#1323 チャールス・ロイド「Sky Quartet」
チャールス・ロイド・スカイ・カルテット
featuring ジェイソン・モラーン、ラリー・グレナディア&エリック・ハーランド
text: Kenny Inaoka 稲岡邦彌
photo: Takuo Sato 佐藤拓央 (on 8/26)
2024年8月27日(火)1st set @ブルーノート東京
チャールス・ロイド (ts, fl, perc)
ジェイソン・モラーン (p)
ラリー・グレナディア (b)
エリック・ハーランド (ds)
チャールス・ロイドのナマを聴くのは5年前の東京JAZZ以来だ。東京JAZZではカマシ・ワシントンの前座のような扱いで、仲間内ではプロデューサーは分かってねえなあとブーイングが湧き上がっていたが、案の定、充実しきったロイドのクインテットに続いて登場した大所帯のカマシのグループは聴くべき内容に乏しく失笑さえ買う始末。あれから5年、86歳を迎えたチャールスはDownbeat誌のクリティック・ポール(批評家投票)2024で3冠を達成、さらにはホール・オブ・フェイム(名声の殿堂)に推挙と史上初の栄誉を担ってのいわば凱旋公演。バンドはギターが抜け、前回と同じくエリック・ハーランドのドラムスにジェイソン・モラーンのピアノにラリー・グレナディアのベースと重戦車並の陣容。アルバム・オブ・ジ・イヤー(年間最優秀アルバム)に輝いた二枚組の『The Sky Will Be There Tomorrow』(BN)をまだ未消化状態の筆者だったが、凱旋にまったく気負うことのない受賞バンド(年間最優秀バンド)の快演を心ゆくまで堪能することができた。音楽の豊かさ、ジャズの自由さに酔いしれ、感動にほとんど胸が潰れるほどだった。文は人なり、音も人なりというが、やはりチャールスのヒューマンな人柄とそれを共有するバンドが生み出す大きなうねり、いわゆるグルーブに身を委ねられる心地よさがいちばんではないだろうか。
スピリチュアル風の長いテンポ・ルバートのイントロから始まる<ドリーム・ウィーヴァー>は、翌年 (1967年)の『フォレスト・フラワー』と合わせて当時のフラワー・チルドレンを中心に世界中の若者を熱狂させた同名アルバムのタイトル曲。僕も学生時代に聴き馴染んでいるだけに胸に沁みる。インテンポに入ってからのパワフルな演奏はむしろ当時を凌ぐほど。バラードを挟んでの<パッシン・スルー>はアップテンポの軽快なカリプソ。ラリーのランニング・ベースに身体が揺れる<ゾルタン>では短いモチーフに続いてメンバーがソロを繋ぐ。ジェイソンのソロはどこまでもパーカッシヴに、しかし、エリックのドラムスは攻め立てることなく余裕さえ感じさせる。<Richard>は、お馴染みの4ビートに乗ったフルート曲。<The Water Is Wide>(悲しみの岸辺)から<La Llorona>(忘れないで)は、間でスタンディング・オヴェーションが入ったが、アンコールとしてメドレーであったとも考えられ、2曲ともベースはトラッドである。関係者のなかには、前週のブルーノートに出演後急死したギターのラッセル・マローンへのレクイエムだったに違いないとコメントする例も耳にしたが、たしかに心底から魂を揺さぶられる感動的なフィナーレではあった。彼の説得ある演奏の根拠にサックスのサウンドそのものもあると思う。ECM時代のアルバムをヘッドフォンで聴いてみると、一音も揺るがせにしない見事にコントロールされたニュアンスに富んだサウンドを確認することができる。
ひとつ心残りなのは、アルバムでいちばん気になった<The Ghost of Lasy Day>の解釈をナマで聴けなかったことである。
数年以内に帰ってくることができれば、次作はブルーノート東京でのライヴ・アルバムをぜひお願いしたい。