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Concerts/Live ShowsNo. 253

#1074 ぼくのからだはこういうこと 〜根をもつことと羽をもつこと・弱さの力〜DVD上映会&ライヴ

2019年3月24日(日)
御所の杜ほいくえん(京都市中京区)

矢萩竜太郎 Ryotaro Yahagi – dance
齋藤徹 Tetsu Saito – contrabass
近藤真左典 Masanori Kondo – film director

取材・構成=安藤誠 text by Makoto Ando
撮影= 木村雅章 photos by Masabumi Kimura

 

去る3月24日、ダンサー・矢萩竜太郎の活動を追ったドキュメンタリー映画「ぼくのからだはこういうこと 〜根をもつことと羽をもつこと・弱さの力〜」の完成を記念した上映会&ライヴが京都市中京区の「御所の杜ほいくえん」で行われた。国連が定めた「世界ダウン症の日(3月21日)」関連イベントとして開催された本公演の模様をレポートする。

舞踊教育家ヴォルフガング・シュタンゲのワークショップ参加を契機に1990年よりダンサーとしての活動を始め、以来着実にキャリアを育んできた矢萩。その軌跡を追ったドキュメンタリーDVDのリリースは、2016年公開の前作「ダンスとであって−矢萩竜太郎10番勝負!−」に続き2作目となる。岩下徹(舞踏)、ジャン・サスポータス(ダンス)ら名だたるアーティストとの共演で切磋琢磨してきた彼だが、中でも10年以上に亘って活動をともにしてきた齋藤徹(コントラバス)との絆はとりわけ強い。欧州公演の記録が中心だった前作とは異なり、今回の新作では、矢萩が常日頃から「アニキ」と慕う齋藤との創作活動を軸に、彼らが拠点とする「いずるば」周辺の人々との交流を丁寧に描いた内容となっている。この新作完成を機に矢萩と斎藤の活動を関西でも知ってもらおうと、京都でダウン症の啓発活動を行うグループ「At-Kyoto」が働きかけたことで、今回のイベントが実現した。

第1部ではその新作「ぼくのからだはこういうこと 〜根をもつことと羽をもつこと・弱さの力〜」のダイジェスト版を上映。「前作ではダンサーとしての姿に焦点を絞ったが、今作ではダウン症者としての彼にも意識的に向き合ってみた」と近藤真左典監督が語る通り、アーティストとしての矢萩を中軸に置きつつも、感情の迸り(ライヴ後に感動のあまり号泣する場面も)をそのまま捉えるなど、多面的なアプローチで彼の実像を掘り下げている。もちろん前作同様、ライヴシーンの迫力は素晴らしく、ザイ・クーニン(ダンス)、皆藤千香子(ダンス)、久田舜一郎(鼓)らと共演した「信濃の国 原始感覚美術祭2018」でのパフォーマンスなど各地での公演から、現時点での矢萩・斎藤による集大成ともいえる「いずるばフェスティバル」に至る映像の流れには、両名の並々ならぬ思いと熱量がはっきりと刻印されているのが感じられた。

 

休憩を挟んでの第2部は矢萩と齋藤による即興デュオ。開演前の祈りを込めた2人の抱擁、その姿さえもプレリュードとなって観客の耳目を惹きつけているのが彼ららしい。この日の観客はダウン症の当事者や家族連れなども多く、即興になじみのない層が中心。果たしてどのようなパフォーマンスを試みるのか、立ち上がりに注目していたが、展開されたのはつい先程上映会で観たばかりの様々なライブと同じく、彼らならではのデュオとしか表現しようのない世界だった。総木造りの広いスペースに木漏れ日が降り注ぐ会場の雰囲気もあってか、齋藤のコントラバスから紡ぎ出される音は優しさを帯びた響き。矢萩の体の動きからも、そこはかとない優雅さが伝わってくる。しかし一方で両者が切り結ぶ瞬間には、研ぎ澄まされた緊張感と激しさが容赦なく火花を散らす。何のギミックも加えない、高純度の音とダンスの30分を超える交感が終わりを告げると同時に、オーディエンスからの大きな拍手が会場を満たした。

 

ライヴ終了後にはアフタートークが行われ、矢萩、齋藤、近藤の3名に、今回の会場の運営母体である足立病院院長で地域の子育て支援にも積極的に携わる畑山博氏、At-Kyoto代表の武田みどり氏・スズキキヨシ氏も加わり、参加者と意見交換を行う場面も。矢萩との10年にわたる共同創作活動について問われた齋藤は「最初に(コラボレーションを)始めたころは、竜太郎さんの集中力は5分しか持たなかった。それが今では、彼にしかできないダンスで皆を引っ張るまでになった。彼との関わりの中では、こちらが教えられたことの方が多いと思っている」「私自身も、病を得たことで『弱さの力』を知ることができた。竜太郎さんを始め、周りの皆さんが『弱さの力』を引き出してくれた」と回答。斎藤を慕い、その活動を側面から支える「チーム齋藤徹」の面々を矢萩が紹介するなど、「いずるば」という場に引き寄せられた人たちの結びつきの強さを感じさせるシーンも印象的だった。

「弱さ」にはある種の力が宿ること、「弱さの力」こそが既存の価値観を書き換えるブレイクスルーになりうるということを、音とダンスで提示した今回の上映とライヴ。障害の当事者やその家族にはもちろん、オーディエンス一人ひとりに確かな希望を分け与えたであろう、心に残るイベントだった。

 

※当日上映されたフィルムは完成前の作品を編集したダイジェスト版であり、正式リリース版とは異なっている場合があることをお断りします。

安藤誠

あんどう・まこと 街を回遊しながらダンスと音楽の即興セッションを楽しむイベント『LAND FES』ディレクター。

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