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Concerts/Live ShowsNo. 283

#1180 中川英二郎 オンライン個展ライヴ「Hitori Monsters」
with 本田雅人、エリック・ミヤシロ、スライド・モンスターズ

Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Yusuke Kitamura 北村勇祐

Eijiro Nakagawa SOLO_Exhibition “Hitori Monsters”
中川英二郎、初の単独オンラインライブ開催
2021年10月1日(金) 20:00
中川英二郎 Eijiro Nakagawa: trombone + looper
本田雅人 Masato Honda: sax
エリック・ミヤシロ Eric Miyashiro: trumpet, flugelhorn
SLIDE MONSTERS (中川英二郎、ジョセフ・アレッシ、マーシャル・ギルクス、ブラント・アテマ)

== 中川英二郎ソロ ==
Life is Beautiful
Heaven’s Kitchen
Boot City
Into The Sky
== 中川英二郎、本田雅人 ==
Scramble
Rodeo Clown
MEGALITH (本田雅人)
== SLIDE MONSTERS ==
Travelers
== 中川英二郎、エリック・ミヤシロ ==
SASUKE
== 中川英二郎、本田雅人、エリック・ミヤシロ ==
Secret Gate
12 Colors

All composed by Eijiro Nakagawa except noted.

Movie Director : Daisuke Fujii 藤井大輔
Lighting Director : Tomoyuki Soramoto 空本朋之 (unlight)
Live Recording : Kazuhiko Handa 半田和彦
Web/Visual Design : Yudai Osawa 大澤悠大 (Aroe Inc.)
Production : Team MOV. by KAJIMOTO
主催・企画制作 : KAJIMOTO / EN RECORDS

トロンボーンの日本におけるファーストコールプレイヤーであり世界でソリストとして活躍してきた中川英二郎。1975年生まれ、5歳からトロンボーンを始めて、高校生のとき、ニューヨークでリーダーアルバムをレコーディング。ジャンルを超えてレコーディングやライヴで活躍し、日本のテレビなどから聞こえるトロンボーンの半分以上は中川と言われる。COVID-19感染拡大で活動が制約され、4人組スーパー・トロンボーン・ユニット「SLIDE MONSTERS」の来日ツアーも延期となったままという状況下で、自身初となる単独オンラインライブを「個展」をコンセプトに全世界へ配信。フジロックの映像等を担当する藤井大輔が映像監督を務めた。詳細はこちら

最初のシーンは、額縁越しに演奏する中川英二郎。「個展」であることを印象付ける。なおこの額縁はKAJIMOTOの梶本眞秀社長の私物だそうだ。当日に向けて中川は連日のInstagramライヴなどで盛り上げてきていて、1曲目が何か注目が集まる。そして中川がソロで奏で出したのは、自らのルーツであるデキシーランドスタイルで書いたオリジナル<Life is Beautiful>、父と制作した『中川喜弘 & DIXIE SUMMIT / Tribute to Dixieland Jazz』のために書き下ろされた曲だ。2曲目は『Trisense』から<Heaven’s Kichen>を美しく幸福感と爽やかさを持って歌い上げる。

白背景のシンプルなソロステージから、照明やレーザー光線にも凝ったステージへ移動。<Boot City>から本格的にルーパーを使い、トロンボーンの音を重ね、パーカッションの音も加えて圧倒的なグルーヴを作り出す。今回、中川はルーパーは初めて使うが、そのタイミングの難しさもあるものを的確に使いこなしていて、本来のリズム感と構成力の凄さによるものだ。そして、人気の高い<Into the Sky>もルーパーヴァージョンで。COVID-19で飛行機での旅も儘ならない中で、スピード感と上昇感を持つ中川の演奏には希望を感じる。動画が公開されているのでご覧いただきたい。

中川英二郎 – Into The Sky (Solo & Loop Pedal Set)

ゲストとして予告されていた本田雅人が登場して3曲を演奏。中川のソロだけでも満足していたが、名手2人の共演で2倍以上に世界が広がる。トークも楽しい。中川が高校生でニューヨークで録音した『中川英二郎 & ファンク 55』の1曲目<Scramble>。デビュー時からファンクを指向していたこと、そのファンク愛はこの「個展」でも如実に表れている。<Rodeo Clown>は『SLIDE MONSTERS』から4人を2人に凝縮して演奏。「こんな曲は自分には絶対書けない」ということで、本田雅人がT-SQUAREに書いた<MEGALITH>も取り上げる。

中川がプロデュースし、ニューヨークフィルの首席トロンボーン奏者ジョセフ・アレッシと結成した4人組スーパー・トロンボーン・ユニット「SLIDE MONSTERS」も映像とメッセージで参加し、最新アルバム『Travelers』からタイトル曲<Travelers>を、リモートで収録した動画で公開した。

ここでトランペットのエリック・ミヤシロがサプライズで出演。登場の仕方も相当なサプライズだったが、文字にしてもつまらないので割愛。最近では、中川英二郎、エリック・ミヤシロ、本田雅人の3人での出演が定番化してきていて、期待を裏切らないサプライズ。新日本フィルとのコンサートもそうだし、エリック率いるブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラにしてもこの3人(+小池 修)が固定スターになってきた。最高のジャズ管楽器奏者は無伴奏ソロでも最高のグルーヴとハーモニーを即興で表現するが、この3人がリズム隊なしで共演すると、緻密にデザインされた室内楽曲のような趣さえあり、そしてフレキシブルにインタラクティヴに変化していく。不思議にクラシックの美しさと繋がる感覚もあって、中川を、そして結果的にこのトリオをKAJIMOTOがマネージメントする(機会がある)意味がわかるような気がする。個人的には、このユニットは、吹奏楽経験者、ジャズ経験者/ファンとクラシックが繋がる接点としても非常に貴重だと思っていて、その意味では今回の企画とも、中川の音楽的必然性とも全く別な話だが、吹奏楽経験者で最も人口が多い(卒業後辞めてしまう率も高い)クラリネットで、身近でジャンルを超えたスタープレイヤーをKAJIMOTOが立てて活かすことができたらと妄想したりもする。

ともあれ、エリックのフリューゲルホルンと中川のデュオで、侍BRASSの世界観から<SASUKE>を演奏。凛とした空気と変幻自在な演奏。本田が戻って3人で<Secret Gate>で熱い演奏を聴かせる。『小曽根真 featuring No Name Horses / Until We Vanish 15 X 15』 のために中川が書いた<12 Colors>。文字通りカラフルな曲だがビッグバンドではなくミニマムな編成でもそれを表現する。

2022年以降、中川のソロ活動、この3人での取り組みもリアルで聴く機会は増えると思うし、『SLIDE MONSTERS』の国内ツアー、そして欧米での演奏も実現することを期待したい。他方、リアルのライヴがベストであるにしても、中川、エリック、本田に限って言えば、個人的には全国津々浦々の吹奏楽部の小中高生や管楽器ファンに観て、楽しさを感じて欲しいと願っていて、その意味ではリアル以上に価値がある取り組みだと思っている(中川のInstagramライヴで、トロンボーンについてあらゆる質問に答えていたのも驚きだった)。

メイキングビデオも公開されたが、配信で見える以上に豪華で緻密なセッティングだった。もともとクラシックの音楽事務所KAJIMOTOが映像にここまで本気を出したことに驚かされた。 今後も中川はもちろん、それ以外のアーティストでもこれに続く新しい取り組みに期待したい。このオンラインライブが企画され開催されたのは、まだCOVID-19感染者数も非常に多く、個々のライヴやコンサートが、開催できる、開催できないで予断を許さなかった時期だった。3人も開催できる、できないで心が折れそうになる経験を語っていた。そんな中にあって単なる無観客ライヴ配信ではなく、リアルタイムで時間を共有し、最高の映像スタッフとゲストを擁しての「個展」となる映像体験を実現し、新しい次元を切り開いたことを賞賛したい。

SLIDE MONSTERS “Trisense”

SLIDE MONSTERS “Cora’s Tune”

SUPER BRASS STARS meets New Japan Philharmonic

中川英二郎 × 本田雅人 × エリック・ミヤシロ – BLUOOM X SEP 2020 | Joe Zawinul: Birdland

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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