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Concerts/Live ShowsNo. 261

#1119 山下洋輔トリオ結成50周年記念コンサート
爆裂半世紀

text by Kenny Inaoka  稲岡邦彌
photo by Eiji Kikuchi  菊地英二

2019年12月23日(月)
新宿文化センター 大ホール

山下洋輔(p)
中村誠一(ts)森山威男(ds)坂田明(as)小山彰太(ds)林 栄一(as)
ゲスト:麿 赤兒 (舞踏)三上 寛 (g,vo) 坂本龍一 (p) タモリ (vo)

11月早々「あれから50年〜ニュージャズホールを知ってるか?」を聴きに新宿ピットインに出かけ、月末には『ECM catalog 増補改訂版』の上梓と「出版記念トーク・セッション」で「ECM50周年」が一段落したと思ったら、年内最後の50周年イベント「山下洋輔トリオ 50周年〜爆裂半世紀」が巡ってきた。今年3度目のそして最後の「50周年記念」である。
1800席の新宿文化センターの大ホール1800席を埋めた大観衆にとって山下洋輔トリオの50年は自らのジャズファンとしてのキャリアと重複する部分が多いに違いない。僕が初めて山下トリオに出会ったのは1973年の「インスピレーション&パワー〜フリージャズ大祭1」だった。僕らは2週間にわたって毎晩全出演グループの演奏を収録、2枚組コンピレーションを制作したが、山下トリオの演奏〈クレイ〉は2枚組LPの第4面に佐藤允彦のがらん堂〈Phase 13〉に続いて収録され掉尾を飾った。ミックスに立ち会ったのは森山威男dsと坂田明asだったが、爆走する森山を山下が大声で「モリヤマ!モリヤマ!」と必死にテーマに戻そうと呼びかける声が収録されており、森山が苦笑していたのを昨日のことのように覚えている。次に聴いたのがヨーロッパ出張中の1975年、オランダ・デン・ハーグでのノースシー・ジャズ・フェスティバル。国際会議場の会議室に乗り込んできた小柄な日本人3人組が大暴れ。額に巻かれた日の丸に「必勝」のハチマキからは汗が滴り落ちている(のように見えた)。超満員の聴衆はヤンヤヤンヤの大喝采。日本人として胸のすく思いがしたものだ。

さて、50周年記念爆裂半世紀は、第4期から第1期へと時計を戻していく構成。多くのジャズ・ミュージシャンが早世していくなかで77歳の山下を筆頭に全員が現役を張り続けているが故に実現した企画だ。唯一の例外が武田和命で1989年に49歳の若さで絶命している。僕はドラムを聴く時ドラマーのグリップにまず目が行くのだが、この日、第1、2期の森山威男はトラッド、第3、4期の小山彰太はマッチドだった。トラッドの場合はスイング感、グルーヴ感に富み、マッチドはスピード感にあふれたドラミングが特徴と思えるのだがどうだろうか。後年、ジャック・ディジョネットがマッチ度に変わっていたので尋ねたところ、スナップの使い過ぎで手首を痛め、トラッドの握りができなくなったと少し寂しげに答えたのが印象に残っている。それにしてもこの日の森山も小山もパワーとスピードの衰えを微塵も感じさせない演奏で聴衆を多いに沸かせていた。トップバッターの第4期、林栄一asと小山彰太を含むトリオは1曲目が林の〈ストロベリー・チューン〉、2曲目が小山の〈円周率〉とメンバーのオリジナルが続く。スロベリーはイチゴ→1、Vと和声と和声が、円周率は3.14、リズムが3,1,4と展開すると山下から説明があり、爆音に脳が痴れる前に脳の働きの助けを借りる楽曲を演奏してしまおうという配慮に頭が下がる。白塗りの麿赤兒の登場に注意はいつのまにかそちらに行ってしまったのだが。三上寛は先年、白楽のBitches Brewでわずかな客とともに間近で聴いた感動を鮮やかに蘇らせてくれた。坂田明もいつも通り元気一杯、1976年の世界を震撼させた『モントルー・アフター・グロウ』を再現、〈ゴースト〉からハナモゲラ歌謡を経て〈赤とんぼ〉の流れで当時レヴューをを書いたという隣席のジャズ評論家・青木和富の感涙を誘った。ゲストは麿赤兒、三上寛、坂本龍一、タモリの4人でそれぞれがそれぞれの磨き抜かれた芸・技で多いに存在感を示した。坂本はプリペイド・ピアノで山下のシングルトーン、アルペジオに対応、荒野にオアシスを現出させ、タモリは中村誠一を相手に山下トリオとの出会いをひとくさり、スキャットで、〈その場ブルース〉を怪演。アンコールはテーマに山下の必殺技エルボウ・スマッシュが入るというサービスの〈グガン〉で老若男女は揃って深く納得したのだった。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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