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音質マイスター萩原光男のサウンドチェックNo. 332

#17 『渡辺貞夫 / Hope For Tomorrow』

text by Mitsuo Hagiwara 萩原光男

Victor Entertainment  VICJ-61797 ¥3520(税込み)

渡辺 貞夫 (alto saxophone)
Russell Ferrante (piano)
Ben Williams (bass)
竹村 一哲 (drums)
押鐘 貴之ストリングス

BUTTERFLY*
IN THE WEE SMALL HOURS OF THE MORNING
CYCLING*
SAMBA EM PRELUDIO
I FALL IN LOVE TOO EASILY
JUST FRIENDS
I’M A FOOL TO WANT YOU
LOPIN’
ONLY IN MY MIND*
I CONCENTRATE ON YOU
SONHO DE NATAL*
*Composed by Sadao Watanabe

Recording: 2024年12月15日 フェニーチェ堺, 18日めぐろパーシモンホール 大ホール,
20日サントリーホール 大ホール, 21日横浜関内ホール 大ホールに於けるライヴ・レコーディング

Produced by Sadao Watanabe


■ 概要

①まず渡辺貞夫のサックスの音と音楽。
御年92歳、レジェンド・プレヤーとして円熟味を増しています。ジャズにとどまらず、聴きやすく誰でも楽しめる音楽性を楽しみましょう。

②コンサートホールの音を味わう
このアルバムは、2024年に行われた4つのホールでのコンサートのライブ録音から構成されています。ライブ・コンサートは各地の名ホールで行われました。演奏もホールに合わせています。サントリーホールもあり、各ホールの音が楽しめます。

③アルバムの曲構成の味わい:
アルバムにまとめるにあたって、メインはフィニーチェ堺ホールとサントリーホールです。
関内ホールと目黒パーシモンホールでの収録曲が1曲づつ入っていて、この2曲はアルバムの構成でメリハリをつける大きな役割をしています。絶妙な、曲配置と、この2曲の音楽性に着目しましょう。

④再生装置での音の違いを楽しむ
アルバム全体はどんな再生装置でも楽しめる音作りになっています。しかし、音質評価の高いサントリーホールの音は再生装置、特にスピーカーに配慮すると、その良さが十分味わえます。

■まえがき

国民的ジャズ・プレイヤーである渡辺貞夫のアルバムです。ジャズファンだけでなく、幅広い音楽ファンに聴いてほしい、というメッセージを感じました。このアルバムの構成はそうした願いのもと、感動が伝わる構成になっています。筆者のおすすめは7曲目です。残響時間的にはやや短めなこの横浜関内ホールでの録音は、一般的なジャズ、ポップスとして聴ける音に仕上がっています。どんなオーディオ装置でも楽しめます。(詳細は後述)
このCDを聴くには2つのポイントがあります。
・まず、一つ目は、92歳を迎えてレジェンドの域に達してなお第一線で活躍するサックス・プレイヤーがみせる演奏です。
・二つ目は、コンサートホールの音に着目しましょう。演奏も録音もホールの音に合わせてあります。
そして、アルバムにおける曲の配列です。
アルバムは、4つのホールでの録音を緩急で巧みに並べて、味わい深いものにしています。今ではすっかり、音の良いホール、として定評のあるサントリーホールでの録音は、さすがに名ホールの音で、クラシック音楽並みに、豊かで、時に艶やかなバイオリン、ピアノのミュージカリティ豊かな音が楽しめます。

1.概要:
92歳を迎えて、なお第一線で活躍するサックス・プレイヤー渡辺貞夫のアルバムです。昨年4月に発表した、約7年ぶりの新作スタジオ・レコーディング・アルバム『PEACE』はロングセラーを続けているとのこと、今回は全国5箇所で行われたツアー「HOPE -Sadao Watanabe with Strings」の中から4つのホールでの演奏を取り上げています。彼の原点は、当時の誰もがそうであったようにチャーリー・パーカーからスタートしたようですが、バークリー音楽院(当時)から帰国してからはボサノバやフューションなどもっと広くアピールする音楽にシフトして活躍しました。彼の演奏は30年くらい前に集中的に聴いたことがありました。その頃はジャズ・プレイヤーとしての独自の世界での演奏もありましたが、今回のアルバムは、大きなストリングスを従えての演奏でもあり、ストリングスとの素晴らしい「調和」や響きを堪能できました。

2.ライブ録音の各ホールについて
①1曲目~4曲目:フェニーチェ堺ホール
開館:2019年  客席数:2000席
設計は、柳澤孝彦+MOR Iデザイン建築事務所などとの共同設計
柳澤孝彦氏はオペラシティホールの設計にも関係していて格調・温かみ・モダンが信条の設計です。
②5、6曲目、9~11曲目:サントリーホール
完成年: 1986年(株)永田音響設計  客席数: 2,006席  残響時間(満席時):2.1秒
ホール形式:ワインヤード型、ステージを客席が取り囲む形式。カラヤンの協力を得て、1986年完成
残響時間は、長く、響きが豊か。ステージからの響きは、背後に壁があり、そこからの早い反射音で楽器はクリアな音像になります。カラヤンは完成時に指揮をして「素晴らしい音だ!」と絶賛しました。(指揮者としてステージ上での音、と理解しました)
③7曲目、横浜関内ホール
開館:1986年. 改修:2018年 設計:芦原建築設計事務所、(東京芸術劇場なども設計)
客席数:1038席 残響時間:空席時125hz 1.8秒
④8曲目、目黒パーシモンホール
開館:2002年 客席数:1800席 設計:(株)永田音響設計

3.各ホールの音
このアルバムは、フェニーチェ堺ホールとサントリーホールでのライブ録音をメインに構成しています。サントリーホールは音の良いホールですが、フェニーチェ堺ホールもその設計者、柳澤孝彦は、オペラシティホールも設計しており、彼の設計は格調高いモダンな設計が特徴です。このホールにも感じられます。

・サントリーホールの音に注目してみましょう
5曲目はサントリーホールでの1曲目です。観客の拍手に着目しましょう。まず、4曲目は横浜関内ホールです。このトラックのエンディングの拍手と、5曲目冒頭の拍手の音の違いが、ホールの音の違いと言ってよいでしょう。サントリーホールの拍手は高域がスッーと伸びて超高域に向かってブロードに落ちていきます。4曲目の関内ホールはホールの小ささが拍手の音に現れています。サントリーホールでの音は高域に品位を感じる音で、クラシック音楽には最適です。バイオリンも聞こえますが、適度に艶が乗っています。サントリーホールでの曲は楽器間の響きのブレンドも美しく、各楽器間の音のつながりを味わえます。
では7曲目、関内ホールの音はどうでしょう。このアルバムの筆者のおすすめは7曲目です。横浜関内ホールですが、座席も1038と小さ目で残響時間的にはやや短めなこのホールは、一般的なジャズ、ポップスには最適のようで、どんなオーディオ装置でもリスナー好みの音で仕上がっています。音のキレ、スピード感は、このホールではうまく録音できています。適度な残響なので、アルトサックスの音は遅れ感などなくスッと出てくる音に音の豊かさとスピード感があります。

4.再生装置
このアルバムからは制作者側が、ジャズに限らず国民的音楽家である渡辺貞夫の音楽をより多くのリスナーに聴いてほしい、というメッセージが伝わってきます。したがって、基本的に、どんな装置でも楽しめる音まとめになっています。筆者は、筆者の信頼するかつてのベストセラー・ラジカセとJBL38cm口径フルレンジスピーカーで確認していますが、ラジカセでも充分楽しめる音作りなのはうれしい限りです。サントリーホールの豊かな響きを堪能しようと思われる方は、再生帯域の広いワイドレンジな装置がおすすめです。

5.特長的な収録曲
特に印象に残った曲を上げておきましょう。
2曲目、スローバラードで渡辺貞夫のアルトサックスの豊かで芳醇と言ってよいほどの、豊かな音色が楽しめます。彼のサックスの味わいではところどころに出現する半音下がり音符の音の余韻が好きです。なんとも、哀愁を感じます。日本人が好きな音色でしょうか。ピアノのパートも味わい深く楽しめます。
5曲目:サントリーホールでの一曲目です。拍手の音の味わいは上述しました。サントリーホールでの曲は楽器間の響きのブレンドも美しく、各楽器間の音のつながりを味わえます。このホールの特徴である残響の長さで、美しい余韻を聴かせます。アンダンテで音の美しさを楽しめます。中域で聴かせますが中域の響きが豊かで、また、それが味わえるテンポです。3分からのストリングスの厚みが良く、バイオリンが艶やかです。更に、5分からのサックスが会場に響き渡り、包み込む豊かなストリングスが心地よいです。
7曲目、お得意のスローバラード。憂愁を味わう。ホールの音も反応良くピアノもクリアで明快。ベースのコリっとしたヌケがよく丸みのある音も味わい深い深い。そのようにサックスも重くなりすぎず聴けてよい。ピアノも一般的なクリアさと短い響きで、曲想に合っています。残響時間が短いので反射音が速く帰ってきて、ジャズに合ったクリアでしっかり豊かに響きがついている音に仕上がっています。サントリーホールのような長さの響きでは無いのは、その対比がアルバム作りに生きています。3分からのピアノはそれが生きていて楽しく聴けます。サックスもしっとり味わい深いが、クリアで軽快さがこのトラックの信条でしょう。3分からのピアノ速弾きも印象的です。
8曲目は目黒パーシモンホールです。1200席(残響時間データ不明) の小さ目のホール、リズミカルで軽快です。ベース、ドラムが、ややスタッカートで小刻みにリズムを刻むが、音のキレが良く、音像が明快で楽しめます。残響時間がやや短めなのが効果的です。7曲目同様に、この曲を全11曲の8曲目として挿入した理由がわかります。アルバムの単調さを払拭しています。それに合わせて、渡辺貞夫のサックスも軽快に走ります。
9曲目、渡辺貞夫のサックスの中域の、音の豊かさが堪能できます。サントリーホールの滞空時間の長い、そして豊かな中域が味わえます。サックスがメインでピアノとベースがサポートする、という楽器構成で進みます。途中でピアノがメインに入れ替わります。しっとりしていて、サントリーホールの音と相まって、味わい深い。深刻になりすぎない曲作りで、好ましく聴けます。

6.後書き渡辺貞夫の音楽には、幅広い音楽ファンの誰もが楽しめる、温かみや親和性があります。いつも彼の音楽と音を聞く時、そのような普遍性を感じ、それが彼の魅力なのだ、と思うのです。

萩原光男

萩原 光男 1971年、国立長野工業高等専門学校を経て、トリオ株式会社(現・JVCケンウッド株式会社)入社。アンプ開発から、スピーカ、カーオーディオ、ホームオーディオと、一貫してオーディオの音作りを担い、後に「音質マイスター」としてホームオーディオの音質を立て直す。2010年、定年退職。2018年、柔道整復師の資格を得て整骨院開設、JBL D130をメインにフルレンジシステムをBGMに施術を行う。著書に『ビンテージ JBLのすべて』。

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