小野健彦のLive after Live #498~#503(祝 500本達成!)
text & photos: Takehiko Ono 小野健彦
#498 9月25日(木)
茅ヶ崎ストーリービル
http://www.jazz-storyville.com/
Eri Liao (vo/p) 沢田穣治 (b/g/p)
隣町茅ヶ崎のストーリービルにて、興味深いDUOを聴いた。
Eri Liao(VO/P) 沢田穣治(B/G/P)
私にとっては共に(以前よりかなり気になっていた存在ながら)今宵が初対面となった演者おふたりは、これ迄に共演歴はあるもののDUOとしては初の手合わせとのことであり、私自身も大きな期待を胸にその幕開けを待った。果たして、台湾原住民族タイヤル族にルーツを持ち、日本からアメリカへ、そうして ’15 日本に拠点を移して以降は、日本と台湾を行き来しながらその視野をアジアへと拡げているエリさんと、一方で、35年強に亘る「ショーロクラブ」での演奏活動と並行しながら、マルチ・インストゥルメンタリスト、作・編曲家、プロデューサー、レーベル主宰者等々多角的な視座から音楽と積極的に向き合って来られた沢田さんとの親密な語らいは、「台湾民謡シリーズ」やエリさんオリジナルの「おばあちゃんの唄、おばさんの唄」、更にはジャズスタンダード〈my one and only love〉等々を題に採り、まさに両者の音創りの立脚地を捉える際の鍵になると予想した、「境」を意識しつつも、そこから解き放たれながらその「境」を一片の気負いも見せず軽やかに行き来する肩肘の張らないしなやかな所作の数々に律せられるものとなった。国土乃至は民族更にはそれらを貫く
血縁/世代間の「境」、言語或いは音楽カテゴリーの「境」、そうして(今宵私には特に印象深かった)隣同士並び合う音の「境」と言ったやうに。そこでは私自身この手のライブレポで安易に使うことを極力控えたいと常々考えている、「アンビエント(環境)音楽」とは全く異質の極めて人肌の温もりを強く感じさせられる生々しい残響の内に収斂された鮮烈な音の連なりが描かれて行った。エリさんの、ストレートに発せられる「声が持つ音」と云ふよりは、「ひとつひとつのコトノハに宿るニュアンスの機微」に丁寧な応対の数々で寄り添った沢田さんの際立って手堅く思慮深い仕事振りがエリさんが持つ外連味とは一切無縁の素直な唄い人としての個性を上手いこと引き出しながら、結果的にこの日この刻にこのふたりだからこそ生み出すことの出来る慎ましやかで且つエレガントに過ぎる音が紡がれて行った。今宵はそんな感を強く抱いた充実の時の移ろひだった。
#499 9月26日(金)
西荻窪アケタの店
http://www.aketa.org/mise.html
アケタ・ファンCLUB BAND:清水くるみ / 小太刀のばら (p/key) 藤ノ木みか (perc) Luna (vo) 明田川 歩(オカリーナ/vo)+SPゲスト:吉野弘志 (b)
暑い陽光が再び降り注いだ長月最終の金曜日。
西荻窪アケタの店にて、アケタっ子 アケタ・ファンCLUB BAND を聴いた。
清水くるみ/小太刀のばら(P/Key)藤ノ木みか(Perc) Luna(VO)明田川歩(オカリーナ/VO)+SPゲスト:吉野弘志(B)
昨年11/16、惜しまれつつ74歳でご逝去されたピアニスト・作曲家:明田川荘之氏の遺志を継ぎ、当年5月に結成され、今回が四度目の現場を迎えた我が国のジャズ史上でも稀有なこのガールズバンドは、今宵もアケタさんの手による佳曲並びにアケタさんの愛した楽曲等を題に採り、噛み応えのある音創りを展開してくれた。

現在、我が国のジャズの現場を見渡した時、所謂アメリカンスタンダード(ポピュラーミュージック/ミュージカルソング等)やジャズスタンダード〈外国人著名ミュージシャンのオリジナル曲)に出くわすことは多いが、同じ国土の温度と湿度を感じつつ暮らした背景を持つ同胞の手による楽曲を採り上げることの比較的少ないことには正直なところ驚いてしまう。その意味では稀代のソングライターであるアケタさんの作品にフォーカスし、その中に自らを投影し、其々の表現活動を究めて行こうとするこのユニットの姿勢を私は断然支持したい。
〈今宵のセットリスト〉
(1st.セット)
M-1:外はいい天気
M-2:クルエル・デイズ・オプ・ライフ
M-3:I Should Care~吉野さんリクエスト。
曰く「アケタさんは、弾くというより唸っていた」
M-4:アイ・ライク・ウメサン
(2nd.セット)
M-5:岩手民謡南部牛追唄
M-6:アルプ
○恒例のエピソードコーナー:今宵の担当は吉野さん
M-7:てつ
M-8:I’ll Close My Eyes~歩さんチョイス
曰く「父との共演時はいつもリクエストしていました」
except M-3/5/8: composed by S.Aketagawa
#500 9月27日(土)
町田ニカズ
https://nicas.pinoko.jp/nicas/
福田重男トリオ;福田重男 (p) 金森もとい (b) 奥平真吾 (ds)
お馴染みの町田ニカズにて、福田重男(P)トリオを聴いた。
w.金森もとい(B)&奥平真吾(DS)
聞けば、このメンバーに固定されてから5〜6年の歳月を経て、その協働の成果を結実させたニューアルバム・リリースを目前に控えているというこのトリオは、福田さんによる強固なリーダーシップのもと、アメリカン・スタンダード乃至はジャズ・スタンダード(マイルス&エヴァンス)、更には福田さんオリジナル5曲等を題に採りながら満場の拍手に応えたアンコールを含む全13曲を通して終始緊密なインタープレイを繰り広げ各楽曲をこのトリオ色に染め上げて行った。そこでは、バッキングに、ソロに、と抜群の唄心でサウンドのボトムをしなやかに支えたもといさん。スティック、ブラシ、マレットを局面ごとに効果的に使い分けながら緩急硬軟の自在に亘って流れ行く音の運びのツボを切れ味鋭く的確に刺激し続けた奥平さん。そうして、彼ら頼れる協働者の音列を当意即妙確実に引き取りながら、持ち味の端正なリリシズムを強靭なタッチの内に収めつつグイグイと推進力を上げて行った福田さんによる爽快の極みを描いたパッセージとが相まって。まさに三位一体の鮮やかな手捌きを持つスケールの大きなトリオ・ミュージックが立ち現れて行った。繊細さと大胆さを兼ね備えた痛快で粒立ちの良さが際立ったスリリングな音の連なり。圧巻。実に佳き夜だった。
#501 9月28日(日)
浅草木馬亭
https://mokubatei.com/
CD『タノール 時の声 謡の和』発売記念公演「大工哲弘 唄会2025」
初訪問の浅草木馬亭(浪曲を中心とした各種公演が定期的に開催される小劇場)にて、CD『タノール 時の声 謡の和』発売記念公演「大工哲弘 唄会2025」を聴いた。
〈1部〉
大工哲弘(唄、三絃)大工苗子(唄、筝)大城朝夫(島太鼓) 板橋眞希(笛)
〈2部〉
大工哲弘(唄、三絃)大工苗子(唄、踊り)中尾勘ニ(CL/SS)熊坂路得子(Acc)吉田悠樹(ニ胡/マンドリン)
〈enc.〉all casts
[主催]オフノート/ディスクアカバナー
私にとって、待ちに待った(国の内外を問わず精力的な活動を続ける)八重山民謡の唄い手史上最重要人物のおひとりとの初対面が叶ったこの日。先ずは、この会の主催者に名を連ねた「offnoteレーベル」主宰者神谷一義氏との久しぶりの再会が嬉しいところ。果たして、定刻からやや遅れて開幕した今日のステージでは、大工さんにとってはいつものことなのだろう、曲間毎にウィットに富んだジョークと駄洒落/言葉戯び満載の軽妙な語り(小話?)を挟みながら、1部では、ニューアルバム収録曲を中心に、2部では氏の想い入れのある楽曲を中心に(中には、〈イムジン河〉〈生活の柄〉〈安里屋ユンタ〉等々が含まれたが)、更には本編最終では客席全員が参加したカチャーシーが繰り広げられる場面を経た後、文字通り満場の拍手に応えたアンコール二品に至る約20曲、時間にして2時間半を存分に使って、(客席を楽しませ尽くそうとする)ショーマンシップも含めた現場に生きる唄歌いの真髄を見せつけてくれた。
ニューアルバムの帯に踊った力の入った文句「唄の匠・声の業。先人たちが八重山歌謡に蓄えた心の財を、混迷する現代を生き抜く力に変えて蘇らせた南島謡人渾身の力業」はそうとして、今日私の眼前で繰り広げられたのは、謡に対する掛け値の無いひたむきさがひしひしと伝わり来る珠玉の「音曲ショー」であり、その終始肩の力の抜けた普段着の気高き表現者の佇まいからは、彼の地の海岸にそよぐ南風〈ぱいかじぃ〉の様なおおらかと和やかさを想起させられて、終始こちらの口角は緩みっ放しとなった緩やかな日曜午後の時の流れだったと言える。
#502 9月29日(月)
四ツ谷三丁目 小さな喫茶店 HOMERI
https://homeri.jimdofree.com/
さがゆき復活祝 special!!~『SOLA』:さがゆき(vo/鳴り物)中尾勘ニ(ss/cl/tb) 関島岳郎 (tuba)
長期休暇中でもないのに、先週木曜日から5連荘の、文字通りのLAL〈Live after Live〉最終日となった当夜。初訪問の四ツ谷三丁目小さな喫茶店HOMERI にて、待望の’~さがゆき復活祝special!!~『SOLA』公演を聴いた。
さがゆき(うた/鳴り物)中尾勘ニ(SS/CL/TB)関島岳郎(TUBA)

当年六月、ゆきさんの身に起きたまさかの重度腰椎骨折により、7/8実現予定なるも涙の延期を余儀なくされた垂涎の手合わせが、やっと…やっとリベンジ叶ったこの夜、当のゆきさんの意気込みたるや相当なものだったようで、セットリストに、(ゆきさんSNSの前口上通りの)相当珍しいもの…殆どライブでやった事のない中村八大さんの珍しいぶっ飛んだ曲(と言いながらも満場の拍手に応えたアンコールには〈上を向いて歩こう〉も飛び出したが)や、めちゃ久しぶりなオリジナルや、あれやこれや…(中には盟友加藤崇之氏作の〈皇帝〉を含んだが)」を盛り沢山に詰め込んだ全15曲に及ぶ入魂のステージを披露してくれた。一見すると意外とも思われる中尾・関島両氏との共演であるが、よくよく考えてみると、ユニット:コンポステラ、ストラーダ、フォトン、ふいご等々での協働を通じ、日本のチンドン、フォルクローレ、クレズマー、ジプシー音楽等大衆民族音楽とジャズ/インプロの接着点を模索して来た両氏と、方やアメリカン・スタンダードや中村八大作品等をまるで小唄・端唄の趣きの内へと鮮やかに仕立て直してくれるゆきさんの音創りの間にはある種の共通点も見出される訳で、そんなことに想いを巡らせつつ臨んだ今宵のステージでは、予想に違わず、人間交差点の機微を鮮やかに掬い取るには絶好の共演者を得たゆきさんの、静にも動にも自由自在に振れ行く唄声に胸を撫で下ろすこと度々であった。今改めて振り返り、単に一演者の領域に留まらず、慧眼の光る人選を成し遂げプロデューサーとしての資質をまた一段深化させたゆきさんの意欲的に過ぎる姿勢を大いに歓迎したい。そんな感を強くした数寄者達の掛け替えの無い邂逅の宵だった。まさに、「災い転じて福となす」、〈The world is waiting for the sunrise〉の体現。ゆきさん、改めて、復活心底よりおめでとう!!
#503 10月3日(金)
茅ヶ崎ストーリービル
http://www.jazz-storyville.com/
川嶋哲郎 (ts/fl) 水橋 ‘ゴン’ 孝 (b) 大徳俊幸 (p)
隣街茅ヶ崎のストーリービルにて、興味深いトリオを聴いた。
川嶋哲郎(TS/FL)水橋’ゴン’孝(B)大徳俊幸(P)
個別の共演はあるもののその主戦場を其々に全く異なる活動フィールドに置きつつ我が国のジャズの裾野を押し拡げて来た御三方の手合わせは、実は同所にて本年7/30に実現されたものの、折からのカムチャツカ半島冲地震に端を発した日本全国津波警報の余波を受けた交通網の壊滅により、自宅から近距離ながら現場に辿りつけなかった経緯もあり、約1週間前に同所を訪問した際、再演の報に触れ急ぎ予約を入れ駆けつけたというのがことの次第だった。まあ、それはそうとして、〈days of wine and roses〉で幕開けし、間に織り成したS.ロリンズ〈st.thomas〉とL.ボンファ〈manha de carnaval/black orpheus〉以外は著名なジャズ・スタンダード8曲を連ねた後、文字通りの満場のアンコールに応え〈in a sentimental mood〉を繰り出しつつそのカデンツァでは、なんと川嶋さん入魂のJ.S.バッハ〈無伴奏チェロ組曲第一番〉へと転じ感動的なフィナーレを迎えた今宵のステージ。先ずは、テナーでは、豪放なトーンの内に咆哮のスパイスを効果的に散らし、途中やおらケースから取り出したフルートでは、音場が停滞しないよう絶妙なアクセントを施した川嶋さん。続いて、その穏やかなお人柄がそのままプレイに反映された端正で趣味の良いピアニズムが際立った大徳さん。そうして、終始サウンドの底辺をがっしりと掴みながら、止めどもなく湧き出したウタゴコロが光ったゴンさん。といったやうに。三者は絶妙なパワーバランスの内に圧倒的なスゥイング感を表出してくれた。まさにここにしか無い出逢いを堪能した充実に過ぎる夜だった。















































