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Concerts/Live ShowsNo. 219

#901 レイモンド・マクモーリン・カルテット

2016年6月10日(金) 南青山Body & Soul

Report and photo by 齊藤聡 Akira Saito

Raymond McMorrin (ts)
David Bryant (p)
Yutaka Yoshida 吉田豊 (b)
Gene Jackson (ds)

1st set
1. Komuro Blues (McMorrin)
2. Jamming with Jesus (McMorrin)
3. In A Sentimental Mood (Ellington)
4. For My Brother Andy (McMorrin)

2nd set
1. Evidence (Monk)
2. Little B’s Poem (Hutcherson)
3. Higher Intelligence (Bryant)
4. Body & Soul (Green)
5. All of A Sudden (McMorrin)
6. Sonnymoon For Two (Rollins)

2016年6月10日、南青山のBody & Soulにおいてレイモンド・マクモーリン・カルテットのライヴが行われた。マクモーリンはしばしばこの場所で演奏を行っているのだが、本人は、ニューヨークで活動するピアニストのデイヴィッド・ブライアントも演奏するから、ぜひこの日に来るべきだと言った。

マクモーリンの演奏スタイルはストレートであり、ジャズの伝統が正面から受け継がれたものだ。加えて、そこかしこに個性と呼ぶべき味と技とがあり、聴いていて新鮮な驚きを覚えることが少なくない。この日もスタンダードとオリジナルとを織り交ぜて、懐の深い演奏をみせてくれた。

かれはテナーの低音を活かし、また、ボビー・ハッチャーソンの「Little B’s Poem」やスタンダード「Body & Soul」のイントロにおけるカデンツァにおいて、魅力的なオーヴァートーンを発した。オリジナル「For My Brother Andy」はジョン・コルトレーンの「Countdown」を想起させる曲想であったり、「Body & Soul」の中ではセロニアス・モンクの「’Round Midnight」を、ソニー・ロリンズの「Sonnymoon for Two」ではナット・キング・コールの名曲「Mona Lisa」を引用したりと遊び心もあって、とても楽しめるステージだった。

ジーン・ジャクソンのドラムスは目を見張るほど鋭く、短いスパンでのキメ技を立て続けに連発し、吉田豊の巧みで深い音色のベースとともに素晴らしいリズムを創りだした。それにしても、重量級かつシャープ、ただごとでない迫力である。1990年代にハービー・ハンコックのグループにおけるドラマーを務めたことも納得できようというものだ(ブートレグではあるが、ハービーの93年のピアノトリオ作『Live in New York』でかれの個性的なドラミングを十分に聴くことができる)。ところで、演奏後に筆者が別のバーで飲んでいると帰宅途中のマクモーリンも偶然来て、ジャクソンのドラムスは故セシル・モンローのプレイを思い出すと口走ったところ、言いたいことは解る、自分もかれと共演したことがあるんだと思い出を語った。

そして、マクモーリンのフェイヴァリット・ピアニストのブライアントは、とてもきらびやかでエネルギッシュ、幅広いプレイをみせた。スタンダード「In A Sentimental Mood」ではマクモーリンが吹いたフレーズを引き継ぐ形でソロを発展させるなど実に知的で、またときにはブギウギ風の愉快なピアノも弾いた。

ところで、マクモーリンは、かつて、故ジャッキー・マクリーンに師事している。ニューヨークで活躍するトランぺッターのジョシュ・エヴァンス Josh Evansは、マクリーンの教えを受け継ぐプレイヤーのひとりとしてマクモーリンの名前を挙げてもいる(JazzTokyoインタビュー)。この日、ブライアントに訊くとニューヨークのSmallsやMezzrowでよく演奏するんだよと言ったが、まさにこの6月から7月に、マクモーリンはデビュー作『RayMack』を引っさげてアメリカツアーを行い、そのSmallsではエヴァンスやブライアントと共演している。伝統と現在形、ニューヨークと東京とが地続きになっていて、とても愉快なことではないだろうか。

後日、ちょうどアメリカツアーを控えたマクモーリンが、短いインタビューに答えてくれた。

― ジャッキー・マクリーンのレッスンはどのようなものだった?

マクリーン教授は典型的な教科書の先生ではなかった。いつものレッスンは、いくつかのフレーズを吹くところからはじまったが、それは挨拶のようなものだった。そのあと、私自身のフレーズで応答するように求めてきて、それを5分から10分。次に、チャーリー・パーカーがよく吹いていたビバップやスタンダードを教えてくれたが、いつもそれは耳から、だった。楽譜だけを使う音楽はほとんどやらなかった。かれがバド・パウエルから教わったように、すべては耳からだった。レッスンのいちばん大事なポイントは、常に伝統を保持すること。かれはいつも、レスター・ヤング、コールマン・ホーキンス、デクスター・ゴードンらの伝統的なソロを学ぶことの大事さを強調していた。絶対に忘れられない、とても価値のあるレッスンだった。

― マクリーンに師事した他のプレイヤーたち、たとえばエイブラハム・バートン Abraham Burton、マイク・ディルーボ Mike Dirubbo、ルーミー・スパン Lummie Spann、ルネ・マクリーン Rene Mclean、ウェイン・エスコフェリー Wayne Escoffery、アントワーヌ・ルーニー Antoine Roneyといったサックス奏者や、トランペットのジョシュ・エヴァンス Josh Evansについて。

みんなニューヨークのジャズ・シーンでいまも演奏し大成功しているね。エイブラハム・バートンにはすごく影響を受けている。かれの強度とか音楽に持ち込む炎が本当に好きで。ステージでの存在感はとてもパワフルだ。

マイク・ディルーボはアメイジングだ。かれはまるで現代のジャッキー・マクリーン。トーンがとても美しい。

ルーミー・スパンとは同じ時期にジャッキーに教わったから、頻繁に共演した。かれは私の音楽のブラザー、いつもステージ上ではお互いに刺激しあった。いまのジャズ・シーンにおける若い世代のプレイヤーのなかでとても重要な存在だ。

ルネ・マクリーンも、みんなのもうひとりの先生だった。私が勉強していたハート・スクール・オブ・ミュージックに来ては、私たちに、新しい音や新しいコンセプトについて教えてくれた。かれの音楽はとてもパワフルで、父親と長年一緒にプレイしていたことが明らかにわかる。父親のサウンドと精神とを、かれの音楽のなかに見出すことができる。

ウェイン・エスコフェリーもまた、いまのジャズ・シーンにおいて大成功しているアメイジングなプレイヤーだ。かれはみんなと共演していて、ステージ上ではとても大きな存在だ。かれのサウンドはとても好きだ。

アントワーヌ・ルーニーはマクリーンの最初の生徒のひとりだ。いままで会った中でもっともユニークなプレイヤーのひとりでもある。かれのメロディのコンセプトはとても美しく、和音のコンセプトは複雑。かれからは多くのことを学ばせてもらった。ジョン・コルトレーンに大きな影響を受けているね。よく見落とされ、過小評価されていると感じる。

ジョシュ・エヴァンスは今日のジャズ・シーンにおいてとても大事な役割を果たしている。若いけれど、演奏は成熟している。かれもマクリーンに学び、何度もマクリーンと共演する機会があった。ラシッド・アリ Rashid Aliとも共演しているね。かれの演奏の中には多くの伝統がある一方、いつも前に進んでは新しいサウンドとコンセプトを模索している。大好きな若いトランぺッターだ。

― 今回共演したジーン・ジャクソン、デイヴィッド・ブライアント、吉田豊について。

Body & Soulでの6月10日のパフォーマンスは凄く特別なギグだった。デイヴィッド・ブライアントと一緒になって、他に誰がいいのかじっくり考えたんだ。もちろん、すぐにジーン・ジャクソンのことを思いついた。かれのコンセプトはとても幅広く、誰とでも共演できるしなんでも聴ける。共演するといつでも楽しい。実は、ある日アントワーヌ(・ルーニー)が、日本で一緒にやるならジーンがベスト・ドラマーだと言ってくれたことがあったんだよ。

吉田さんは、それはもう深いサウンドとソウルフルな感覚を持っていて、かれとジーンと共演するのが完璧だと思った。

デイヴィッドはたぶん共演相手として一番好みのピアニストだ。もちろん、ソロのコンセプトがとても先進的で多くの人の先を行っており、バッキングも完璧。私が演奏していることを正確に知っていて、また、いつ展開していつ弾かないようにするかも知っている。とても繊細なプレイヤーだ。

― 新譜『RayMack』について。

この6月21日に発売した。録音自体は2012年と新しくはないのだけれど、私には特別なものだ。共演者も本当にフェイヴァリット。

Josh Evans (tp)
David Bryant (p)
Dezron Douglas (b)
Curtis Torian (ds)

収録曲はすべて自分で作曲と編曲をした。全員が完璧な演奏をして、真っ当なフィーリングを注ぎ込んだ。特別なのは、スタジオ録音なのに、ライヴ・パフォーマンスのようにも聴こえるからでもある。このときのセッションのように、ステージ上でも演奏したいと思ったりする。聴いてもとても楽しめると思うよ。

― 自分自身のサックスの個性について。

とてもユニークなものだと思う。私はブルースやビバップの伝統の中で育った。自分としては、レスター・ヤング、コールマン・ホーキンス、チャーリー・パーカー、デクスター・ゴードン、ジョー・ヘンダーソン、ソニー・ロリンズ、ジャッキー・マクリーン、ジョン・コルトレーン、エリック・ドルフィー、その他大勢の要素を持っているんだと感じる。私は常に新しいサウンドを探そうとしているし、音楽を前に進めようとしている。目標は、音楽を聴いてくれる誰かのハートにいつでも触れることだ。みんなが聴き終わってから良い気持ちで帰路についてほしい。

― ニューヨークと東京のジャズ・シーンの違いについて。

うん、とても違う。たとえば、ニューヨークはもっとアグレッシブだ。演奏者たちは聴かれるからこそ前向き、ステージに立つからこそ聴いてもらえる。良いも悪いもそこで判断される、激しい競争がある。それでもっと練習したくなる。また、夜の8時から朝の5時まであるから、一晩に4つのギグでプレイできて、そのあとには他の人のギグを聴くことができる。電車が夜中も走っているからね。日本では12時か1時には電車が止まり、帰宅するためには11時半の終電に乗らなければならないから、その日の夜にどこに行くのかが決まってしまう。

日本には多くの良いプレイヤーがいて、みんな一緒にやりやすい。日本で演奏することをエンジョイしているよ。私の夢は、CDで共演したバンドをいつか日本に連れてくることだ。誰かスポンサーを見つけられれば、できると思う。

(文中敬称略)

 

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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