#1050 フローリアン・ヴァルター/直江実樹/橋本孝之/川島誠@東北沢OTOOTO
Text and photos by 剛田武 Takeshi Goda
2018年12月2日 (日)
東北沢OTOOTO
Florian Walter : Sax. Cl. Other
直江 実樹 (Miki Naoe : Radio)
橋本 孝之 (Takayuki Hashimoto : Sax. Harmonica)
川島 誠 (Makoto Kawashima : Sax.)
様々な音楽要素を吸収するドイツ即興サックス奏者の2度目の来日公演
ドイツのエッセンをベースに活動するサックス奏者フローリアン・ヴァルター日本ツアーの初日。OTOOTO/音音は東北沢の住宅街にある小さな会場。即興音楽専門に主に土日ライヴを開催している。最近このようなDIYのベニューが少しずつ増えているようで嬉しい限りである。
今回ヴァルターはガールフレンドと一緒に来日。彼女はドイツのラジオ局で番組を持っており、日本のアンダーグラウンド音楽の取材を兼ねての来日とのこと。前回の筆者のインタビューについてヴァルターから聞いて興味を持ったようで、日本の地下音楽シーンについて簡単なインタビューを受けた。拙著『地下音楽への招待』で取り上げた70年代末〜80年代の吉祥寺マイナーのことから現代の地下アイドルまで説明したが、日本語でも難しい主観たっぷりの思いが英語で何処まで伝わったか分からない。面白かったのはドイツでは同じアヴァンギャルド系でも、即興音楽と作曲されたジャズや現代音楽との間に大きな隔たりがあり、ミュージシャンもオーディエンスも殆ど被らないということ。インプロもノイズも電子音楽もパンクもごった煮のイベントが普通にある日本は特殊かもしれない。そんなカオスな日本を見たいなら、地下アイドル現場に行くべきだと力説したら目を輝かしていた。(滞日中に筆者おススメのプログレッシヴアイドルxoxo(Kiss&Hug) EXTREMEのコンサートを観に行ったとのこと)。
OTOOTOは10数人のお客さんで椅子席ほぼ満員。知り合いも何人かいて初めての会場ながらホームの気分がした。
●フローリアン・ヴァルター+直江実樹
短波ラジオ奏者の直江を観るのは久々。これまではノイズ系のライヴで観ることが多かったので、アコースティック楽器のサックスとの共演だとどのように演奏しているのかよく分かって興味深い。リハの時ヴァルターたちも「テルミンみたい」「いつ頃のラジオ?」「カセットテープも使うの?」と興味津々だった。ラジオの高周波のビープ音がサックスのフリークトーンと融合して兄弟の二重唱のように聴こえる。丁度ラジオの時報が鳴ったときは思わず時計を確認する人もいて、正に今この瞬間だけの演奏が繰り広げられていることを実感した。ヴァルターは踊るようなステップを踏んでリズミカルなタンギングと循環呼吸のミニマルフレーズをリピートする。ラジオを抱えて取り憑かれたようにヘッドバンギングする直江との不定形なデュオダンスは、即興音楽が踊れないダンスミュージックであることを詳らかにした。ヴァルターの寝癖の酷いぼさぼさヘアーと、トレードマークのニット帽を外した直江の天然パーマの髪型が無意識にシンクロしていたのが可笑しかった。
●フローリアン・ヴァルター+橋本孝之+川島誠
前回の来日ツアーでサプライズ的に実現した日独アルトサックス・トリオの再現。魂の重みに軋み床にしゃがみ込む川島の陰影と、その反対に天井ヘ向けて薇(ゼンマイ)状の奇跡を描く橋本の浮遊、両者に挟まれて飄々と歌うヴァルターの幾何学的色彩。彼の本領発揮は細かい運指で断続的に空間を切るパーカッシヴなリズム感であった。三者が一斉にブロウする瞬間には、会場のレベルオーヴァーの箱鳴りが大脳皮質と脳幹の隙間に歪みを生んだ。カオスの快感に溺れることなく冷静に演奏を堪能できたのは、白い壁の覚醒効果に違いない。
●フローリアン・ヴァルター+橋本孝之+川島誠+直江実樹
最後に4人揃ってのセッション。川島がリードヴォーカルのように朗々と泣きのソロを奏で、橋本はハーモニカ、ヴァルターはアルト、直江は短波ラジオを粛々と演奏。これまでのキレキレの即興とは異なり、伝統に則ったフォーマットでアンチモードのアンサンブルを構築していく。4人それぞれの立ち位置や空気感の違いがハッキリしているので、このカルテットでレコーディングしたら面白いだろう。
今回の来日ツアーで筆者が観られたのは初日のみだったが、帰国前日に茶飲み話をすることが出来た。大阪を含めた全四回の公演は、何よりヴァルター本人がリラックス出来て、様々なアーティストと共演を楽しめて実りの多いものだった。また、ガールフレンドと一緒にアイドルをはじめスタイルの異なるコンサートやイベントを観ることが出来て、日本文化への理解も深まった。今後はより幅広いジャンルのミュージシャン、特に雅楽や和楽器とのコラボに興味があるという。ベルリン在住のピアニストRieko Okudaとアルバムを録音済み、1月にはクリス・ピッツィオコスとレコーディングする予定とのこと。フローリアン・ヴァルターの2019年の活躍が楽しみである。(2018年12月27日記 剛田武)