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Concerts/Live ShowsNo. 317

#1320 ダヴォス・クロースター・ジャズ・フェスティバル 2024

ダヴォス・クロースター・ジャズ・フェスティバル 2024
2024.7.08

text & photo by Shinobu Naka  中 東生

 スイスのダヴォスと言えば、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)を思い出されるだろうか。スキーシーズン真っ只中の1月末に、住民以外は締め出して行われる「オレ様的」特権階級の集まりである。
しかし、7月のジャズフェスティバルは誰でもウェルカム。街のどこかからジャズが流れ、ふと足を止めては聴き入る。世界で活躍するアーティストに手が届く距離!この緩いゴージャスさはスイスならではか···

 そんなフェスティバルに7月8日、ゆる~く出掛けてみた。日本から現地入りする場合、やはりチューリッヒ空港が一番近いだろう。そこから電車で2時間強かかるのだが、段々山が近づいて来る車窓を見ているだけで気分が高揚する。途中の駅で前後の車両が分かれるというアナウンスで現実に引き戻され、ダヴォス行きの車両に乗り換えて、胸を撫で下ろす。そのうち、ようやくダヴォスの風景が出迎えてくれた。


 まずは第1のお目当て、Gemma Abriéを聴きながら腹ごしらえしようと予約してあったピッツェリア·ダ·エリオのジャズ·ランチへ。共演のスイスバンドThe Big East Gators Featが去年からダヴォスに招待しているというGemmaは、その空気感と自然なスイング感が心地良いスペイン人歌手だ。故郷のバルセロナにはジャズを学べる学校が4校もあるのに、有名どころを招ぶクラシックなジャズクラブが大半であるバルセロナのジャズ界では、卒業しても活躍できる舞台が少ないと嘆く。そんなGemmaはフランスやここダヴォスに居心地の良さを感じるのだという。「完全に自由になれるのがジャズの魅力」というGemmaの歌声は、その人柄と相まって、聴衆の心に長く尾を引く余韻を残す。

次は、ダヴォス·ジャズフェスティバルが2001年に始まってから常連となっているDai Kimoto & His Swing Kidsを、パラソルに守られていない炎天下の最前列で2時間聴き続けたら、右腕だけ強度に土方焼けしてしまった。それ程驚きの連続で引き込まれてしまっていたのだった。木元大は18歳から日本で叩き上げ、25歳に渡欧し、イギリス、ドイツ、スイスの超一流バンドで活躍してきたトランペット奏者だ。作曲、編曲、写譜、そして歌まで歌ってしまうが、その原動力は「楽しむ」。それが16歳までの子供達13人の土台にもなっていて、最年少9歳でも堂々とソロを吹き「音を楽しんで」いるのだ。加えて、プロ的観点から見ると、息の太い流れが特徴だ。安定した息のベースの上でスイングするから頑張らなくてもパワフルで心に響くのだ。10月には日本全国10カ所以上を回るツアーが組まれているそうなので、是非体験して頂きたい。


その興奮も冷めないうち、次の公演場所へ···。親切な地元の人が指差す方向を道から覗いてみると、Mountain’s Akt Diner & BarのバルコニーでJonny Boston Quartetが演奏しているではないか!彼らに手が届きそうな程近い階段を降りて空席を探し、ビール片手に楽しむ!




オランダ人っぽい軽快さとスタイリッシュなムードにもっと浸りたいのだが、同時に複数のバンドが演奏するという贅沢なプログラミングのため、後ろ髪引かれながら次の場所へ。道まで溢れる人だかりをかき分けながらEx-Bar Davosに潜入してみた。するとJones and the Crewのライブが熱い。

ああ、ここもずっと聴いていたい~!夜は別のバンドがディナーショーもするのだが、それでは終電に間に合わない。やはり最低1泊は必要かもしれないが、ヒョイと山間の村に日帰りしてもこれだけ違う4つのバンドを楽しめるダヴォス・クロースター・ジャズフェスティバルの底力を感じた。そして、それを緩く楽しむ地元住民や常連さんのジャズ魂、これこそジャズの真髄だろう。




中 東生(なか・しのぶ)
東京芸術大学卒業後、ロータリー奨学生として渡欧。ヴェルディ音楽院、チューリッヒ音楽大学大学院、スイスオペラスタジオを経て、スイス連邦認定オペラ歌手の資格を取得。その後、声域の変化によりオペラ歌手廃業。女性誌編集部に10年間関わった経験を生かし、環境政策に関する記事の伊文和訳、独文和訳を月刊誌に2年間掲載しながらジャーナリズムを学ぶ。現在は音楽専門誌、HP、コンサートプログラム、CDブックレット等に専門分野での記事を書くとともに、ロータリー財団の主旨である「民間親善大使」として日欧を結ぶ数々のプロジェクトに携わりながら、文化、社会問題に関わる情報発信を続けている。

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