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音質マイスター萩原光男のサウンドチェックNo. 318

#3『佐藤允彦&森山威男 feat. レオン・ブランチャード&アイドリス・ラーマン / LIVE AT CAFÉ OTO』

text by Mitsuo Hagiwara 萩原光男

BBE Music

森山威男 (drums)
佐藤允彦 (piano)
Idris Rahman (tenor sax)
Leon Brichard (electric bass)

1. Evening Snow
2. リンゴ追分
3. East Plants
4. 渡良瀬
5. Other Worlds
6. キアズマ

Recorded live at Café Oto, 8 September 2019
Produced by Tony Higgins
Mixing by Masahiko Satoh
Mastering by Taishi Taruoka
Mastering and Lacquer cut by Frank Merritt at The Carvery
Photography by Eddie Otchere & Tony Higgins
Design by Jake Holloway


今回は前号317号でアルバム紹介された『LIVE AT Cafe OTO』を聴いていきましょう。

新しいロンドンのライブハウス、Cafe OTOでのライブ盤です。
日英の混成ジャズマンによるのホットな演奏を楽しめます。
Cafe OTOですが、新しいコンセプトのジャズフロアでの録音は、低音も豊かで、聴きやすいヨーロッピアン・サウンドに仕上がっていています。

(1) Cafe OTOについて
Cafe OTOは、2008年に、ロンドンの北東部Dalstonに、新たな音楽イベントスペースとしてオープンしました。
現代的なコンセプトで作られていて今は世界中のミュージシャンに、今、もっとも演奏したいライブ・ハウスの一つとして数えられているようです。
ところで、ロンドンのジャズクラブと言えば、ソーホー地区にあるロニー・スコッツが有名です。ここは、広さに対して天井が高くない構造で、低音が豊かでロンドンの代表的な音と言えましたが、Cafe OTOの出現は嬉しい限りです。
今回紹介するCDの音から感じられるCafe OTOの音は、スムースで自然です。これはフロアの作りによるもののようです。
ロニー・スコッツほど広くなさそうなCafe OTO には演奏用のステージが設けられておらず、演者は常に観客と同じ高さで演奏をする様にできています。ジャズファンはミュージシャンを囲みながら、地続きにいるアーティストのプレイを楽しめます。
フロアにこのようなステージのための段差がない作りはそれだけで、スムースな音を提供します。
音楽の音は、段差や仕切り、フロアの仕様の違いがあると音にも異質感は表れ、スムースさが損なわれるのです。

(2)演奏と音
このアルバムは前号317号で斎藤聡さんが紹介していますので、そちらも参考にしてください。
①曲の構成
アルバムは6曲で作られていて、構成はよく考えられています。
✴︎1曲目、2曲目は日本人2人によるデュオの熱いフリージャズ。
✴︎3曲目、4曲目、5曲目は、1〜2曲の熱い演奏の後、聴きやすいジャズが置かれていて、日英の4人のカルテットです
✴︎5曲目のスローなフリージャズは、カルテットで演奏されていて、日英ジャズマンの音の違いが楽しめる演奏です。
✴︎6曲目はカルテット、全員参加でのフリージャズとなっています。

②メンバーのジェネレーションの対比も聴きどころ
メンバーですが、日本人2人、英国人2人という構成で、日本人メンバーは戦後日本ジャズを牽引してきた2人で、レジェンドとして風格があります。
対して、英国人2人は中堅のジャズマンです。年代の対比も楽しい構成です。

日本人の2人のレジェンドは、特に日本のフリージャズの分野を牽引してきた功労者とも言える方々です。
一方の英国ジャズマンは、欧州での実績を感じる中堅ミュージシャンで、安定した演奏を楽しめました。
熱い日本人の意気込みをうまく包み込み、日本人だけの演奏ではちょっと聴き疲れしてしまうところを、ヨーロッパ・ジャズのソフトな感覚で受け止めてまとめています。そのあたりはアルバムとしての完成度の高さを感じるところです。

(3) アルバム『LIVE AT CAFE OTO』の音
このCDは低音も豊かで、周波数的帯域バランスも良く、楽しんで聴くことができました。
1曲目と2曲目は日本人デュオの熱いフリージャズで重厚です。
その後の3〜5曲目は、聴きやすくリラックスでき、アルバム構成として、また商品としてのまとまりを感じました。
それでは日英のカルテットでのフリージャズはどうなのか、というリクエストに6曲目で山下洋輔さんの曲を持ってきて、聴かせてくれます。

①2人の日本人の演奏と音
私は、フリージャズとは距離をおいてオーディオ・ライフを経てきたこともあり、ここはまず、本誌317号でこのアルバムを紹介された齊藤聡さんのコメントを借りましょう。

*以下、本誌JazzTokyo317号からの引用
『ライヴは佐藤と森山のデュオで幕を開ける。佐藤のオリジナル<Evening Snow>を、たとえば佐藤がエディ・ゴメス、スティーヴ・ガッドと組んだ名盤『Double Exposure』(1988年録音)と聴き比べてみると、森山の異様な存在感がなおさら実感できる。それは厭くことなくバスドラムをボディブローとして打ち続けるようなもので、Café OTOのややデッドな響きも相まって、この音空間を共有した観客の昂揚ぶりが想像できようというものだ。<リンゴ追分>の迫りくる力もまたたいへんなものであり、寄せては返す波ではなく波涛の飛沫を浴び続けるのみ。たしかに原曲の断片を聴き取ることはできるものの、ロンドンで展開されたのは戦後日本のムードというよりも佐藤・森山という両レジェンドの力量であったにちがいない。』
森山威男さんのドラム、ピアノの佐藤允彦さんのデュオの1〜2曲目へのコメントです。
私の印象としては、森山さんのドラムには、山下洋輔トリオで培ったものがしっかり感じられ、「森山スペシャル」と、齊藤さんが言われているものに現れていて、「粘っこく地を這うように迫ってきた」これは、3曲目以降のカルテットでも感じられる、英国ジャズマンに対して日本的感覚で演奏していて、良い感じに聴けました。

ピアノですが、澄んだ「濁り」の無い音で、日本人のフリージャズにあるデリカシーであって、磨き上げられていてその音はこの人ならではのもののようです。
ペダルを多用して、空間にも音楽的にも屹立する音は印象的です。

②二人の欧州ジャズマン
この欧州ジャズマンの演奏について触れたいと思います。
以下の印象は、3曲目以降で感じたものです。

日英のアーティストがそれぞれのジャズを奏でていて良い感じです。
速過ぎないテンポで、この3者で奏でられるメロディーラインは心地よいものがあります。
それは、3者がお互いをリスペクトしながら奏でる音楽です。
付け加えて、彼らの、部屋の響きにうまく乗ってドラム、ベース、サキソホンが演奏されるところに、ライブのジャズ・ミュージックの楽しみを感じます。というよりも、あたかもルーム・アコースティックを上手く味方にして、まるでアコースティック・サウンドと対話するように演奏しています。この辺りは、真にミュージシャンが作り出すライブ演奏の楽しい世界です。

ベースは、やや音像が大きめですが主役かと思うほどに包容力をもって、豊かなアコースティック・サウンドが楽しめます。
サックスはややオフに録音されていて、それがこのライブハウスの広さや響きの質を伝えています。サックスの響きはベースなどの響きに邪魔されがちでメロディのみが聞こえがちですが、むしろ、ラジカセのような低音の薄い機器の方が確認しやすいと思います。
私は、このアルバムをいろんなオーディオ機器で確認しました。
聴かれる方には、下記に紹介するように、いろんなオーディオ機器で聴いて楽しむことをお勧めします。

(4) 試聴に使用したオーディオ機器
今回特に強調した、ルーム・アコースティックと共に出来上がっている欧州ジャズマンの演奏を、味わって欲しいところです。
音のポイントとしては、
ベースやサックスの中低域がタイトで楽器がクリアに聴こえ、ベースラインが音場と分離してクリアによくわかり、その上で音場の響きが楽しめるオーディオ機器で聴きたいものです。
このあたり、筆者は、ヘッドホンでも確認してみました。100ヘルツから200ヘルツあたりの帯域は、CD再生時に部屋の壁の反射やスピーカーの設置にも影響されますので、それを避けるためです。
因みに筆者の愛用しているヘッドホンは、スタックスのコンデンサ・ヘッドホンです。
逆に、低音が少ないラジカセで聞いてみると、低域が整理されこのベース、サックスの帯域の音場、反射音のありようがわかりやすいとも思います。
私の音評価は、大型機としてはJBL4320、JBL D130フルレンジ、それとヘッドホン、ラジカセで行いました。

ベースは全曲で楽しめるとして、サックスはもう少しクリアに聴きたいところです。
しかし、確かにサックスの演奏者は、ルーム・アコースティックとの対話を楽しみながら演奏していて演奏そのものは楽しめました。

(5) 終わりに
文中にも書いたように、フリージャズ、と言うとちょっと距離を感じてしまい、意識しながら聴いてどう表現しようかと考えました。何回か聴いて、いろんな機器で聴くうちに、アルバム全体が理解できました。
最後には、聴きやすい音で、その中に私のイメージのジャズ・フィーリングも感じられるようになり楽しく聴くことができ、楽しく書けました。

こうして、一枚のアルバムに集中して聴いて、書くのは久しぶりです。
実は、私の最近の日常生活はオーディオから少し離れていて、スマホやラジカセといった手軽な機器で音楽を聴いていたのです。
これからは、手持ちのオーディオ機器を、あらためて再稼働させる必要があるのを感じています。

こんな感じの試聴記を読者の方々にも楽しんでいただければ、と思う次第です。

萩原光男

萩原 光男 1971年、国立長野工業高等専門学校を経て、トリオ株式会社(現・JVCケンウッド株式会社)入社。アンプ開発から、スピーカ、カーオーディオ、ホームオーディオと、一貫してオーディオの音作りを担い、後に「音質マイスター」としてホームオーディオの音質を立て直す。2010年、定年退職。2018年、柔道整復師の資格を得て整骨院開設、JBL D130をメインにフルレンジシステムをBGMに施術を行う。著書に『ビンテージ JBLのすべて』。

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