#994 フローリアン・ヴァルター JAPAN TOUR 2017

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Text by 剛田武  Takeshi Goda

Photos by 剛田武  Takeshi Goda, except where noted

 

2017年11月28日(火)東京・入谷 なってるハウス “Florian Walter Improvised Session”

Florian Walter (sax) / 照内央晴 (p) / 方波見智子 (marimba,percussion)/ 加藤綾子 (violin) /guest:田中奈美 (dance)

 

2017年12月2日(土)東京・高円寺 4TH Florian Walter Japan Tour 2017 Presented by TVDinner

Florian Walter / 増渕顕史 / UH(内田静男+橋本孝之) / SNH(Straytone+Nagata Kentaro+Horiguchi Ken)/ 川島誠&DSFAPLS

 

Photo by Sabine Niggemann

ドイツの西部のルール川沿いの工業地帯に位置する人口58万人の都市エッセンを拠点に活動する30歳の即興サックス奏者フローリアン・ヴァルターが初来日を果たした。来日にあたってはベルリンで活動する日本人ピアニストRieko Okuda氏が日本のミュージシャンに紹介メールを送り、協調した彼らの尽力で東京・大阪計7公演の日本ツアーがブッキングされた(そのために当初ヴァルターをベルリン出身と勘違いしてしまったことをお詫びしたい)。ドイツのジャズ・シーンについてはECM、Enja、MPS、FMPといったレーベルや、メールスやベルリン・ジャズ祭をはじめとするジャズ・フェスティヴァルの活況ぶりが広く紹介されてきたので、日本のファンにとっても比較的馴染み深いと思われる。特に即興音楽/フリーミュージックの重鎮アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ、ペーター・ブロッツマン、アルバート・マンゲルスドルフ、ギュンター・ハンペル、マンフレッド・ショーフ、ペーター・コヴァルト等を生んだ国であり、前衛ジャズの拠点の一つとされている。とはいうものの知られているのはベルリンで活動し国際的な注目を集めるアーティストが中心で、ローカル・シーンや新しいミュージシャンについては相当なマニアでもなければ未知の世界といえるだろう。ネットで検索すれば名前や経歴、音源や動画を見つけることは可能だが、実際に現場で起こっている現在進行形のシーンを知ることは出来ない。従って今回のようなミュージシャン同士のコネクションを活用して知られざるミュージシャンの来日が実現することは素晴らしい機会である。

アルトサックスだけではなくバリトンサックスやバスクラリネット、さらにチューバックスという巨大な低音サックスも演奏するマルチ・リード奏者であるヴァルターの2017年5月リリースの最新作は、そういった多用な楽器を駆使したソロ・アルバム『BRUIT – BOTANIK(騒音 – 植物学)』。人体解剖図と植物辞典をコラージュしたジャケットに相応しく、音楽を「演奏」するというより「解剖」するかのような実験的なサウンドアート作品である。NYの即興演奏家がソロ作品で本能的に楽器の可能性を追求するのに対して、ヴァルターのアプローチにはより分析的且つ論理的なドイツ人気質が感じられる。

BRUIT – Botanik
(Umland 7, 2017)

bandcamp

 

ソロ以外にも多数の異なるプロジェクトで活動する。アコースティック・トリオやエレクトロニクスとのコラボ、舞踏パフォーマーとのデュオやセロニアス・モンクのカヴァー専門のブラスバンドなど、いずれも一癖あるグループばかりだが、筆者が特に気に入ったのはAchim Zepezauer (electronics)、Florian Walter (bs, synth)、Simon Camatta (ds)によるトリオ「Knu!(クヌー)」の今年3月にリリースされた最新アルバム『Vapor Concrète(具体蒸気、ミュジーク・コンクレートのもじりだろう)』。ドイツ語で「Tischlein elektrisch(電動テーブル)」とクレジットされているZepezauerのエレクトロニクスは、単なるノイズや電子音ではなく、レコードやテープを使った具体音のコラージュで、ドラムとバリトンサックスが同質のオブジェ感でミックスされるサウンドは「人力ミュージック・コンクレート」と形容したい。おもちゃ箱をひっくり返したような遊び心に溢れた世界は、パンク+ノイズ+スウィング+コメディ=狂ったディスコミュージックと呼ばれている。

Knu! – Vapor Conrète (Umland 8, 2017)

bandcamp

 

もう一つ興味深いプロジェクトは会ったときにヴァルター本人が教えてくれたThe Dorfというビッグバンドである。現代音楽、ミニマルミュージック、ポストロック、メタル、ハードコアの要素を含有したオーケストレーションは、グローブ・ユニティ・オーケストラやサン・ラ・アーケストラ、日本の渋さ知らズなどジャズ・オーケストラとは一線を画す、新世代の集団即興のスタイルを提示している。

The Dorf feat. N – LUX
(Umland 12, 2017)

bandcamp

https://florianwalter.yolasite.com/

 


そんなヴァルターの来日ツアーは毎回編成やコンセプトの異なるヴァラエティのあるラインナップで開催された。筆者が参戦した二つのライヴについてレポートしよう。

 

11月28日(火)東京・入谷 なってるハウス
“Florian Walter Improvised Session”
open 19:30 start 20:00

Florian Walter (sax)
照内央晴 (p)
方波見智子 (marimba,percussion)
加藤綾子 (violin)
guest:田中奈美 (dance)

 

ヴァルター日本ツアーの3日目、東東京のフリージャズのメッカ・なってるハウスでの即興セッション。主催者はピアニストの照内央晴。2017年1月リリースしたアルバム『照内央晴 & 松本ちはや/哀しみさえも星となりて』が評判が良くライヴを観たいと思っていたので絶好のチャンスだった。初めて会うヴァルターはアーティスト写真よりも苦み走った好男子。気さくにわかり易い英語で話してくれた。苗字のドイツ語読みを尋ねたところ”ヴァイティァー”と聴こえる難しい発音だった。Wは”ヴ”と発音されるのは確かなのでヴァルターと表記するのが適切だろう。

決して広くないなってるハウスのステージに設置された巨大なマリンバが目を惹く。女性出演者が多いためかこの店にしては華やいだ雰囲気。一触即発の殺気立った即興のイメージは無いが、和んだ空気の中にも初顔合わせの緊張感が滲み出る。開演直前に決めた組み合わせによる数セットのセッションライヴである。

 

①Florian Walter+方波見智子+加藤綾子

 

 

最初は女性ふたりとヴァルターのトリオ。クラシック出身の二人の演奏はジャズとは異なり品のあるクールな感性が漂う。ヴァルターはブレス(息)の軋轢音、タンギングの破裂音、ドローンの持続音を駆使した物音プレイを聴かせる。音量や息づかいのコントロールが見事。お互いに牽制し合ったままで終わった感じもあるが、初共演の一歩としては素晴らしかった。

 

②Florian Walter+照内央晴+加藤綾子

 

 

鍵盤、管楽器、弦楽のトリオ。照内は敢えて音数の少ないミニマムなプレイ。ヴァルターはサックス内部にコップやオブジェを挿入して音色を変化させる。流暢なヴィオリンのカデンツァが突如として悪魔のメヌエットに転じ、足を踏み鳴らして髪振り乱す加藤の激情プレイに驚愕した。

 

③Florian Walter+田中奈美

『BRUIT – BOTANIK』で挑戦した物音サックスを髣髴させるシリアスなソロ演奏。ほどなく緑の柄のワンピースに赤いベレー帽の田中が飛出してダンスとパフォーマンスを併せた踊りを舞うと、一転してステージがポップなカラーに包まれる。ドイツで舞踏家やパフォーマーとの共演ライヴを数多く行うヴァルターらしく、国籍・性別に関係なく異ジャンル・コラボは我が意を得たりと嬉しそうな表情を見せた。

 

④全員 All Members

1stセットの最後は全員のセッション。観客席も使った演奏は、意外性と共にメンバー間に理解と共感が芽生えたことを伺わせた。照内の内部奏法を含むピアノ演奏の多彩さを堪能。加藤は客席の椅子に座り激しくヴァイオリンを掻きむしった。

ここで休憩。所々で出演者と観客、会場スタッフの会話に花が開く。方波見の顔に見覚えがあるな、と思って尋ねたら、今年5月に吉祥寺シルバーエレファントで観たプログレ・フォーク・バンド、まぼろしペイガンズのメンバーだった。元カトゥラ・トゥラーナ、ラクリモーザ等の齊藤千尋をはじめ、80年代地下音楽の重要レーベルL.L.E.の関係アーティストが多数参加するバンドである。思いがけない再会に運命的なものを感じた。

 

⑤方波見智子+加藤綾子+田中奈美

2ndセットの最初は女子トリオの演奏。マリンバとヴァイオリンとダンスの組んず解れつは、方波見の素っ頓狂な歌に加藤が奇声で唱和する奇天烈二重唱に変わり、その傍らでマリンバの下に潜り込む田中の意味不明のパフォーマンスが圧巻だった。

 

⑥Florian Walter+照内央晴+方波見智子→→→全員 All Members

これまで自己抑制していたのかと思えるほど箍の外れたヴァルターの激烈サックスに鼓舞され、マリンバとピアノも激情プレイで応えるハードコアな演奏を展開。途中から加藤と田中が加わり全員セッションへ突入。激しい鬩ぎあいの中に共感と歓びが溢れる大団円を迎えた。

照内によれば「他の公演がエレクトロニクスやノイズなど大音量の対バンが多いので、出自の異なるクラシックの演奏家と共演したら面白いと思った」とのこと。まさにその意図が的中し、演奏を終えた5人の充実した笑顔でわかるように、90分を超えるセッションを通して育まれた自信と信頼に裏付けされた鮮烈なコラボレーションは、ドイツと日本の即興の最高の交歓の場となった。


12月2日(土)東京・高円寺 4TH
Florian Walter Japan Tour 2017 Presented by TVDinner
open:18:00

Florian Walter
増渕顕史
UH(内田静男+橋本孝之)
SNH(Straytone+Nagata Kentaro+Horiguchi Ken)
川島誠&DSFAPLS

 

なってるハウス公演の二日後11月30日(木)に、ヴァルターは大阪を訪れギャラリー・ノマルで.esのピアニストのsaraとデュオ・ライヴを行った。その模様はYouTubeで観られるが、激しいアクションで煽るsaraに呼応してサックスを振り上げてブロウするエモーショナルな演奏は、ヴァルターにとっても会心のコラボレーションだったようだ。

 

東京へ戻ったヴァルターは、.esのパートナーの橋本孝之(as)をはじめとする若手ミュージシャン4組との対バン・イベントに出演した。会場の4thの前身は2000年代に吉祥寺にあったライヴハウスFourth Floor。高円寺に移転したことは知っていたが訪れるのは初めて。バーカウンターのあるこじんまりとしたスペースで、DJ、アコースティック系ユニット、ソロ弾き語りなど若手ミュージシャンやイベントオーガナイザーにピッタリのインディペンデントな雰囲気がある。所用で開演に遅れたために惜しくも一番手の川島誠&DSFAPLSを見逃してしまった。

 

●SNH(Straytone+Nagata Kentaro+Horiguchi Ken)

それぞれ音楽家/レーベルオーガナイザー/エンジニア/DJなどで活動をしている3人によるシンセ・トリオ。アナログ機材ならではの人間味のある電子音のレイヤーが、アナクロなプリズムライトの照明とシンクロして、古いSF映画の宇宙旅行か60年代カルトムーヴィーのトリップシーンを思わせる酩酊感たっぷりのステージを見せた。

 

●UH(内田静男+橋本孝之)

80年代から東京地下音楽シーンで活動するベーシスト内田静男と大阪出身の橋本孝之のデュオ。橋本が吹くハーモニカが、内田のアコスティックベースの深い音に浸されてノイズと唾液の飛沫を浴びせる。アルトサックスの演奏は、最新ソロアルバム『ASIA』の螺旋ではなく、放物線を描いて大地を潤す如雨露の雨となり低音畑の亀裂を侵食した。

 

●増渕顕史

2008年から即興演奏を始めたというギタリスト。音数の少ないミニマルな単音弾きが、次第に変則アルペジオに転じる流れに反比例するように静謐感が増幅する。メロディーはあるが類型的なスタイルにはハマらない。平野剛のピアノ演奏に通じる穏やかな白昼夢を見せてくれる日だまりのインプロヴィゼーション。

 

●Florian Walter

管を通る息の音から細かいトリル、ベルに栓をしたパーカッシヴなタンギング、マイクロカセットテープレコーダーを使ったひとり二重奏。しかし何故か録音機能が作動せず、二日前に録音されたsaraのピアノの音が流れ出て、図らずも時空を超えたデュオとなった。楽器の演奏というより、サックスをオブジェとして使ったサウンドアートの趣き。

 

●Florian Walter+橋本孝之+川島誠

当日ヴァルター本人の希望で実現したサプライズ的なアルトサックス・トリオ。余りに個性の異なる三者三様のコラボレーションは、同じ楽器の親和性が、異なる魂により離散し拡散し霧散する散文的なアッサンブラージュを創り上げた。川島が暗闇から発する日本的なポエトリーが、橋本の植物性と、ヴァルターの即物主義の溶液となり蕩け合う音の重力で魂の湿度が上昇した。

ヴァルターはこの日の夜は橋本のアパートに泊まったという。ミュージシャン同士宿泊費を浮かし助け合うというだけでなく、ゆっくり話し合い交流することでお互いの理解が深まり、さらなるコラボレーションへと繋がっていくだろう。

 


翌週にメールでインタビューを行った。質問を送った翌日に長文の回答が届いた。真面目な国民性と言うより、ヴァルター本人の前向きで意欲的な性格の現れであろう。

Florian Walter Interview
フローリアン・ヴァルター・インタビュー
2017年12月4日メールにて

Interviewed and translated by 剛田武  Takeshi Goda

Photo by Sabine Niggemann

 

JazzTokyo(以下JT) : お生まれは?

フローリアン・ヴァルター(以下FW): 1987年6月9日ドイツのドルトムントとエッセンの近くのハム(Hamm)という街です。

JT: 音楽を始めたきっかけは?

FW: 良くある話ですが、家にピアノと笛がありました。覚えている最初の演奏体験は、幼稚園でカズーをもらったとき、5歳児クラスの中で実際にちゃんとしたメロディーを吹けたのが僕一人だけだったことです。

JT: 十代の頃聴いていた音楽は?

FW: ドイツのパンクを少々、いわゆるクラシック・ロック、特にジェスロ・タルと初期のジェネシス、映画のサントラ、Naked City, Steve Reich, Kenny Garrett, John Coltrane,中期~後期のMiles Davis,そしてEric Dolphyをちょっと。

JT: サックスをはじめたのいつですか?

FW: 12歳の時学校で始めました。母がサックスを勧めたからです。最初は嫌々でしたが、間もなく好きになりました。

JT: 好きなサックス奏者は?

FW: 昔好きだったのはKenny Garrett, Steve Coleman, Cannonball Adderley。現在はEric Dolphy, Colin Stetson, John & Ravi Coltrane, Ornette Coleman, Evan Parker, John Butcher, Andrew D’Angelo, Chris Speed, Travis Laplante

JT: 好きな作曲家や演奏家は?

FW: 上記の全員と、Peter Evans, Jim Black, Sonic Youth, Talibam!, Axel Dörner, BadBadNotGood, Battle Trance, William Forsythe, Heiner Goebbels (さらに50人以上挙げられます)。

JT: 即興音楽を始めたのはいつ頃ですか?

FW: かなり遅くなってです。高校の最終学年の時にちょっと齧ったことはありましたが、その時はフリーファンク風のインプロでした。大学でジャズ・サックスとコンテンポラリー作曲を学び始めて3年目に友人を集めて自由な演奏にアプローチしたのが本格的なスタートです。その大きな要因となったのは、Helmut Lachenmann, Mauricio Kagel, KH Stockhausenの作品と出会ったことだと思います。

  • 訳注:ヘルムート・フリードリヒ・ラッヘンマン(Helmut Friedrich Lachenmann, 1935年11月27日 – )、マウリシオ・ラウル・カーゲル(Mauricio Raúl Kagel、1931年12月24日 – 2008年9月18日)、カールハインツ・シュトックハウゼン(Karlheinz Stockhausen、1928年8月22日 – 2007年12月5日)。いずれもドイツの現代音楽の作曲家。

JT: エッセンに即興音楽のシーンはありますか?

FW: はい、ルール地方には小さいけれど活発なシーンがあります。多様な要素がミックスされ、即興への取り組み方や方法論も様々ですが、傾向としてはジャズ寄りと言っていいと思います。

JT: あなたの活動は単なる音楽だけではなくパフォーミング・アート的だと思います。そのスタイルを身に着けたのは?

FW: 僕は常に他の芸術家とコラボレートしたいと思っています。大抵はダンサーですが、役者や映像作家や彫刻家もいます。単に楽器を演奏するだけだと何となく物足りない気分になるのです。表現の多様性により聴衆を摂動(攪乱)して、異なる段階と連動性に導くことが可能になります。そのひとつがドイツでよく行われる「moderation」です。それを日本で行うのは難しいでしょうけど。

  • 訳注:フローリアンの説明では「mederation(節度、中庸)」とはドイツの人気テレビ番組から派生した言葉で、アーティストが視聴者の前で(ある意味で)チープなジョークを言ってそれを説明するコメディタッチのトーク(話術)を意味する。「プレゼンテーション(紹介)」と「アナウンス(告知)」の中間の意味合いで、英語には適切な言葉がないとのこと。

JT: 個人的にKnu!のCDを気に入っています。普通のアコースティック楽器とエレクトロニクスのコラボレーションとは異なるように聴こえます。Knu!のコンセプトを教えてください。

FW: ワン・セット通して連続した演奏をするという標準的な方法論からの脱却がコンセプトでした。結成した当初から複数の作品つまり「楽曲」をプレイしようと思いました。初期は作曲した素材がいくつかありましたが、その後なくなり、残ったのは特定のサウンド/グルーヴ/サンプリング構造を展開し、ライヴ演奏中に戻って来られる曲想を多かれ少なかれ調整することでした。もう一つのコンセプトは、後から起こったのですが、三人それぞれが同時にソロを演奏する方法論の実験でした。この方法で音楽らしく聴こえる曲もいくつかあると思います。

JT: もう一つユニークなプロジェクトがThe Dorfです。あなたが参加した経緯を含めこのバンドについて教えてください。

FW:  The Dorfは現在結成11年目で、僕は2010年に参加しました。Jan Klareがグループを設立し、曲を書きました(作曲された素材が思った以上に多く含まれています)。最初の構想では、この地域の演奏家をプールしておいて、ドルトムントのDomicilというクラブで月一回開催するコンサートで、毎回異なる人数と編成のライヴをするというものでした。その後数年間の間に、嬉しいことにみんなが毎回参加したがるようになり、ラインナップが固定されました。私たちは出来る限りツアーを行うようにしています。30人以上のミュージシャンが参加することを考えれば極めて困難ですが、常にドイツ全国で定期的にコンサート・ツアーをしています。僕自身はバンド運営にあまり関わっていませんが、主宰者のJan KlareとChristoph Berndtは、メンバー全員を取りまとめるのに素晴らしい仕事をしています。今年JanとSimon Camattaが中心になってUmland Recordsというレーベルをスタートしました。Umlandとは一種の言葉遊びです。The Dorfは「村落(The Village)」という意味で、Umlandは「周辺エリア」という意味なのです。大編成のバンドの内部や周辺で生れる音楽をリリースしようと考えています。これまで12タイトルの作品をリリースしました。ソロ演奏からThe Dorfの最新作まで幅広い内容です。

JT: ドイツ国内やヨーロッパの他の国のミュージシャンや音楽シーンとのコネクションはありますか。

FW: もろろんあります。たくさん演奏旅行をすればドイツ国内だけで生計を立てることも実際に可能です。この種の音楽が特に盛んな地域が3箇所あります。ルール、ケルン、ベルリンです。この3つのシーンの間には数多くのコネクションがあります。僕の場合は、特にここ数年、他の国をツアーすることにも大きな関心があり、年に最低2回はドイツ国外をツアーするようにしています。今までツアーした国はイタリア、バルト三国、ポーランド、ベルギー、アイルランド、イングランド等です。
若い頃ユース・オーケストラに参加して、中国、ロシア、セネガルをツアーする機会がありました。それはそれでとても強烈な体験でしたが、デュオやトリオ、もちろんソロで海外をツアーするのは、オーケストラとはまったく違った体験です。こういった国際的な接触は、創造活動にインスピレーションを与えるだけではなく、外へ踏み出すことでシーンがいかに小さいか、それゆえお互い助け合うことがいかに大切かということを理解するためにも、とても重要だと思います(たぶんミュージシャンじゃなかったとしてもいい体験でしょう)。だから僕は、ツアーでドイツを訪れる海外ミュージシャンをホストするチャンスがあるときは出来るだけエッセンでライヴを企画しようとしているのです。国際的な精神を共有することは、ローカル・シーンに自信をもたらす助けとなり、一方ではライヴを観に来る聴衆が成長するための貴重な機会だと思います。

JT: ヨーロッパは、島国の日本に比べ他の国とコラボレートするのが簡単だと思われますがどうでしょうか。

FW: もちろんヨーロッパは国境がないので旅行は楽だと思います。でもそれはあくまで理論上の話です。ヨーロッパ全域にそれぞれ異なる(即興)音楽の方言があるので、長期に亘るコラボレーションを築き維持するのには少なからず努力が必要です。とは言っても日本に比べればずっと簡単ですね。

JT: 日本のミュージシャンとコラボレーションした印象は?ヨーロッパとの違いはありましたか?

FW: 前の質問の続きになりますが、その一方で日本でスタイルの異なるミュージシャンにたくさん会いました(素晴らしい音楽をやっているのに自分を「音楽家」と呼ばないアーティストもいました)。僕が心から感動したのは、ヨーロッパではまったくスタイルの異なるバンドが6つも対バンするライヴは滅多にないばかりか、ハーシュノイズであれ、超ミニマムなインストであれ、伝統的フリージャズであれ、クラシックの即興であれ、聴衆がすべての出演者の演奏を楽しみオープンで好意的な姿勢で反応する様子でした。
外国人とのコラボレーションがヨーロッパに比べて少ないことと関係あるかもしれませんが、日本はシーンが少し広がって、同時により協力的になる必要があるのでしょう。それを見て本当に素晴らしいと思いました。ヨーロッパでは(あくまで一般論ですが)、ミュージシャンとオーディエンスの両者が、ひとつのことに集中して、そこから極めて独特のシーンを育てる傾向があります。しかし、そのために日本で見たような柔軟性のある交流が失われてしまい、とても限定的で閉鎖的な考え方に陥ってしまう場合があると感じてます。言いたいことは分かりますよね。

僕は日本でたくさんの異なるタイプのアーティストと演奏する機会に恵まれました。そして常に最大限の歓迎の気持ちと、何かユニークで素晴らしいものを創り出そうとする強い共通の意志を感じました。それがうまく機能したのです。

JT: どうもありがとうございました。またお会いできることを祈っています。

(剛田武 2017年12月25日記)

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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