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Hear, there and everywhere 稲岡邦弥No. 295

Hear, there & everywhere #39「リューダス・モツクーナスが語る」

photo above:© Vilma Dobilaite

Verse:
今年の9月30日から10月7日まで8日間、1日のオフもなく東京と近郊で8回のギグをこなしたMMBトリオ(リューダス・モツクーナス、アルナス・ミカルケナス、ホーコン・ベレ)のリーダー格、サックスのリューダス・モツクーナスが、リトアニアの日刊ウェブ・ペーパー「15 min.lt」へのインタヴューで、日本での8日間について語り尽くした。インタヴュワーは、在日リトアニア共和国大使館 文化担当官 ガビヤ・チェプリョニーテ(Gabija Cepulionyte)。翻訳は稲岡が担当したが、時間に追われ、速報性を優先したためリトアニア語から英訳、さらに和訳への作業は自動翻訳アプリの助けを借らざるを得なかった。本文で明らかな誤りは修正した。なお、ガビヤ女史は、少なくとも新宿ピットインでのギグは鑑賞している。文責:稲岡邦彌(本誌編集長 )

リトアニアとノルウェーの出身者からなるトリオの訪日とリトアニアのジャズについて語るサックス奏者のリューダス・モツクーナス。リトアニアのジャズや即興音楽シーンといえば、これらのジャンルの熱心なファンでなくとも、必ずリューダス・モツクーナスの名前を挙げるだろう。

リューダス・モツクーナスは、リトアニアのみならず、ヨーロッパ、さらには世界でも最も個性的でユニークなサックス奏者のひとりである。このミュージシャンは、印象的な楽器コントロールのテクニックとユニークな音楽的アイディアで観客を驚かせる。ステージでは、彼は燦然と輝いているのだ。サックスやクラリネットから、初雪が舞い降りるようなピアニッシモから、台風のようにすべてを一掃するフォルティッシモが流れ出る。

今年(2022年)の9月30日から10月7日まで、リューダス・モツクーナスは長年の友人であり素晴らしい音楽仲間であるマルチ・インストゥルメンタリストのアルナス・ミカルケナスとパーカッションのホーコン・ベレと連れ立って日本を訪れた。ノルウェー人ひとり(ホーコン・ベレ)を含むトリオは東京、千葉、横浜で8回のライヴ・ギグを行い、久しくCovid-19の壁に遮られていた日本のジャズ・ファンの溜飲を下げさせたのだ。リューダス・モツクーナスは日出ずる国での印象をヴィタリゥス・ガイリウスに以下のように語っている。

モツクーナスにとって今回は4度目となる訪日とCovid-19への挑戦。 モツクーナスは2010年に初めて日本を訪れ、日本のジョン・ケージと言われるピアニストの宝示戸亮二(ほじと・りょうじ)とステージを共にした。その後、2013年にはピアニストのペトラス・ゲニュシュとのツアー、さらに2018年にはソロで訪日、日本を代表する6人のミュージシャンと毎夜共演、今回の訪日は、それらに続く4度目の来日となったのだ。

かくして、日出ずる国のファンは、2013年にリューダスを中心に結成されたリトアニアとノルウェーのミュージシャンによる即興トリオと相対することになったのだ。2017年、リューダス、アルナス、ホーコンからなるこのアンサンブルはデビュー・アルバム『Plunged』をリリースし、リスナーはモツクーナスとミカルケナスの楽曲に北欧の即興が加わった演奏を聴くことができるようになったのだった。今回は、このトリオが関東のステージに立つ前に、リューダスはひとり北海道の札幌に飛び、旧友のピアニスト宝示戸亮二と再会、デュエットで演奏を行ったという。

「このツアーはもともと2019年に計画され、2020年に出発する予定でしたが、パンデミックによってすべての計画が中断されたのです。このツアーが自分にとって特別な意味を持つのは、私はこれまでバンドで日本に出かけたことがなく、ペトラスとのデュオだけだったので、自分のバンドでこの国で演奏できたことが夢のようなものであるということです。」

リトアニア文化評議会やデンマーク、ノルウェーの関係機関の尽力のおかげで、夢が実現したのです。彼らの協力無くして、このような日本ツアーを行う余裕はほとんどなかったでしょう。私たちが今回演奏した場所、つまり、即興やジャズが演奏される場所はすべて、スポンサーなど大きなキャッシュ・フローがありません。現地に行って演奏してもホテル代は賄われず、演奏に対するフィーはあったとしてもごくわずかで、間違いなく経費を補うことはできません。日本への航空券だけで、パンデミック前の3倍近くになっているのです。」とモツクーナスさんは語る。

Covid-19が世界を席巻する中、日本もその一角を占め、外国人観光客の感染の恐れから国境を守るなど、厳しい管理体制が取られていた。今年(2022年)10月11日になって初めて日本当局は自国への旅行者の渡航制限を解除した。L. モツクーナス、A.ミカルケナス、H. ベレのトリオは、日出ずる国での公演に必要な就労ビザの申請に要求される書類一式を揃えるために多くの関係者の手と神経を使わねばならなかった。

「僕らが到着する前、日本はまだ観光客に国境を開放しておらず、僕らは、出発前に混乱した官僚の罠をくぐり抜けなければならなかったのです。じつに多くの手続きを経て、就労ビザを取得しなければならなかったのです。これには、多くの時間と労力がかかりました。たまたま、ツアーが終わって1週間も経たないうちに、日本の当局が入国制限を解除したのです。本来であれば、もっと簡単に入国できたはずなのですが」とモツクーナスは言う。

今回のケースは、海外からのミュージシャンに飢えている日本への渡航の努力が実を結んだといえよう。トリオの公演は、非常に温かい反応を得た。日本の即興音楽シーンは、ライヴ・ギグにリスナーに熱心に足を運ばせただけでなく、ソーシャル・プラットフォームや音楽メディアを通じて積極的に感想を共有した。パンデミックによって日本の文化生活が外国人ミュージシャンから隔離されたことで、日本の観客は海外からやってくるバンドやミュージシャンに対して強い渇望を感じるようになっていたのだ。

「僕らは、パンデミック後に日本でツアーを行った最初の外国人バンドのひとつでした。観客は、数年間、同胞の音楽しか聴くことができなかったので、外国人にホームシックになっていたのです。その意味で、僕らは本当にラッキーでした。注目度も高く、新宿のクラブ・ピットインでのコンサートのチケットは、ほとんど売り切れ状態でした。もちろん、これは僕らの功績ばかりではないかもしれません。その日、僕らは即興音楽シーンの伝説的な音楽家で作曲家でもある大友良英をゲストに迎えました。彼は日本でも人気が高く、コンサートはいつもソールド・アウト。また、日本のプレスからも多くの注目を集めました。名の通ったネット・マガジン『JazzTokyo』誌が僕らのコンサートを取り上げてくれたのです。コンサートが終わるたびに、誰かがレビューを書いてくれと頼んできたり、リスナーがソーシャル・ネットワークで感想をシェアしてくれたりしました。

今回は、アートの背景が自由だったパンデミック以前に訪日したときよりも、注目の矢がはっきりと私たちに向けられていると感じました。日本はジャズを愛し、ジャズに大きな関心を寄せています。特に活気があり、長い歴史を持つジャズ・シーンがある国であり、その気配りと音楽に対する敬意でミュージシャンを惹きつけているのです。日本はリスナーという点では非常に特別な国です。何を求めてやってくるのか、何を期待しているのかを知っている人たちです。いつも私たちの後をついてきてくれるリスナーもいます。私はこの国がとても好きです。ミュージシャンを尊敬し、音楽を評価してくれる、とても注意深いリスナーがいるからこそ、いつもまた行きたいと思うのです。日本の聴衆は、同じような特徴をもつ「インプロディメニヨス」(注:L.モツクーナスとその仲間たちによるヴィリニュスのコンサートシリーズ)を思い出させます...リューダスは日本について言葉を惜しまず、「日本にはたくさんのジャズがある。ジャズ喫茶のような現象があります。小さな小さなバーがジャズ・レコードのコレクションを誇り、JBLの大きなスピーカーでそれを聴かせるのです。

なぜかわからないのですが、JBLは彼らにとても人気があリます。バーで日本酒やウイスキーを飲みながら、じっくりと音楽に耳を傾ける人たち。また、多くの場所で、BGMにジャズが選ばれていることにも気づきました。私が初めて日本を訪れたときのBGMは、チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーなど、ビバップ時代のミュージシャンが中心でした。今は少しソフトになりましたが、例えばジャズの音楽が聞こえて来ると、チェット・ベイカーだったりします」。

新たに共演するミュージシャンにオープンなモツクーナスのトリオと日本のミュージシャンとの関係は特に親密である。長い間の友情は今日まで続いている。リューダス、アルナス、ホーコンのトリオは、最初のセットは自分たちのトリオで演奏し後半のセットでは、サックス奏者の梅津和時、林栄一、纐纈雅代、坂田明、マルチ奏者の大友良英など、即興やジャズの世界で有名な日本のミュージシャンと定期的に共演してきている。彼らは紛れもなく日本の前衛芸術のスターである。しかし、このトリオには、古くからの仲間に加え、新しい音楽的な仲間もできた。

「神田綾子さんは、ニューヨークに長らく滞在していたヴォーカリストで、ドラマーのダリウス・ナウヨカイティスとも親交があるんです。確か、ダリウスと彼の親友のケニー・ウォレッセンが日本ツアーをしたとき、神田綾子も一緒に参加したはずです。また、フランス在住のサックス奏者、仲野麻紀さんとは、これまで一緒に演奏したことがなく、新しい知り合いになれました。旧友とも、新しい仲間とも、共通の音を見つけるのは難しいことではありませんでした。彼らは本当に高い技術を持ったミュージシャン達です」とL.モツクーナスは振り返る。

リューダス、アルナス、ホーコンのトリオは、かなり緻密に作り込まれた作品も演奏するが、日本では特にこのグループの特徴である即興的な側面を明らかにしてきた。コンサートごとに、ミュージシャンたちは未発見の、自発的な音楽の探求に飛び込み、重い作曲の枠組みを投げ捨てたのだ。日出ずる国での8回のコンサートは、このトリオが発展するための最良の場所の一つであった。

「日本でのすべてのコンサートを分析すると、トリオの進化は回を重ねるごとに明確になっています。トリオの相互作用はますます良くなり、演奏はますます面白くなってきたのです。作曲された曲のレパートリーもありますが、今回は完全に自由な即興演奏でした。演奏を重ねるごとに、どんどん自由になっていくような気がして、創造性がその場で編み出され、それを楽しんでいるようでした。リスク、アドレナリン、どこに行くのかわからない、とてもエキサイティングなことです。もちろん、アルナス、ホーコン、私の3人は長い付き合いなので、お互いのポテンシャルや傾向はわかっていますが、それでもこの自由さはとても刺激的です」とリューダスは言い、こう付け加えた。「私にとって、すべてのことには波があります。完全に自発的に演奏する波があるかと思えば、自分のリソースを使い果たし、より構成的な演奏に戻る。規律と自由のバランスが必要ですが、日本では本当に自由になりましたね」。

リリースしたアルバムへの不安、控え室の問題、日本のブロッツマン主義。 2018年の来日を経て、リトアニアのNoBusiness RecordsからL.モツクーナスの横浜・白楽Bitches Brewでのライヴ・ギグを収録したライヴ音源をコンパイルしたCDがリリースされました(注:国内発売は Nadja21/King Internationla)。リューダス、 アルナス、ホーコンの来日公演も一応記録はされたいる。公演は音声で記録されただけでなく、そのうちのいくつかはビデオ・アーカイブとしても収録された。しかし、リューダスはアルバム化の可能性については、まだ寡黙なままだ。


『Plunged』(L)  『Live at Bitches Brew』(R)

¥「前回よりずっと多くの機材を運び、すべてを録音した。でも、まだ音源を聴いていないし、アルバムのリリースについても何も決めていないんだ。将来的には、録音したコンサートの一部がリリースされ、日本のファンが自宅でライヴで聴いた演奏の一部を聴くことができるようになるかもしれないね。ちなみに、僕らのコンサートの一部はオンラインで見ることができます。横浜のエアジン、ピットインでの演奏は一定期間ですが、一定額を払えば観ることができるはずです」とリューダスは言う。

外国から帰ってくると、いつもたくさんの感動と発見を持ち帰ることができる。残念ながら、タイトなコンサート・スケジュールのために、トリオは自由な時間を楽しむことができず、他のアーティストのコンサートに参加したり、地元のレコード店でレコードを探したり、コンサートのことを考えずに数日間、街の中を歩き回ることなどはできなかった。しかし、他のミュージシャンとの交流を楽しみ、日本のジャズについて考えることを止めることはできなかったのだ。「最大の印象であり、最高の収穫は、共演した仲間から受けた気持ちでした。日本の友人たちと同じステージで演奏できたことは、本当に楽しく、光栄なことでした。日本の即興ジャズは非常にブロッツマン的(注:ペーター・ブロッツマンが演奏した過激で攻撃的なフリージャズのこと)、つまり力強さがあることに気づきました。なぜだろう?明確な答えを出すのは難しい。

彼ら自身からブロッツマンらしさが出ているように思います。彼らの日常生活、社会生活には多くの緊張感があり、このブロッツマン性、つまり抑えきれない力、抗議は、これらの緊張感から生まれているのです。日本で初めて演奏したとき、特に小さな町では、オフィスから出てきた人たち、たいていスーツを着た男性が、そのままバーに行って酔っぱらって、白馬の上で踊っているような光景を目にしたのを覚えています。不安な様子などが見て取れます。また、日本では狭い空間に閉所恐怖症のようなものを感じます。それがすべて音楽に現れているのは明らかです。ちなみに、狭い空間でも、日本人は他人のスペースを侵さないし、誰も肩をつかんだりしない。本当に面白い国だ!」。

 

Sep.30 なってるハウス (photo:m.yoshihisa https://myoshihisa.smugmug.com/)

Oct.01  cooljojo (photo:Akira Saito)

Oct.02  No room for squares (photo:Akira Saito)

Oct.03  Velvetsun (photo:Kenny Inaoka)

Oct.04  Bitches Brew (photo:Seiichi Sugita)

Oct.05. Candy (photo:Akira Saito)

Oct.06  Airegin (photo:Kenny Inaoka)

Oct.07  Pit Inn (photo:Kenny Inaoka)

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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