#946 内田修先生を送る会
text & photo by Sadamu Hisada 久田 定
2017年4月6日(木) 14時開演 名古屋・広小路 ヤマハホール
戦後の日本のジャズ文化を支え、内外のミュージシャンから「ドクター・ジャス」の愛称で親しまれ、昨年12月11日に87歳で亡くなられた医師の内田修先生を追悼するコンサート。
愛知県岡崎市出身の内田先生は1964年、鑑賞団体「ヤマハ・ジャズ・クラブ(YJC)」を結成されたが、この日の会場は33年間、150回に亘って公演を開いたゆかりの深いホールだ。
収容人数125人の小ホールでのライヴは、チケットを発売してわずか2日間で完売したという。
国内を代表するミュージャン17人が手弁当で集まりまれに見る熱演を繰り広げた!
プログラム
第1部
1. ソロ:綾戸智恵(vo.p) 2曲、 ”Over The Rainbow” 他
2. デュオ:渋谷毅(p) & 峰厚介(ts) 2曲、 ”Little Abi”(菊地雅章)他
3. クインテット:日野皓正(tp) with 峰厚介(ts) 鈴木良雄(b) 佐藤允彦(p) 村上寛(ds) “Alone, Alone & Alone”(日野皓正)
4. デュオ:日野皓正(tp) & 村上寛(ds) “Doctor U”
5. トリオ:大西順子(p) with 鈴木良雄(b) 村上寛(ds) 2曲
第2部
6. ソロ:ケイコ・リー(vo.p) 2曲 “Stand By Me”, “Imagine”
7. カルテット:J.J.Spirits 佐藤允彦(p) 峰厚介(ts) 水谷浩章(b) 村上寛(ds) 2曲 “My Piccolo”(宮沢昭), ”One For The Surgery” (佐藤允彦)
8. デュオ : 中牟礼貞則(g) & 渡辺香津美(g) 2曲 “Green Sleeves” 他
9. トリオ:山下洋輔(p) with 坂田明(as) 水谷浩章(b) “Chiasma”(山下洋輔)
10. デュオ:山下洋輔(p) & 森山威男(ds) “Gugan” (山下洋輔)
11. ソロ:鈴木勲(vc) “Improvisation”
12. オールスター:Be-Bop Jams featuring 小濱安浩(ts) 綾戸智恵(vo) ケイコ・リー(vo) 渡辺香津美(g) 鈴木勲(vc) 日野皓正(tp) 坂田明(as) 峰厚介(ts) 渋谷毅(p) 山下洋輔(p) 村上寛(ds) “Now’s The Time”
13. ソロ:佐藤允彦(p) “My Wonderful Life”(富樫雅彦)
ユーモア溢れる佐藤允彦さんの司会進行でスタート!
ミュージシャンはそれぞれ演奏前に内田先生との関わりとエピソードをひと言述べて...。
トップバッターは綾戸さんで、メジャーデビューの際の内田先生との関わりをユーモアたっぷりに語ってから、引き語りで”Over The Rainbow”を感情豊かに歌い上げる。思わず引き込まれていく。
渋谷さんと峰さんによる内田先生と親しかった菊地雅章さん作曲のバラード ”Little Abi”。渋谷さんの飾り気のない淡々としたピアノと峰さんのブレの無い豊かな音色による抑え気味のプレイが心に沁みわたる。
日野皓正クインテットによる日野さんの初期の作曲 ”Alone, Alone & Alone” 。とくに、自由奔放で鋭く突き刺さる日野さんのトランペットのプレイに圧倒される。
日野さんと村上さんのデュオは内田先生に捧げた”Doctor U”。鋭いトランペットの日野さんに対峙してビシバシとシャープに切り込む村上さんのプレイはじつにスリリングで、ジャズの持つ醍醐味を満喫!
大西順子トリオ。強固な鈴木さんのベースと村上さんのドラムに乗って、大西さんの以前みられた左手による強力なアタックは抑え気味だったが、相変わらずの華麗な指裁きによる華やかなプレイを展開した。
第2部は、地元の代表格、ケイコ・リーさんによる弾き語りでスタート!
ライヴでは内田先生のリクエストでおなじみだった ”Stand By My” と、アメリカ収録時に内田先生が立ち会ったデビユー・アルバム収録の思い出の曲 ”Imagine” をディープな歌唱とピアノでしっとりと聴かせた。
佐藤允彦さん率いるJ.J.Spiritsは内田先生と関わりが深く、第98回YJC例会での録音アルバムから宮沢昭さん作曲の ”My Piccolo” と、佐藤允彦さん作曲による内田先生宅でのエピソードをモチーフにした ”One For The Surgery” (手術前に一杯) を演奏。亡き富樫雅彦さんの遺志を引き継いだメンバーによるこれぞ ”ジャズ” という演奏が素晴らしかった!
中牟礼さんと香津美さんの師弟コンビによるギターデュオはじつにリラックスした雰囲気で、とくに最高齢の中牟礼さんの自然体でスイングする”Green Sleeves”のプレイがじつに心地良かった!
山下洋輔トリオによる山下さん作曲の ”Chiasma” では、フリーフォームによるヒジ打ちを混じえた山下さん、咆哮するアルトサックスの坂田さんと強力で太く柔軟なベースの水谷さん3人の燃え尽きるようなプレイに心底酔う!
山下さんとドクターストップが掛かっている森山さんのデュオは、森山さんが自ら志願して1曲のみ参加。山下さんの名曲“Gugan”を演奏したが、山下さんの激しい打楽器奏法を迎え撃った森山さんのブラシによる怒涛のプレイにビックリ。格闘技のような森山さんのプレイに身体が壊れるのでは?と心配になったほど。
鈴木勲さんがチェロを持って現れた衣装を見てお客さんがビックリ。白髪にワンピース、左のタイツは黄色で右は明るい青色だ!鈴木さんは1933年1月生まれの83歳...。”Improvisation” はまさに即興で、溢れ出るフレーズと若々しい音色に2度ビックリ!
トリは、オールスターによBe-Bop Jams。 地元名古屋の小濱安浩(ts)さんをフィーチャーしての”Now’s The Time”。
ジャム・セッションの大ノリ演奏はじつに楽しい。とくに綾戸さんとケイコさんのバンドをバックにしてのスキャットは凄かった!
エンディングは内田先生が最も目を掛けていた富樫雅彦さんの名曲 ”My Wonderful Life”を盟友の佐藤允彦さんのピアノ・ソロで。奏でられる美しいメロディーが何とも言えない余韻を残し...。
これだけの日本を代表するメンバーを集結させられる力は内田先生ならではと、あらためてその偉大さを実感した次第。
内田先生ととくに絆が深く強い間柄でありながら、先生に先立った高柳昌行さん、富樫雅彦さん、宮沢昭さん、本田竹広さん、日野元彦さんなどの演奏を1968年にYJCに参加後、内田先生のおかげで幾たびも鑑賞できた僕としては、何とも寂しさが募る一方で深い感謝の念を催すコンサートだった。
久田 定 Sadamu Hisada
1945年、愛知県常滑市生まれ。63年来日のアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズからジャズを聞き続ける。とくにフリー系を好み、80~90年代には、地元で「近藤等則xユージン・チャドボーン」「豊住芳三郎xペーター・ブロッツマン」「豊住芳三郎xポール・ラザフォード」「豊住芳三郎xジョゼフ・ジャーマン」などを主催。今年4月、リトアニアのNo Business Recordsから「豊住芳三郎 x ポール・ラザフォード」のLP/CDが世界発売された。趣味はアート全般で、他に自家焙煎コーヒーとパンの探求。