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#1187 映画『ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン』
映画『Chasing Trane, The John Coltrane Documentary』

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

映画『ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン』
『Chasing Trane, The John Coltrane Documentary』
(2016)
2021年12月3日より、ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国ロードショー 詳細
監督:ジョン・シャインフェルド   日本語字幕:落合寿和
配給:Eastworld Entertainment/カルチャヴィル

Director / Writer: John Scheinfeld
Denzel Washington (as John Coltrane’s voice),
Antonia Andrews (stepdaughter), President Bill Clinton, Michelle Coltrane (stepdaughter)
Oran Coltrane (son), Ravi Coltrane (son), Common (Academy Award®-winning composer, hip-hop artist)
John Densmore (drummer, The Doors), Yasuhiro Fujioka (#1 collector of Coltrane memorabilia in the world), Nagaharu Fukushima (Japanese radio personality), Benny Golson (saxophonist/Coltrane friend)
Jimmy Heath (saxophonist/Coltrane friend), Ashley Kahn (Coltrane biographer), Wynton Marsalis (artistic director, Jazz at Lincoln Center), Lewis Porter (Coltrane biographer), Ben Ratliff (music critic, The New York Times), Sonny Rollins (saxophonist/Coltrane friend), Carlos Santana (legendary guitarist), Wayne Shorter (saxophonist/Coltrane friend), McCoy Tyner (pianist/Coltrane friend), Kamasi Washington (saxophonist)
Dr. Cornel West (philosopher), Reggie Workman (bass player/Coltrane friend)

ジョン・コルトレーン(1926年9月23日〜1967年7月17日)の初の本格的な伝記映画となる『ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン』が2021年12月3日より日本で上映される。上映館などの詳細はこちら。配給元はユニバーサルミュージックの映像配給ブランド『Eastworld Entertainment』。オリジナル・サウンドトラック盤も発売されている。また、1965年のライヴ音源が発掘され2021年10月にリリースされた『至上の愛〜ライヴ・イン・シアトル』も関連音源として注目したい。

アメリカでは2017年4月14日に『Chasing Trane, The John Coltrane Documentary』として公開され、ワールド・プレミアはニューヨーク・ブルーノート近くのIFCセンター。写真は4月15日に劇場に現れた監督ジョン・シャインフェルドと、コルトレーンの親友ベニー・ゴルソンで、上映後にQ & Aセッションが行われた。監督は、ジョン・レノン、オノ・ヨーコとアメリカ政府の闘いを描く『The U.S. v.s. John Lennon』(2007)、シンガー・ソングライター、ハリー・ニルソンを描いた『Who Is Harry Nilsson (And Why Is Everybody Talkin’ About Him)』(2017)など、ジャズに留まらずミュージシャンの”人”を追った映画を制作してきた。


L: John Coltrane Photo By Chuck Stewart, featured in CHASING TRANE The John Coltrane Documentary, by director John Scheinfeld
R: John Coltrane By Don Schlitten, featured in CHASING TRANE The John Coltrane Documentary, by director John Scheinfeld

映画は、貴重なライブ映像と、ミュージシャン、家族、友人たちのインタビューで構成されている。コルトレーンのインタビュー映像・音声はほとんどなく、他方、テキストとしては言葉やインタビューが多数残されているため、デンゼル・ワシントンに声の出演を申し入れ、快諾を得た。アメリカ大統領であったビル・クリントンが”黒人ミュージシャン”を語るのも歴史の中では象徴的であり、オバマ大統領が国際ジャズデイ・グローバル・コンサートをホワイトハウスで開催したことにもつながる。新世代では、カマシ・ワシントンがコメントするが、私もサックス吹きのはしくれとしては、マイケル・ブレッカー、ヤン・ガルバレク、クリス・ポッターなどコルトレーンに直接影響を受けた世代のサックスプレーヤーのコメントもきいてみたかったが、もちろん本人と時代を共にした人々を優先するのはドキュメンタリーとして当然だ。

“ジョン・コルトレーンが音楽の創造性のさまざまな段階を経て行ったことを考えると、彼はピカソが行ったことと同等のことを、(ピカソよりも)50年ほど短い時間で達成したと言えます。” ― ビル・クリントン (第42代アメリカ合衆国大統領)

こうして構築された映画で、生い立ちから、チャリー・パーカー、ディジー・ガレスピーやマイルス・デイヴィスとの出会いをはじめ、コルトレーンの人生の大きな流れや転機、それを取り巻く環境や人々など、文字通り「トレーンを追う」ことができる。来日ツアーでのシーンもあり、日本のファンには特別な感情を持ってみることができるだろう。コルトレーン研究の世界的第一人者のひとりで、世界最大のコルトレーン関連コレクションを持つ藤岡靖洋も登場する。


L+R: ©Don-Schlitten

とはいえ、39歳で来日後、40歳で短い生涯を終えたコルトレーンが、”聖者” に向かって突き進む中での、苦悩、葛藤や、レコード会社を含む周囲の無理解や軋轢、無念な想いは描き切れていない、いや敢えて踏み込まず、晩年を美しく描き切った気がした。ここが ”悲しくてやり切れない” 映画『JACO』との大きな違いとなっている。それは、描き方の善し悪しではなく、時を経て評価を確かなものにしたコルトレーンの存在と音楽と、天才でありながら壊れていった変人と認識されるジャコ・パストリアスの差はあるのだろう。また人を描くか音楽を描くかのバランスにもよる。

2022年にはジョン・コルトレーン没後55年を迎えるが、今の10代〜20代から見ればあまりにも遠い過去であり、しかしあらゆるジャズ、さまざまな音楽の隅々にコルトレーンの存在が息づいている。IFCセンターには、いまどきのロックバンドDNCEのベーシスト、コール・ウィットルも見に来ていてInstagramに「あなたが音楽を愛し、音楽に生きているなら、『Chasing Trane』を必ず見るべきだ。」とSNSに書いていた。『ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン』にしても、『JACO』『パコ・デ・ルシア〜灼熱のギタリスト』にしても、その直接のファン以上に、いやジャズ・ファンですらなくても、学生や若い世代にこそ見ていただいて、スタイルを問わず、音楽に真摯に向き合うこと、オリジナルであり続け、存在しない音を見つけ切り拓いて行くことの苦悩と歓びをぜひ感じてもらいたいと思う。

I don’t recognize the word “jazz”, I play “John Coltrane.”
“ジャズ”の定義は分からない、私は私自身の演奏をするだけだ。 ― ジョン・コルトレーン



World Premier at New York. Photo by Naomi Kitano


L: Photo by Francis Wolff R: Photo by Francis Wolf ©Mosaic Images

オリジナル英語版 予告編

※「JAZZ TOKYO 2017年5月号」でのアメリカ公開/ワールドプレミア時の記事より再編集した。

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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