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カンザス・シティの人と音楽 竹村洋子No. 318

カンザスシテイの人と音楽 #59. オーニソロジーの新たなアドヴェンチャー『バード・イン・カンザスシテイ』

text by Yoko Takemura 竹村洋子
photos : Used by permission of the University of Missouri-Kansas City Libraries, Dr. Kenneth J. LaBudde Department of Special Collections

昨2023年2月7日、カンザスシティ在住のチャック・ヘディックス氏より1通のメールが届いた。件名は『オーニソロジーの新たなアドベンチャー』。私達はチャーリー・パーカーについての調査、研究をオーニソロジー(ornithology=鳥類学)と呼んでいる。
ヘディックス氏には、このコーナーでは何度も登場してもらった。ミズーリ大学カンザス・シティ校(UMKC)のミラー・ニコラス・ライブラリー、マー・サウンズ・アーカイブスのキュレイター。歴史家でもありカンザスシティ・ジャズの権威であり、特にカンザス・シティで生まれ育ったチャーリー・パーカー研究の第一人者でもある。
著書に『バード:チャーリー・パーカーの音楽と人生』、『Kansas City Jazz, From Ragtime to Bebop-A History』などがある。

彼のメールには「先週、あるパトロンがカンザスシティのチャーリー・パーカー(以下バード)の録音を寄贈してくれたんだ。これは1950年代初頭に家族の家で録音されたものだ。数年前、ノーマン・サックス(世界的に有名なバード・ファン&コレクター)がこの録音の存在を僕に教えてくれた。僕はテープ所有者のバリー・バクスターと何度か会って話をしたことがあるんだ。彼の死後、彼の妻がこの録音を手に入れたんだ。彼女は最近、オリジナルのワイヤー録音とその後のオープンリール録音のコピーをサウンドアーカイブに寄贈してくれたんだよ。この録音は、絶頂期のバードのリラックスした雰囲気を捉えている。これは驚くべきことなんだよ。このテープには非常に興味深い裏話がある。バードは中西部最大のマリファナの売人だったバクスターの父親のフィル・バクスターと友人だったんだ。バードとキャデラックを運転する牧師はバクスターの家を頻繁に訪れていた。バクスターは自宅で深夜のセッション中に『Bird』をレコーディングしたんだよ。この音源を、早くバード・ファンに聴かせてあげたいと思ってるんだよ。」
とバード直筆のラフに書かれたセットリストの写真 (本邦初公開)が添えてあり、メールからはヘディックスの興奮ぶりが伺えた。

ヘディックスはその後、この寄贈された音源をなんとかアルバム化しようと奔走し、この夏ヴァーヴ・レーベルから『バード・イン・カンザスシティ:Bird in Kansas City』としてアルバム発売の運びへとなった。ヘディックスは過去に、山ほどのアルバムを売り、彼の持つラジオ番組でプレイし、収集してきたが、今回のアルバムは初めてのプロデュース作品となる。

バードは1941年に生まれ故郷のカンザスシティを去って以来、再びカンザスシティに戻り住むことはなかった。しかし、演奏旅行などで、母親アディをはじめとした家族のいるカンザスシテイに度々帰郷していた。今回の録音は、そんなバードのカンザスシテイ滞在の合間に、親しい友人宅と地元のスタジオで録音された、とても珍しく貴重な音源である。

『バード・イン・カンザスシティ』のバードは、故郷の友人たちに囲まれ、緊張することなく、リラックスし、のびのびと、時に元気いっぱいに演奏している。カンザスシテイでだからこその演奏だろう。素のバードが垣間見られるようだ。

1941年2月6日録音、ジェイ・マクシャン。アンド・ヒズ・オーケストラの<マージー>アセテート版

また、今回のアルバム『バード・イン・カンザスシティ』には、1941年、バードがまだ20歳、ジェイ・マクシャン・バンドに在籍していた頃に録音された未発表の78回転レコードの2曲<マージー:Marghie>と<センチになって:I’m Getting Sentimental Over You>が収録されている。
これも大変貴重な録音で、これ以前のバードの録音はおそらく存在しないだろうと思われる。筆者が、ヘディックスのオフィスを訪ねた2007年に、Jazz Tokyoのこのコラムで紹介したところ、筆者の周辺の多くのバード・ファン達から「是非、聴きたいからアルバム化するよう頼んでくれないか。」という声を聞いた。
あれから17年、新しく発見された音源とともに、やっと陽の目を見ることになった。チャーリー・パーカー・ファンにはたまらないだろう。

ヘディックス曰く「オーニソロジーはまだまだ続く。」そのうちまたとんでもないものが出てくるかもしれない。
BIRD LIVES!

以下、アルバム『バード・イン・カンザスシテイ』の詳細

チャーリー・パーカー『バード・イン・カンザスシティ』
2024年11月6日リリース (※輸入盤、デジタル・リリースは10月25日リリース)
UHQ-CD:UCCV-1208 ¥3,300(税込)

〈収録曲目〉
1. バード・ソング #1
2. バード・ソング #2
3. バード・ソング #3
4. チェロキー(フィル・バクスター・ヴァージョン)
5. ボディ・アンド・ソウル(フィル・バクスター・ヴァージョン)
6. ハニーサックル・ローズ
7. パーディド
8. チェロキー(ヴィック・ダモーン・ヴァージョン)
9. マイ・ハート・テルズ・ミー
10. アイヴ・ファウンド・ア・ニュー・ベイビー
11. ボディ・アンド・ソウル(ヴィック・ダモーン・ヴァージョン)
12. マージー
13. センチになって

〈パーソネル〉
M1~M7:1951年7月 ミズーリ州カンザスシティ、フィル・バクスターの自宅にて録音
チャーリー・パーカー(as)、不明(b)、不明(ds)
M8~M11:おそらく1944年6月 ミズーリ州カンザスシティ、ヴィック・ダモーンのトランスクリプション・スタジオにて録音
チャーリー・パーカー(as)、エッフェルジ・ウェア(g)、エドワード・“リトル・フィル”・フィリップス(ds)
M12, 13:1941年2月6日 録音
ジェイ・マクシャン・アンド・ヒズ・オーケストラ

*先行シングルとして<チェロキー(フィル・バクスター・ヴァージョン)>が配信リリースされている。

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 桑沢デザイン専修学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に2016年から不定期に寄稿。

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