#1259 徹の部屋ふたたび 不在の在
~『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』出版記念
text by Momoko Oshida 忍田百々子
photos by Tatsunori Itako 潮来辰典
不在の在。
徹の部屋ふたたび 不在の在 ~『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』(カンパニー社)出版記念
日時:2023年4月23日(日)開場15:30 開演16:00
会場:いずるば(東京都大田区田園調布本町38-8)
料金:3,000円(ワンドリンク付き) 定員40名
自身の結婚式の後、夜中のアケタの店に初めて行った男の話から始めたいと思う。
それは、口下手な男にとって、結婚式という人生の舞台の、あまりの緊張のためにでた奇行か、はたまた音楽の神様のお導きか。関西人である彼にとって、右も左もわからない東京で音楽を聴くのに、その当時どんな情報を辿り深夜の西荻窪までたどり着いたのか。
もちろん花嫁はホテルにいる。夢見心地のベッドの中、あるいは不在の結婚相手を夢の中で探しているのか。
その夜中、店主明田川さんとぽつりぽつりと話し出したその男は後に、齋藤徹さんのアルバム『INVITATION』をつくることになる。
音楽とはまったく関わりのなかった人が、齋藤さんの音や生き方に魅了され、音の世界に踏み出すことになったのだ。
昨年カンパニー社から刊行された『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』の出版記念として「徹の部屋 ふたたび 不在の在」が、大田区田園調布にある “いずるば” という会場で行われた。
「徹の部屋」という会を主催されていた齋藤さんご自身のホームグランドでもある。
ベースコレクティブ(田嶋真佐雄、田辺和弘、瀬尾高志)+ 矢萩竜太郎(ダンス)さん。
コントラバス3体の演奏が始まったその瞬間、彼らの奏でる音の呼びかけに応えるが如く、+1のコントラバスの気配、それはまさしく不在人の在。
続いて著者である齊藤聡さんと、齋藤徹さんのお弟子さんでもある南谷洋策(皮膚科医/コントラバス/写真)のトークセッションでは著書の内容と併せインティメイトな関係から紐解く、問う、といった掛け合い。間に川島誠さんのサックスソロ、岩下徹さんのダンスが加わり、詩人 野村喜和夫さんにいたっては追悼の詩作を朗読されました。
「齋藤徹」とは誰であったのか。
すでに不在、そして強烈なPresence -存在- は演奏者ゆえのEgoismでありそのための演奏であったのか。
尽きぬ問いを不在人の残した音や言葉、気配から読み取る、そんな温かい会でした。
いずるばの会場主からは、「齋藤徹さんは”求道人”であった。」という一言が会の最後に発され、その一言に合点がいきます。参加された出演者諸々、そういった齋藤さんの生きる姿勢への憧憬あってのことなのかもしれません。
それにしても、会場となった「いずるば」午後16時30分に差し込んだ光のなんと美しかったことか。
不在人は、光となって在。そんな、2023年4月23日の「徹の部屋」でした。
この日の音源は以下の通り。(音源所有者:齊藤聡さんのリストより)
●コントラバスソロ
『Tokio Tango』(1986)より<Mai Dance Lesson>
『パナリ』(1995)より<アシビ>
『Invitation』(1998)より<エドガーの日常>
『Travessia』(2016)より<霧の中の風景>
●デュオ
アケタの店 w/ ウルトラレジェンド(1987)
『交感』(1999)より<風の歓> w/ ミシェル・ドネダ
『往来』(1999)より<エドガーの日常> w/ 小山彰太
『Amapola』(2006)より<Amazing Grace> w/ 井野信義
●ジャズ
『往来』(1999)より<Come Sunday>
●韓国、黒潮
『ユーラシアンエコーズ/弦打』(1993)より<サルプリ><ホジョク・シナウィ>
『Stone Out』(1995)より<送出><Just Accept>
『Pagan Hymn』(1999)より<IV>
●タンゴ
『Ausencias 不在』(1997)より<Biyuya>
●日本の伝統音楽
久田舜一郎『舜』(2000)より<月の壺>
●うた
だいだらぼっち『螺旋階段な日常』(2011)より<エドガーの日常>(齋藤徹不参加)
うたをさがして『live at Pole Pole za』(2011)より<霧の中の風景>
オペリータうたをさがして『live at Gewand Halle Hiroshima』(2014)より<よみがえりの花が咲く>
2009年から「読む、食べる、聴く」を軸に、国際交流基金、出版関係、個人企画でイベントをプロデュース。