、ポーランドを代表する作曲家の一人として関西万博で大活躍した。この日のためコンサート・スイート(組曲)を全て書き下ろした彼は、練習や音合わせの期間の短さにも関わらず、26人の個性を分析した上で丁寧にビッグバンド作品を創り上げた。いつもの彼らしい高揚感に満ちた曲や、ウッドベース2本とエレキベース2本という変則的な構成を最大限に生かしたパートや、ノイズギターとヴァイオリンの掛け合いや、女声ヴォーカリスト3人のそれぞれの特徴を生かした歌などをフィーチャーし、おそらく2度とないであろう顔合わせのビッグバンドを指揮し、ホールを埋め尽くした観衆の喝采を浴びた。


<梅田 CLUB QUATTRO>
9月9日

Tomasz Chyla Quintet Photo by Agnieszka Kiepuszewska
Tomasz Chyla Quintet
Photo by Agnieszka Kiepuszewska

☆Tomasz Chyła Quintet
Tomasz Chyła,violin (トマシュ・ヒワ) 、Krzysztof Hadrych, guitar (クシシュトフ・ハドリフ) 、Emil Miszk, trumpet (エミル・ミシュク) 、Konrad Żołnierek, bass (コンラド・ジョウニエレク)、Sławek Koryzno, drums (スワヴェク・コリズノ)
今回の9組の中で、プログレッシヴ・ロックの好きな方にぜひ聴いてもらいたいと思ったバンドがトマシュ・ヒワ・クインテットだった。彼は「こんな音楽はジャズではない」という言葉に屈せず、自分の道を貫いていった。徐々に彼はジャズ界での評価を高め、ポーランドの歴史あるジャズ雑誌「Jazz Forum」で5作目のアルバム『Music We Like to Dance with』(2023)が年間ベスト賞に輝いた。濃厚なジャズロックにノイズギターが踊るステージには、彼の故郷グダンスクの自由な気風が息づいている…彼の語った言葉を思い出しながらそう思った。

EABS- Photo by Agnieszka Kiepuszewska
EABS
Photo by Agnieszka Kiepuszewska

☆EABS(エアブス)
Marek Pędziwiatr, piano keyboard(マレク・ペンジヴィアトル)、Olaf Węgier, tenor sax(オラフ・ヴェンギエル)、Jakub Kurek, tp.(ヤクブ・クレク)、Paweł Stachowiak, bass guitar(パヴェウ・スタホヴィアク)、Marcin Rak, drums(マルチン・ラク)
エアブスという読み方も知らないままに、EABSのアルバムを何枚も聴いていた。バンドキャンプの解説を読んでは彼らの音楽をストリーミングで聴き、ネット上のライブ動画を探して見ていた。本人たちに実際に出会える日が来ると想像もしていなかったのに、今年はその夢が叶った。周囲の仲間にEABSが聴いてもらえる日が来たのである…ここに書くべきなのは彼らの音楽の解説であり、私的な思いは省略すべきだが、どれだけ彼らの音楽を楽しみにしていたかこの機会に記しておきたい。常にテーマ性を重視する彼らのベストアルバムを聴くようなステージだった。パヴェウ・スタホヴィアクのベースの音がバンドのグルーヴの要であると実感した。メンバー全員が様々な変化を提案し、ソロを演奏し、マレク・ペンジヴィアトルがまとめ役であるように感じた。ポーランドジャズ界では、やや異色の存在のように思えた彼らは、この国のリーダー的存在となりつつあるようだ。

9月10日

Paulina Przybysz Photo by Agnieszka Kiepuszewska
Paulina Przybysz
Photo by Agnieszka Kiepuszewska

☆Paulina Przybysz (パウリナ・プシビシュ)
Paulina Przybysz,vocal with Marek Pędziwiatr, piano keyboard(マレク・ペンジヴィアトル)、Olaf Węgier, tenor sax(オラフ・ヴェンギエル)、Max Mucha, contrabass(マックス・ムハ)、Marcin Rak, drums(マルチン・ラク)
人気ヴォーカリストとしてポーランドで活躍する彼女は、表現の幅をどんどん広げ、ジャズ界の重要音楽家としての地位を築いてきた。ジャズ新世代との共演が多く、フレッシュなサウンドへの感性を常にキープしながらも、ジャズレジェンドへの賛辞を忘れない人だろう。〈The Dock of the Bay〉を歌い、オーディエンスにコーラスを誘いかける彼女は、シンガーとしての実力はもちろん、コミュニケーションの上手さも抜群だった。ポーランドと日本がこの曲で結ばれる日が来ると誰が想像しただろう。「Sittin’ on the, sittin’ on the…」梅田クアトロでの観客のコーラスが今も耳元から聴こえてくる。

HOSHII Photo by Agnieszka Kiepuszewska
HOSHII Photo by Agnieszka Kiepuszewska

☆HOSHII
Kuba Więcek, alt&soprano sax(クバ・ヴィエンツェク)、Grzegorz Tarwid, piano keyb.(グジェゴシュ・タルウィド)、Max Mucha, bassguitar(マックス・ムハ)、Miłosz Berdzik,drums(ミウォシュ・ベルジク)
ポーランド新世代ジャズのど真ん中で活躍するサックス奏者、作曲家のクバ・ヴィエンツェクが率いるカルテット「HOSHII」。奇抜な設定でユーモアたっぷりだが、4人それぞれの音楽につぎ込む熱量は存分に感じられる。宇宙からやってきた架空のキャラクターの思いを綴りながら、最新のジャズ要素をつぎ込み、緩やかさを表に出しながら、極めて先鋭的であり、素直さと捻りが同居したアプローチが彼らの特徴だろう。即興とエレクトロニック・ミュージックの面白さをつぎ込んだ4人組である。

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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