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Hear, there and everywhere 稲岡邦弥No. 271

Hear, there & everywhere #26 海原純子 musicure / Live@銀座Swing

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

musicure~ジャズと小噺の夕べ  vol.2
2020年9月27日 @銀座 Swing
登録視聴制・投げ銭システム

海原純子 (vo)
若井優也 (p)
楠井五月 (ds)

Quiet nights of quiet stars
Blues skies
I get along without you very well
It’ all right with me
Then and now
O conto das nuvens
Anthropology/I got rhythm


コロナ禍の下、内外のミュージシャンが限られた条件下でさまざまな手段を講じて情報を発信し、リスナーにアクセスすべく模索の限りを尽くしていた。その努力はミュージシャンに限らず、マネジメントや文化団体、ホール、クラブなどでも試みられ、本誌でも記事やニュースで取り上げてきた。
そのなかでも異色だったのは(継続中なので、異色な、というべきか)、海原純子による「musicure〜ジャズと小噺の夕べ」シリーズだろう。「musicure」はミュージキュアと読み、music (音楽)と cure(医療)を合わせた造語である。ベテランの心療内科医でありジャズ・シンガーでもある海原純子が立ち上げたシリーズで、メンタル・ケアを扱う現場で痛感した、医療だけでは手の届きにくいこころの隙間に音楽という手段を通じて手を差しのべようとする試みである。長期にわたるコロナ禍による自粛生活がもたらす閉塞感はわれわれ誰しもが経験しているところだ。とくに先の見えない不安からくる焦燥感...。音楽に浸ることで一時的にせよ癒しを得られた読者も多いことだろう。musicureの特色は音楽に加えて、サブタイトルにある「小噺」にあるようだ。小噺ときくと落語を連想する読者が多いと思われるが、この場合は Dr.海原によるトークで、事前に寄せられたリクエストにトークで応じるというフォーマットが新鮮だ。下に引用したyoutubeの例では、「コロナ禍で会えない友人とSNSを通じたコミュニケーションでは味気ない」というリクエスト対し、「手紙や手書きの絵のやりとり」を勧める回答がなされている。公式サイトを通じて登録するとフルサイズのライヴとトークを楽しめ、視聴料は投げ銭システム。
今回視聴した銀座Swingでのライヴ(配信用無観客)は、<Quiet Nights>から始まり、オリジナル2曲を挟んで<アイ・ガッタ・リズム>で終わる50分だが、最後に訪れたサプライズは<アンスロポロジー>のスキャット。バード生誕100周年に因んだチャレンジには素直に拍手を送りたい。昨年リリースされたアルバム『ロンド』にも収録されていたオリジナル2曲も好感が持てるが、最近彼女が『Jazz Japan』に連載しているエッセイ(ジャズ・スタンダードにみる男の心・女の心)もその優れた詩心で肉薄する詩の解説を興味深く読ませていただいている。
最後になってしまったが、彼女をサポートするピアノの若井優也とベースの楠井五月も素晴らしい。気になって、ふたりが共演するアルバム『Will』(青山Body & Soulでのライヴ)を聴いてみたが、結局、iPhoneで何度も繰り返す羽目に。ドラムの石若駿はクラブでのライヴのせいか抑え気味だが、若井と楠井は溌剌と自分を出し切って清々しい。楠井はスコット・ラファロ以来の能弁型ベースでベース好きにはたまらないだろう。Body & Soul制作のこのアルバム、パッケージも丁寧で遅ればせながらお薦めしたい。
Swingのライヴに戻るが、音質も良く、マルチ・カメラのスイッチングで飽きさせないことを付け加えさせていただく。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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