JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 57,225 回

ReviewsNo. 234

#1441『Todd Neufeld / Mu’U』

今月の Cross Review #2『Todd Neufeld / Mu’U』

text by Masanori Tada  多田雅範

Ruweh 005

Todd Neufeld (electric guitar)
Thomas Morgan (acoustic bass)
Tyshawn Sorey (drums, bass trombone : 5 and 7)
Billy Mintz (drums, congas : 2)
Rema Hasumi (voice : 2, 5, 7, 8)

Dynamics
Echo’s Bones
Entrance
C.G.F.
Contraction
Taunti
Novo Voce
Kira
Nor
Recorded October 2016 at Sear Sound
Engineered by Aya Merrill
Mixed by Owen Mulholland
Mastered by Luis Bacque
Album artwork from Swindon Viewpoint
Design by Karol Stolarek
_________________________________________________________________________________________________

2012年ブルーノート東京へ6年ぶりの凱旋公演をする菊地雅章が連れてきたのは、まだ録音物がリリースされていないTPTトリオ(Thomas Morgan, Poo, Todd Neufeld)だった、・・・いまだに彼らの音源はリリースされていないのは大問題だ、わけだが2日間4ステージのすべてを体感する構えでいたわたしは最初のセットで演奏の極度の集中力と強さと可能性に打たれ、脳が震え体温が低下してしまいリタイアしている、そんな体験は後にも先にもないぞな、

マーク・ラパポートさんが先月Face Bookに投稿していた、

Guitarist Todd Neufeld can whisper as assertively as he can wail. His long-awaited debut album is a riveting listen.
「晩年の菊地雅章が非常に高く評価し、自らのトリオに迎えたギターリスト、トッド・ニューフェルドが遂に初リーダー作をリリースする。メンツはトーマス・モーガン、タイショーン・ソーリー、蓮見令麻、そして何とビリー・ミンツ(タイショーンとのツイン・ドラムスもあり!)。少ない音数と魅惑の音色で自己主張するニューフェルドには、まるで墨絵の名手のような渋みを感じる。」

言うまでもなく90年代以降の現代ジャズシーンの可能性を読者に示唆し続けていたミュージックマガジン誌コラム「じゃずじゃ」をむさぼるように読んでいたわたしのようなラパポート・チルドレンは多い、ディスクユニオンの輸入盤コーナーにはたくさんいる。

早くも9月7日付のAll About Jazzに興味深いインタビュー記事が掲載された、

『Todd Neufeld: Transcending The Limits Of Sound サウンドの限界を超えて』

https://www.allaboutjazz.com/todd-neufeld-transcending-the-limits-of-sound-todd-neufeld-by-jakob-baekgaard.php?page=1&width=1920

記事にはトッド・ニューフェルドのディスコグラフィーが載っていて重要作を拾ってみるに、

Todd Neufeld: Mu’U (Ruweh Records, 2017)
Vitor Goncalves Quartet: Vitor Goncalves Quartet (Sunnyside Records, 2016)
Raphael Malfliet: Noumenon (Ruweh Records, 2016) ★
Flin VanHemmen: Drums of Days (Neither/Nor Records, 2016) ★
Rema Hasumi: UTAZATA (Ruweh Records, 2015)
Tyshawn Sorey: OBLIQUE I (Pi Recordings, 2011)
Tyshawn Sorey: KOAN (482 Music, 2009)

わたしはジャズ批評・益子博之の耳のアンテナの鋭さをアーカイブするイベント『四谷音盤茶会』を7年ほど続けていて、昨年2016年の年間ベストを音楽サイトmusicircusに掲げているが、

http://musicircus.on.coocan.jp/main/2016_10/tx_3.htm

トッド・ニューフェルド★とタイションでベスト3を独占していることだ、改めて驚いていると書くとわざとらしいが3歩歩くと駐車場の位置を忘れてしまう老人運転手であるわたしには自然だ、

じつを言うと、2012年TPTトリオで体温低下をして以来、ジャズというジャンルの新譜や記事や広告雑誌が把握できなくなっている、のだ、それまで Jazz / Improv としてきた脳内が improvised jazz と統合されたパラダイムシフトによって感覚が変容したのであろうか、モチアンとプーさんがいなくなってからどうもなあチャーリーパーカーでさえ引き出しフレーズ連射にしか聴こえなくなってねえサウンドの風景はちっともインプロしてないじゃないかと与太をかますばかりになっている、

この春には蓮見令麻『Billows of Blue』をレビュー、「私たちは日々、生まれ、死んでいる、気付かずに老いていれるか、ピアノの革命が蓮見令麻によってなされていた、」とぶち上げて、ずっとこればかり聴いている、ほかのものが聴けない、

#1397『Rema Hasumi 蓮見令麻 / Billows of Blue』

(記事にはレコーディングセッションの動画が貼られています!)

このトッド・ニューフェルドの新譜『Mu’u』を全面完全即興しているものとして聴いていたのだよー、何言ってんですかちゃんとコンポジションが元にありますよでなければギターやベースのコードが同期できるわけないじゃないですかー、てなやりとりを亀戸ホルモンの行列に並びながら近づく台風かさ一本に半身を濡らして考える、 composition と improvisation の相互浸食する相ではないのか、

まさに鬼気迫る集中力の即興合気道ごとき居抜き一撃の応酬に痺れる1曲目、は「Dynamics」というコンセプト作曲なのけ?そんなバカな、2曲目ビリー・ミンツが叩くコンガはDヴィレージェス『エムボコ』にリンクするようなあくまでも即興に資する歩みの自由度、いやーこれもインプロジャズとして聴取するんだぜ、4曲目「cgf」ってコード名なのかな知らんがな、出た!5曲目は長尺に奏者たちの聴くちからに身を任せるような怪演だ、作曲なり見取り図があったとするとおれは意気消沈してしまうんだよ、これは即興なんだよ、

菊地雅章が身を挺してこじ開けたインプロジャズは、胚胎しその種子となった核がいたるところに内在していることが聴きとることができる、しかしながらそれは、卓抜した演奏者、ここの5にん、トロンボーンを繰るタイションも含む、によってでしか到達できない結果として、だ、もとよりジャズは奏者の力量がものを言う、

インタビューのこの部分、

But, the basic philosophy he taught Thomas and I, was to measure the dynamics. The dynamics between notes, between musicians, between the overtones, between the environment. They all had a type of energy relationship, or counterpoint, that you needed to be tuned to.

彼らの「速度」というのは、瞬時に正しい音を放つ、という事態だ。「正しい」という語は適切ではない、終止形の正しさではなくて、謎を保持したり次の可能性を拓くような創造をもたらす生命のような正しさ、

TPTトリオのときは痙攣するような打音に”ギターの菊地雅章だ”という声に膝を叩いていたものだが、その後のニューフェルド参加作を耳にしてジャズギターのすべてを手中にしているかのような技術の蓄積も体感した、つまりは名人はシングルノートで痕跡を残す、吉増剛造の詩のようなものだ、ここでのニューフェルドは自在に奏法を披露してもいる、初リーダー作だもの自画像だもの当然、

それにしても、

なんでミュージシャンはこの演奏を聴いてこのような地平で演奏したくならないのだろうか!と楽器を持たないわたしはこの新譜『Mu’u』を聴きながら思うのだ、おのれが自由にジャズしているという枠組みがいかに地域限定的なのか時代限定的なのか嫌気がさすだろうなと思うのだ、言っとくが巷のフリージャズのいかに不自由なことかという批評だってこの音楽にはある、20年前にはモチアン Paul Motian 、ジョー・マネリ Joe Maneri 、スレッギル Henry Threadgill が現代ジャズのキモだと騒いでいたおいらだ、耳に狂いはないぞ、

(おしまい!)

予告

『益子博之×多田雅範=四谷音盤茶会 vol. 27』

10月22日(日)19:00 – 22:00
喫茶茶会記〒160-0015 東京都 新宿区大京町2-4 サウンドビル1F

ゲスト:田中徳崇(ドラム奏者)
参加費:¥1,300 (1ドリンク付き)

今回は、2017年第3 四半期(7~9月)に入手したニューヨーク ダウンタウン~ブルックリンのジャズを中心とした新譜CDをご紹介します。

ゲストには、ドラム奏者の田中徳崇さんをお迎えします。シカゴでの10年に及ぶ活動を経て、ジャズに留まらない多彩な領域で幅広く活躍する田中さんは、現在のニューヨークを中心としたシーンの動向をどのように聴くのでしょうか。お楽しみに。(益子博之)

(久しぶりに参考した記事)

菊地雅章のTPTトリオ来日時のインタビュー

http://www.hmv.co.jp/news/article/1207240029/

トーマスモーガンへのインタビュー

http://www.jazztokyo.com/interview/interview118.html

『日野=菊地クインテット/カウンターカレント』化けたモーガンを発見したCDレビュー

http://www.jazztokyo.com/newdisc/558/hino_kikuchi.html

多田雅範

Masanori Tada / 多田雅範 Niseko-Rossy Pi-Pikoe 1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください