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音質マイスター萩原光男のサウンドチェックNo. 329

#14 『クリスチャン・マクブライド・ビッグバンド/ウィズアウト・ファーザー・アドゥー Vol.1』

text: Mitsuo Hagiwara 萩原光男

『Christian McBride Big Band / Without Further Ado, Vol. 1』

King Records / MacAvenue KICJ-877  ¥3,300 (税込)

クリスチャン・マクブライド・ビッグ・バンド
with
スティング
アンディ・サマーズ
ジェフリー・オズボーン
サマラ・ジョイ
ホセ・ジェイムズ
セシル・マクロリン・サルヴァント
ダイアン・リーヴス
アントワネット・ヘンリー

01 MURDER BY NUMBERS
02 BACK IN LOVE AGAIN
03 OLD FOLKS
04 MOANIN’
05 ALL THROUGH THE NIGHT
06 WILL YOU STILL LOVE ME TOMORROW
07  COME RAIN OR COME SHINE
08 OP.49 – COLD CHICKEN SUITE. 3RD MOVEMENT


1、はじめに

このアルバムの音は、聴きやすく、しかもこのような音楽を楽しむツボを心得ていて、とても上手くまとめられています。
この豊かなミュージカリティは、どんなオーディオ装置でも楽しめる音作りになっています。
筆者の音確認は、
・大型システム:38cmウーファ2ウエイのJBL4320
・小型標準的システム:ラジカセ  (正確にはラジMD)
・一般的な音が聴けるフルレンジのスピーカー
で行いました。
この3種類で聴きましたが、それぞれ楽しく聴くことができました。
特に、ラジカセでは低音も豊かで楽しく聴けたのには驚きでした。
大型システムでは低音の量や迫力もあり良い音でしたが、むしろシンプルで手軽なオーディオシステムでも良い音で聴けるようにと、音作りされていると感じました。

このアルバムのコンセプトは、ロック、ポップス、R&B、ジャズの有名アーティストにも配慮して、ミュージカリティを優先して音作りした、と読み取りました。
音の細部にも言及しますが、アーティストに対するリスペクトこそ、このアルバムの本質と言えます。

2、このアルバムの音

このアルバムは、そつなく聴きやすい音ですが、どこが良いか、と言うと低音がポップに弾んで楽しめるところです。
中域から中高音は滑らかに高域につながりヌケていって、聴きやすく品位を感じます。
低音の良さは中低音にあります。楽器のベースの下ぐらいの帯域が弾んで楽しい。
その良さは上記のように、再生システムを選ばず、周波数帯域のバランスを優先してまとめられています。ここで聴ける低音の音の作り、音の良さは、実はジャズの伝統的な音で、かつて1960年代、1970年代のジャズクラブやスタジオで使われていたホーンシステムの音です。
この内容については、7月号の守屋純子オーケストラを評価した時に本欄でも書いていますので、再掲させていただきます。

Jazz Tokyo No328   7月号の記事より;
『Moving Onward/Junko Moriya Orchestra』の音チェック記事からです。
以下、記事より:
①前のめりの、速く弾む低音
低音ですが、感覚的に「速い」と表現したい。つまり時間的な速さとともに、音楽が始まると既にそこに既に低音が存在している、というような速い音なのです。
音楽の演奏では、演奏やダンスのリズムで「先取り」という表現をしますが、前のめりの速めの、ノリの良いウキウキした、そんな低音です。
(中略)
少々専門的になりますが、オーディオでは1950年代~1970年代にシアターやハイエンドオーディオで使われた、大口径(38~40cm)のウーファーでバックロードホーンで再生した低音に酷似しています。この低音も速くて前のめりで大きな音像の低音です。そのように、オーディオ全盛期には、多くの人が憧れた低音なのです。
(再掲おわり)

3、曲を聴く

以下、曲を聴いての印象です。
再生帯域的に女性ボーカルが楽しめます。
3曲目のサマラ・ジョイ、5曲目のセシル・マクロリン・サルバント、6曲目のダイアン・リーブスは中低域の喉を震わせ胸で歌うところは良い感じです。厚みもあって抱擁感が豊かです。中域がやや粗いのは編成が大きいのでマイクの本数が多いせいでしょうか。しかし、オーディオというよりポップス系の音として楽しむには充分だと思いました。8曲目はインストゥルメンタルだけで、各楽器の音が確認できます。
ベースやドラムの低音は、上記のように、速い音で前に出てきてどんな装置でも鳴る楽しい音ですが、そうした音作りでは、位相の関係で、ベース・ドラムとボーカルの中低音の音像は大きくなり定位しにくいのは理解しておくと良いでしょう。あくまで、楽しい音ということで聴きました。

4、ハイファイオーディオとしてこのアルバムの音を評価する

ところで、ハイファイオーディオ的には、このアルバムの音はどうでしょう。
“音”と言う点では、よく聴くと中域(500~2khz)にわずかに”張り”があり、粗さが時々気になります。その上の中高域、高域は自然で伸びているので聴かせてしまいます。低音はノリよく弾んで楽しい音にまとめられていますが、オーディオ的にはベース下の音やドラムの厚みが欲しいところです。
しかし、そのように”オーディオ的”なまとめ方と、弾んでポップな低音作りはトレードオフのところがあり、後者を取ったのがこのアルバムの音のまとめ方です。
いずれにしても、全曲同じ楽しめる音で、手慣れた音作りです。

5、まとめ

このCDはポピュラー音楽的要素が強く、幅広い音楽好きの方に聴いて欲しい音楽を集めたものだと思います。と言うことは、音の細部を云々するより、手軽なオーディオでも、楽しくノリで聴けるように音作りしたアルバムだ、と理解しました。

萩原光男

萩原 光男 1971年、国立長野工業高等専門学校を経て、トリオ株式会社(現・JVCケンウッド株式会社)入社。アンプ開発から、スピーカ、カーオーディオ、ホームオーディオと、一貫してオーディオの音作りを担い、後に「音質マイスター」としてホームオーディオの音質を立て直す。2010年、定年退職。2018年、柔道整復師の資格を得て整骨院開設、JBL D130をメインにフルレンジシステムをBGMに施術を行う。著書に『ビンテージ JBLのすべて』。

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