#1062 小林海都ピアノ・リサイタル
2019年2月7日(木)@すみだトリフォニー小ホール
Reported by Kayo Fushiya 伏谷佳代
Photos by K. Miura 三浦興一
<プログラム>
ハイドン:ピアノ・ソナタト長調Hob.XVI:6
第1楽章アレグロ/第2楽章メヌエット/第3楽章アダージョ/第4楽章アレグロ・モルト
スクリャービン:24の前奏曲op.11より
第1曲ヴィヴァーチェ ハ長調/第2曲アレグレット イ短調/第3曲ヴィ―ヴォ ト長調/
第4曲レント ホ短調/第5曲アンダンテ・カンタービレ ニ長調/第6曲アレグロ ロ短調/
第7曲アレグロ・アッサイ イ長調/第8曲アレグロ・アジタート 嬰ヘ短調/
第9曲アンダンティーノ ホ長調/第10曲アンダンテ 嬰ハ短調/
第11曲アレグロ・アッサイ ロ長調/第12曲アンダンテ 嬰ト短調
ストラヴィンスキー(G.アゴスティ編):バレエ組曲『火の鳥』より
魔王カスチェイの凶悪な踊り/子守歌/終曲
-休憩―
シューベルト:4つ即興曲 D.935, op.142
第1曲アレグロ・モデラート へ短調/第2曲アレグレット 変イ長調/
第3曲アンダンテ 変ロ長調/第4曲アレグロ・スケルツァンド へ短調
―アンコールー
シューベルト:楽興の時 D.780, op.94
並外れたスケールの音楽性とのびやかで豊かな音色、合理的で確かな技巧を併せ持つ若きヴィルチュオーゾである。今回がデビュー・リサイタルということだが、小林といえば師匠マリア・ジョアン・ピリス率いる「パルティテューラ・プロジェクト」の一員として、同じくすみたトリフォニーホールで新日本フィルと共演したコンチェルトを記憶しておられる方も多いだろう(筆者は残念ながら小林の回は未聴)。小林の音楽性の背後に垣間見えるのは、ピリスはもちろんのこと、師事した教師陣がいずれも第一級のコンサート・ピアニストばかりであったという僥倖、それがもたらす例えようもない豊穣さである。聴衆に「聴かせどころ」を意識させず(優等生臭さがない)、楽曲との純粋な対話のみが観客に直截的に伝わってくる。趣味の良いリリシズム。徹底して視点がプロなのだ。プログラムはハイドンのソナタにはじまり、スクリャービン、ストラヴィンスキーに舵を切ったのち、ロマン派のシューベルトに着地するというもの。冒頭から、その天性のタッチと表裏一体の音色表現の豊かさに引き込まれる。独特の間(ま)を内包し、フレーズごとの特性に寄り添う過不足ない重力感。若手ながら感情任せなエキセントリックさに走ることはなく、細部に至るまで構成に根拠がある。どこか茫洋たるものを感じさせるまろみのある風格が、緻密な音の密度変化にたえず備わる(スクリャービンなど)。小林のリリシズムが最も素直なかたちで発揮されたのがシューベルトであろう。くぐもりのなかの闊達さ、思慮深さのヴェールのなかで無限にあふれる泉のようなビート感覚は、若々しくも老成している。ピアニシモの清澄さにも心洗われる。現在、小林はスイスのバーゼルで研鑽中。今後どのような貫禄がその音楽に加味されて来るのだろうか。10年後、20年後が楽しみである。(*文中敬称略)
<関連リンク>
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