#1182 石川紅奈 デュオ with 壷阪健登 at HAMACHO DINING & BAR SESSiON
Text & Photo by Hideo Kanno 神野秀雄
石川紅奈 デュオ with 壷阪健登
Kurena Ishikawa Duo with Kento Tsubosaka
HAMACHO DINING & BAR SESSiON
2021年10月20日(水) 19:00〜20:00
石川紅奈 Kurena Ishikawa: bass & vocal
壷阪健登 Kento Tsubosaka: piano
I Didn’t Know What Time It Was (Richard Rodgers. Lyric: Lorenz Hart)
I Can’t Help It (Stevie Wonder & Susaye Greene)
Blackbird (John Lennon & Paul McCartney)
Chega de Saudade / No More Blues
(Antônio Carlos Jobim, lyrics: Vinícius de Moraes
English lyrics: Jon Hendricks & Jessie Cavanaugh)
Nearness of You (Hoagy Carmichael, lyrics: Ned Washington)
Like Someone in Love (Jimmy Van Heusen, lyrics: Johnny Burke)
It Might as Well Be Like Spring (Richard Rodgers & Oscar Hammerstein II)
Encore:
I’ll Remember April (Gene de Paul, lyrics: Patricia Johnston & Don Raye)
日本橋浜町に2019年2月にオープンした「浜町ホテル東京」1階の「HAMACHO DINING & BAR SESSiON」は、下町の気軽に立ち寄れる「街のダイニング」をコンセプトにしながら、高い天井と落ち着いた雰囲気を持ち、そしてブルーノート・ジャパンがプロデュース・運営。お手頃美味しい食と酒を楽しめる。月2回ほどピアノライヴ「MUSIC SESSiON」が開催されているが、加藤真亜沙、RINAをはじめ、アメリカ在住で活躍していてCOVID-19で帰国中のピアニストたち、武本和大のような気鋭のピアニストも出演するからそのクオリティは高い。
今回は、ウッドベースソロでの弾き語りでも静かに注目を集めつつあるベーシスト石川紅奈(いしかわくれな)と、バークリー音楽大学を主席で卒業し、COVID-19でボストンから帰国中のピアニスト壷阪健登(つぼさかけんと)のデュオ。ブルーノート的には、「小曽根 真 “OZONE 60 in Club” New Project “From OZONE till Dawn”」に石川が抜擢され、2021年11月1日〜2日、コットンクラブに小曽根 真、デニス・フレーゼ、曲輪大地とともに出演というところで繋がっている。石川は、埼玉県出身、県立朝霞高校ジャズバンド部への入部をきっかけにベースの音色、質感に惹かれる。高校生のときに国立音楽大学のオープンキャンパスで演奏したところ、小曽根 真教授からぜひ国立に来て欲しいというメッセージが届く。そして国立音楽大学ジャズ専修にてジャズベースを井上陽介、金子 健に師事。大学卒業後には、ヴォーカルを高島みほに師事。これまでに小曽根 真、池田 篤、大西順子、JUJUなどと共演している。またFMラジオ川越で日曜23時から「ジャズ喫茶くれな」のパーソナリティを務める。筆者は数年前にポーランドジャズ関連のイベントで紅奈に知り合う機会があったが、その後Twitterにベース弾き語り映像が上がってきてその素晴らしさにノックアウトされていた。紅奈とベーシスト佐藤潤一のベースデュオにも期待している。
壷阪健登は横浜市出身で、慶應義塾大学を卒業後、奨学金を得てバークリー音楽大学へ。2017年、オーディションを経て、ダニーロ・ペレスが音楽監督を務める音楽家育成コースのBerklee Global Jazz Instituteに選抜される。2019年にバークリー音楽大学を主席で卒業、ボストンを拠点にライブやレコーディング、他アーティストへの楽曲、アレンジ提供と活躍していたが、COVID-19のため帰国した。ジャズピアノを板橋文夫、大西順子、作曲をヴァディム・ネセロフスキー。テレンス・ブランチャードに師事し、ミゲル・ゼノン、ジョン・パティトゥッチ、パキート・デリヴェラ、キャサリン・ラッセル、フランシスコ・メラ、黒田卓也などと共演。帰国後、東京でもライヴ出演の機会が増えていて、筆者は、黒田卓也とのセッション、片山士駿、浅利史花とのユニット「キリヱ」で出会い、その美しい音色と個性豊かなテイストとグルーヴに魅せられている。
注目していた2人の共演、そしてベース弾き語り中心のライヴとあっては見逃すわけにはいかない。45分予定という極めて限られた時間だったが、2人の魅力が凝縮された素晴らしいライヴとなった。選曲としてはホテルのダイニングを意識して、スタンダードの名曲を中心に据えながら、マイケル・ジャクソンで知られる<I can’t Help It>、ビートルズの<Blackbird>、アントニオ・カルロス・ジョビン作曲で、ジョアン・ジルベルトがボサノヴァの時代を拓いた<No More Blues (Chega de Saudade)>も配している。これらの選曲にもジャンルを超える音楽愛と知識とセンスが光る。<Blackbird>と<No More Blues>は、当日の抜粋動画がアップされていて記事末尾に付けたのでご覧いただきたい。また、マイケル・ジャクソンの歌うナンバーとしては、コットンクラブでの<Off the Wall>の動画も記事末尾で紹介した。
ウッドベース弾き語りでは、エスペランサ・スポルディングの素晴らしい演奏を思い出すものの、あちらはバンドだったが、紅奈はベース1本から確かなハーモニーとグルーヴと対位法を繰り出すという点でその素晴らしさは確かなものだ。全く異なる単音2つのフレーズをずっと奏で続けるのは、ピアノやギターの弾き語りに比べてもかなり難しいはず。両者に言えることだが低音から高音までをシームレスに操れる音楽的な価値と、未来へ広がっていく可能性はとても大きい。
壷阪の黒田卓也セッションなどで魅せる迫真のピアノプレイとか、紅奈の巧みなベースの技の世界ももちろんあって、それに比べると「爪を隠す」感もないではないのだが、そういった引き出しを秘め、もちろんこれまでもバラードやリリカルな曲に発揮されてきた美しさをプレイに込めた演奏で、いたずらにリハーモナイズに凝ったりするでもなく、ベーシックに透明感と安らぎを持って2人が響き合う。壷阪の美しく優しく流れるピアノと、紅奈の柔らかく優しく穏やかでそれでいて輪郭が立って心に染みる歌、2人の美しく端正で気品のあるしっとりとしたインタープレイと空気感に酔う。ヴィジュアルで語るのもどうかと思うが、壷坂と紅奈がこの空間にいるのが、気品と若さを両立させながらとても絵になっていて、ブルーノート直営のダイニング&バーでの演奏に相応しかった。
<Nearness of You>から<Like Someone in Love>、<It Might as Well Be Like Spring>へと珠玉の名曲が続く後半の下りでさらに惹きつけられていく。鳴り止まない拍手にアンコールで<I’ll Remember April>が歌われて幕を閉じた。終演後の余韻までが楽しめる爽やかなライヴとなった。
この選曲が今回、足し算引き算の要らない完璧なものであったとした上で、筆者の経験では「SESSiON」ライヴに来る客は、さまざまな演奏についてこれる耳と気持ちを持っているようで、出演者のオリジナルもよく演奏される。次回デュオがあったらオリジナルや攻めた選曲、熱い演奏も含めてコントラストをつけてみるのもオプションとして面白いかとも思った。
壺阪も紅奈もこれからが楽しみな逸材で、デュオの再演を望むと共に、それぞれの活躍を心から応援していきたい。
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石川紅奈 / Off The Wall
at Cotton Club
With Time (Kento Tsubosaka)
Kento Tsubosaka (piano), Charlie Lincoln (bass), Willis Edmundson (drums), Bengisu Gokce (violin), Shao Chia Lee (cello)
Kento Tsubosaka Trio – Everything I Love (Cole Porter)
Kento Tsubosaka (piano), Charlie Lincoln (bass), Bob Gullotti (drums)
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