#26 Racha Fora (ハシャ・フォーラ)Japan Tour 2016
2016年11月4日 東京・三軒茶屋 Whisper
text & photo:Kenny Inaoka 稲岡邦彌
ヒロ・ホンシュク(本宿宏明):flute/EWI
アンドレイ・ヴァスコンセロス:guitar
長岡敬二郎:カホン
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リカ・イケダ(池田里花):violin
スペシャル・ゲスト;
ケペル木村(パーカッション)
ブラジル色を強く打ち出してきたRacha For a(ハシャ・フォーラ)が今年はジャズに重心を移し、自由に動けるようにとフルート、ギター、パーカッションのトリオ編成を基本としてチャレンジしてきた。二年前の初来日では則武 諒のドラムス、一昨年は在日ブラジリアン、フランシス・シルヴァと長岡敬二郎が入れ替えでパンデイロ、去年は長岡敬二郎が一人でパンデイロを務め、そして今年は長岡がパンデイロからカホンにスイッチだ。リーダーのヒロ・ホンシュク(本宿宏明)は、本誌好評連載中の「楽曲解説」でいつも強調しているように、徹底的にパルスやビートにこだわる。そしてバンドのグルーヴ。いいグルーヴに乗って気持よくフルートを吹きたい。バンマスの支配力、権限は絶対的である。自分が気持よく演奏できるためのグルーヴをバンドに要求する。リーダーが快適に演奏できれば、バンドがさらにスイングする。この心地よいヴァイブがオーディエンスに伝わって会場全体がノッてくる。こうなるとしめたものだ。オーディンエンスのエネルギーをもらってバンドはさらに燃え...。バンドとオーディエンスの間でエネルギーのサーキュレーションが始まる。
今年のツアーはクラブ中心で、三軒茶屋にある“マイルスの聖地”「ウィスパー」に出かける。階段を降りると大きなパネルのマイルスに出迎えられる。マイルスを心の師と仰ぐヒロ・ホンシュクがマイルスに抱かれてご満悦の表情でいた。
オーナーはジャズ・カメラマンの内山繁氏。マイルスとジャコに傑作が多い。ジャズ・カメラマンでジャズ・バー/クラブのオーナーには中平穂積氏と本誌でもおなじみの杉田誠一氏の先達がいる。「ウィスパー」はインテリアを黒と赤で統一し、60年代、新宿・歌舞伎町の入り口近くで夜を明かした「ヴィレッジ・ゲート」を彷彿させた。60年代、70年代のジャズ喫茶の全盛期を知る者には懐かしい佇まいである。この月はベーシストの特集だそうで、内山氏撮影の多くのベーシストが壁から店内を見下ろしている。ステージ奥でミュージシャンに目を光らせているのは御大チャーリー・ミンガスだ。
じつはカホンの生演奏を聴くのは今夜が初めて。カホンは引き出しや箱を意味するスペイン語で、ペルーが発祥の地と言われ、文字通り四角い箱に跨って前面を手で叩いて音を出す打楽器。ただし、単なる打楽器ではなく、踵(かかと)でバスドラを踏んだりミュートをかけたり、手足を駆使すればドラムスの代用となる。当夜は、長岡氏はもっぱら手を使ってリズムを叩き出したり、おかずを入れたり、バースを交わしたり、八面六臂の活躍ぶり。もうひとり目を引いたのがギターのアンドレイ・ヴァスコンセロス。ソロにリズムに低音弦でベース・パートを弾くなどギターとベースの一人二役。バークリー音大首席卒業の豊かな音楽性を聴かせた。
マイルスの楽曲を中心にジャジーな演奏を聴かせていたトリオにヴァイオリンのリカ・イケダ(池田里花)が加わると本来のRacha For a(ハシャ・フォーラ)に変身、ネイティヴなブラジリアン・リズムに乗って聴き慣れたヒロ・ホンシュクのオリジナルが..。今ではマイルスの楽曲とすっかり同化し、何の違和感もない。リカの情熱的なヴァイオリンにバンドがダイナミックに躍動し、ホンシュクがウインド・シンセ(EWI)を手にエフェクターを効かせたミステリアスな<ESP>を始めると、たちまち去年の東京JAZZでの興奮が蘇る。
変幻自在のハシャ・フォーラ、今年はどんな顔を見せてくれるのだろうか...?