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小野健彦の Live after LiveNo. 259

小野健彦の Live after Live #19~#27

text & photo : Takehiko Ono 小野健彦

#019 9月14(土)
市川市行徳 Live Jazz HotHouse
http://www.jbs-co.com/hothouse/index.html

沢田一範 (as) 松井節子 (p) 小杉敏 (b)

関東県内でも、まだまだ伺っていないジャズのハコは、当然山程ある。 まさに、マンハッタンに比肩するジャズのメッカ、関東・東京である。 今夜は、その中でも、自宅からの行程を考えてずっと二の足を踏んでいたハコへの初訪問。 今夜のライブは@行徳(千葉県市川市)「ホットハウス」。 このハコの共同経営者は、ピアニストで、今は亡きアルトサックスの郷間和緒氏の細君松井節子氏。 かつては、もっさんの愛称で親しまれたベースの橋本静雄氏も出演されていた、創業25年のハコである。今宵は、このハコを訪問するには、この面子しかないと以前から考えていた方々が勢揃いする。松井さんのピアノに、小杉敏氏のベース。ドラムの椅子には、 郷間氏や橋本氏 そうして私のアイドル 故武田和命氏とも縁の大変深い渡辺文男氏が座る。そこに、このゴールデンシニアトリオを従えて、アルトサックスの沢田一範氏が加わるという、至極オーソドックスなカルテット編成。 ぱりっぱりのビ、バップを聴くにはこれ以上無いという最良クラスの表現者達。 しかし、私の頭を、最近、文男さんの体調が余り芳しくないという情報がよぎる。 ちょうど1週間前の同所でのライブも欠席。 近々の他所でのライブも早々に代演者が立っている。 一体今夜はどうなるのか? そこで、私はとんでもないことを考えてしまった。文男さんの最寄駅は私の動線上にある。 しからば、ご一緒してハコまでご同行すれば、良いのではないか?と。 極めて頼りない介助者だけれど。そうと身勝手に決めて、ハコのママのO氏に加えて、文男さんご自身にご意向を確認すると、即OKとのこと。そこでライブ数日前に待ち合わせ場所、時間は決まった。 運命の本日当日、文男さんの最寄駅に着いて、ちょうど早めの夕飯が私の席に届いた瞬間、O氏からの電話が鳴った。「今、文男さんから連絡が来て、やはり体調悪く、ダメだって」 ガーン、ショック!! その後、一旦私は、自宅方面のホームに向かったが、そこで、冷静に考えた。一方では ここで帰っては、ライブハウス行脚が生き甲斐という自らの矜持に反する。また一方では、ジャズにとってはハプニングこそ絶好の名演に繋がるケースもあろう。さらには、ドラムレスのアルトトリオの編成も多いに気になるなあ、と。 いきおい、私の足は、反対ホームに向いたことはいうまでもない。 結果的に、文男さんとの杖付コンビの同行二人弥次喜多道中は実現しなかったけれども、私は、無事「ホットハウス」に着くことができました。 お店は東西線高架の南行徳駅と行徳駅のちょうど中間の住宅地にひっそりと佇む。私が着いたのは オーブン直後とあって、お客様は、まだ数人しか来られておらず、なかでも、年配のご婦人が、最近TVで北村英治さんの演奏を聴き感動して、今日、意を決して、はじめて生演奏を聴きに来てみました。と嬉しそうに話されているのが聞こえてくる。これには、こちらまでなんだかとても嬉しい気持になった。 まだ、最初のステージまでには時間があるということで、松井さんが、きさくにリクエストに応えられる。そのご婦人から〈 鈴懸の径〉が、続いて別の方から 〈ひまわり〉が、私も調子に乗って、いつものリクエスト曲、〈アマポーラ〉を。松井さんのピアノは至極芯のあるしなやかさで、そのコシのある語り口に早くもぐっと引き込まれてしまう。そうこうしているうちに澤田さんが、小杉さんが、到着され、お客様も続々と到着される。キャパ15人程の約7割程度が埋まったところでステージの幕が上がる。ご近所の方、常連さんと思しき方々で支えられている場内の 極めて和やかな空気につつまれて、演者達は、スタンダード曲を中心に快調にバウンスして行く。曲の合間合間で松井さん、O氏が絶妙のタイミングでリクエストを募り、お客様も、レスポンス良くそれに応えて行く。私も、またしても、調子に乗って、松井さんのモンクが聴いてみたかったのでリクエストすると、〈ブルーモンク〉を演ってくれた。そうして、全3ステージが終わりを告げる頃、澤田さんが、「では、今夜最後の」、と言うと、客席は皆、エー!で、澤田さんすかさず 、「の1曲前は、バラードを」、と仰ったので、ここで、私、またしてもヌケヌケと〈smile 〉お願いします で即採用!そうして、最後の最後は、〈ホットハウス〉を澤田さんが渋く吹き上げたところで大円団。 愚直にオーソドックスを究めた者達の小粋さと、頑固さを見せ付けられた充実の音場でした。

020 9月15(日)
中野 Jazz Dining Bar SWEET RAIN
http://jazzsweetrain.com/

加藤崇之 (g) 早坂紗知 (as) 永田利樹 (b)

「今日は、夕方から夜にかけて雨らしいけど。あなたそれでも、ジャズに行くの?」との家人の一声に飛び起きた私。
なるほど、天気予報を確認すると、今夜のハコ周辺は、夕方から傘マークが付いていた。今シーズンは、梅雨時に雨によるライブ断念が無かったのに、なんたることか!何せ杖付きの私には、雨はリスキーで、畢竟ライブ行きは断念せざるを得なくなる。
朝メシ食べて、腹を括って、二度寝の爆睡から目覚めたのは、昼過ぎ。空模様は若干の怪しさはあるものの、夜の街を目指すべく、早めに家を出た。
今夜のライブは、@中野スイートレイン。

若手注目株から、超ベテランまで。インプロから、オーソドックスなジャズまで。バラエティに富んだ表現者が連夜集う、今や中央線ジャズの雄たるハコのひとつである。今宵も興味深い組み合わせがラインナップされていた。演者は、まず、変幻自在のギタリスト&コンポーザーの加藤崇之氏。加藤氏は、今夜は、盟友である故津村和彦氏のガッドギターを携えて登場。次なるは、先日還暦を迎えられ、記念の3日間連続ライブも大成功裡に終わらせて、目下、乗りに乗っているベースの永田利樹氏。加えて、その引き締まった音色と想像力に溢れたフレーズが魅力的な、アルト&ソプラノサックスの早坂紗知氏。この三人が、今宵は、ブラジル音楽を題に採ったステージを繰り広げた。それは、イヴァン・リンス、セザール・マリアーノ、ヴィラ・ロボス、バーデン・パウエル&エリス・レジーナらが奏でた曲達。それらに混じって、加藤氏、永田氏のオリジナルが組み込まれ、絶妙なスパイスの役目を果たしていた。兎に角、芸達者な御三方は存分にうたいながらも、全体のトーンとしては、抑えに抑えてステージが進行して行く。優しい表情に満ち溢れた 深淵なる抑制の美に酔わされたひとときだった。


#021   9月21(土)

横浜白楽 Bitches Brew for hipsters only
https://utautaicunico.wixsite.com/bitches-brew

CuniCo (vo) 山口コーイチ (p)

前日までの一時雨予想から一転、曇りながら、涼しい朝を迎え、午後は、予定通りのライブに向かった。
今日のライブは午後のひとときを、@白楽Bitches Brew。
うたうたいのCuniCoさんとピアニストの山口コーイチさんとの初共演。
鉛色の空には、シャンソンがよく似合う。
おふたりは、様々なジャンルの曲を演奏された。今日は後日の10/10に渋谷ラ・トリエで開催予定のライブのフプロローグという位置づけもあってか、互いの手の内/息遣いをじっくりと確かめ合うように、日本語の子守歌から、ジャズ・スタンダード、そうして、有名無名のシャンソン・ナンバーに至るまで幅広い楽曲がバリエーション豊かに。
それでも、おふたりの交歓の音場は、行き交う人々のこころのひだを絶妙な彩度と湿度で表現したという意味で、極めて卓越した、オール シャンソンショーであった。

#022 9月22(日)
横浜関内馬車道 横濱エアジン
http://www.airegin.yokohama

The Third Tribe:小林洋子 (p) 池長一美 (ds)

今にも泣き出しそうな鉛色の空を仰ぎ見ながら、今日もライブに出かけた。今夜のハコは、横浜関内馬車道。早めの夕食は、とんかつコースでも、中華コースでもなく、この辺りでは珍しく、15時から開店している居酒屋 よりみち酒場へ。 ここなら、今夜のハコにも近く、街に傘の花が咲くのも良く見えるし、品数豊富で、天気読みの私には、絶好の河岸。まずは黒ホッピー片手に、つまみは、刺し身の3点盛りを検討。すると、馴染みの板前が気を利かせて私の好物の、しめ鯖入れましょうか?、で即決。 腹を満たした後に、小雨の中、今宵のハコに向かう。 今夜のライブは、The Third Tribe @横浜エアジン。TTT は、結成1年を迎える、ピアニスト小林洋子氏とドラムス池長一美氏のduoチームで、私にとっては、今夜は4か月振り5回目の目撃となる。 これまでは、その曲の出自を互いが十分に咀嚼した上に成立した、1stアルバム『Neary Dusk』に収められたオリジナル曲が演奏されることが多かったが、今宵のステージでは、それらに加えて、ジャズのスタンダード曲や、数篇のインプロヴィゼーションも織り込んだセットリストであった。 結成からある程度の年月を経て、多くの現場を共有したことから、その親和性がさらに深化したと感じられた一方で、互いに信頼しているからこその程よい距離感が生まれて来ていることを強く印象付けられた。その心地よいスペースがあればこそ、おふたりのやりとりの中から、ハラリと溢れ落ちた音の断片にハッと息を呑んだ瞬間があった。それは、〈the shadow of your smile〉 や、〈over the rainbow〉などで。 どうやら、このユニットは、私が観ない間にさらに新たなステージに進化を遂げたようだ。 おふたりは、10月には、関西ツアーも組まれ、そこでは、池長氏の旧友で北欧を代表するテナーサックスのひとり、クリスチャン・ヴースト氏との共演を果たすことになる。 新たな編成での音創りを経て、また、思いもよらないベクトルに進み出して行くことを 期待するばかりである。


#023 9月26(木)

西荻窪 音や金時
http://www2.u-netsurf.ne.jp/~otokin/kokogaotokin.html

加藤崇之 (g) 吉野弘志 (b) 藤の木みか (perc)

今夜のハコは、西荻窪。
この街は、駅の南口、北口共に多くのライブハウスが点在する中央線屈指のホットスポット。
加えて、そのジャンルも、ジャズ、ロック、ブルース、ブラジル系等と幅広い。
今夜のライブは、その中でも、インド音楽等いわゆるアジア民族音楽のセットも比較的多く、店特製のネパール料理も美味しい@音や金時。
今宵の演者は、ベースの吉野弘志氏とギターの加藤崇之氏に加えて、パーカッションの藤の木みか氏。この組み合わせは、今夜で3回目とのこと。
このハコの特徴は、その音の響きの良さにある。
まあ、音の好みは、ひとそれぞれだけれども。
私には、その程よい「がらんどう」感が、特に、今夜のような、互いの距離感を慎重に図りながら、丁寧に音を紡いで行く弱音主体の編成の場合には、より一層引き立つ気が強くする。
ギターもベースも、まるで自らが森の中の一本の樹として、すっくと立っていた時のことを思い出しているような..、
この洞のような空間に身を委ねていると、それはまるで太古からの響きを思い起こさせられるような音場だ。


#024 9月28日 (土)

上野・合羽橋 Jazz & Gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com

山崎 比呂志 try angle:山崎比呂志 (ds) 井野信義 (b) 原田依幸 (p)

今宵のライブは浅草だけれども、旅の始まりは、湘南ではなく、国分寺の叔母宅だったので、神田経由銀座線で浅草入り。 銀座線に乗るのは本当に久しぶりだったけれど、昔は、車内に白熱灯?が付いていて、度々車内が暗くなるとそれが点いていたなあなどと思い出す。ありゃ?あれは丸の内線だったかな? 昼メシを抜いていた私は、地上に出るなり、本日初上陸となるお目当ての蕎麦屋に一直線。先代の林家三平氏も高座前にこちらでよく蕎麦を手繰ったという、神谷バー近くの尾張屋支店へ。まずは、蕎麦前として蕎麦豆腐を発注。抹茶塩、味噌、山葵で頂く逸品。気に入りました。天せいろも食し程よく小腹も満たされた私は、夕涼みがてらに吾妻橋方面へ。こちらもかなり久しぶりのアサヒビアホールビルを遠くに臨む。「フラムドール」仏語で金の炎を意味するオブジェがその屋上部にある例の建物である。実は、この建物は、私の亡父のゼミ、及び個人設計事務所での1番弟子でもある 野沢誠氏とフランス人デザイナー フィリップ・スタルク氏の共同設計によるもので、オブジェの下のスーパードライホールと共に炎と聖火台をイメージしたものであり、また、このフラムドールは、造船の工法により、川崎重工のドックで製作されたものだと野沢氏から聞いたことがある。好みと賛否はあろうが、都市の風景を規格外のスケールで圧倒している奇抜なインパクトは今もって健在であった。 懐かしさの余り、前置きが長くなってしまった。 さて、ライブである。 今夜は、山崎 比呂志 try angle@合羽橋なってるハウス。ドラムの山崎比呂志氏とベースの井野信義氏が、今宵迎えいれたのは、リトアニアへの旅から帰国されたばかりのピアニスト原田依幸氏。まさに千両役者のそろい踏み。エレガントでグレイスフルとしか表現のしようのない圧倒的に美しいリリシズムに満ち溢れたひとときを堪能させて頂いた。

#025 9月29(日)
町田 Jazz Coffee & Whisky  Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/

大野えり (vo) 片倉真由子 (p) 米木康志 (b)

今日のライブは、本当に久しぶりの@町田ニカズ。ピアニストでマスターの元岡一英氏は北海道へのツアー中とのことで本日は不在。
今日は、最近お逢いする機会が非常に多いボーカルの大野えり氏が大層興味深い面子を率いて登場した。ピアノに片倉真由子氏、ベースに米木康志氏という強力な布陣。
冒頭の〈just in time〉から、本編最後の〈love you madly〉まで、御三方が創り出す音場は、圧倒的な広がりを持ち、それが、こちら聴く側にもビンビンと伝わって来る。
チャーミングで天真爛漫なえりさん。アーシーさとトリッキーさを交互に巧みに繰り出す真由子さん。そうして、しなやかで強靱なベースラインでバンド全体を強固に下支えする米木さん。それは、唄歌いと伴奏者という構図ではなく、三者が互いにがっぷりと組み合うというもの。信じられないことに、お客様は終演間近にやっと演者の数を上回る程の少々寂しいものであったが、私は緊張感に満ち溢れたトリオミュージックを満喫させて頂きました。

#026 10月3 (木)
カフェバー  masa2sets 小田急読売ランド店
https://www.masa2sets.com/newshop

菊地雅晃4:菊地雅晃 (b) 市川空 (p) 生島「オジマ」佳明 (g) 藤井信雄 (ds)

今夜のライブは、@masa2sets 小田急読売ランド店。 本年7月に初訪問した、向ヶ丘遊園店の2号店として、8/11にオープンしたばかりのハコ。 今宵は、遊園の時と同様、菊地雅晃4 plays jazz standards、AOR & original。演者は、とにかく各種音楽ジャンルに造詣の深いベーシストの菊地氏をリーダーに、弱冠21歳のピアニスト市川空氏と、ベテラン鬼才ドラマーの藤井信雄氏に加えて、先頃、2ndソロアルバム 『popular standard songbook』をリリースしたギターの生島「オジマ」佳明氏。 とにかく、そのふれこみ通り、幅広いジャンルの楽曲が披露された。 それは、ジャズ・スタンダードでは、〈Like someone in love〉や、〈the one i love belongs to somebodyelse〉などの歌もの。AORでは、10ccの〈i’m not in love〉。その他、ビートルズの〈 l am the warlus〉や、ショパンの〈prelude in e minor〉まで飛び出した。それらに混じって組み込まれる菊地氏のオリジナルは、ウネウネグニュグニュとした風合いのどれも印象的なもの。そうして、今夜は、雅晃氏の叔父にあたり、私も直接のご縁を頂いた今は亡き菊地雅章氏の〈little abi〉まで盛り込む、増税直後の大売り出し状態。全編を通じて、世代と趣味嗜好の異なる表現者の自由闊達なやりとりに満足の宵だった。雅晃氏曰く、まだまだこのバンドを面白くさせて行きますよ。とのこと。その進化の道程に当分目が離せそうにない。


#027  10月5(土)

成城学園前  Cafe Beulmans
http://cafebeulmans.com/

高田ひろ子 (p) 市野元彦 (g)

今日のライブは、@成城学園カフェ・ブールマン。季節外れの暑さが戻った昼日向、13時30分にその幕が開いた。
ピアノ、ギター、ベースなどを中心とした小編成の、ここにしかない出会いから生まれる化学反応の妙を狙うオーナー、吉岡氏の強い拘りが感じられるハコである。珈琲だけでなく、洋酒も幅広く楽しめるのはありがたい。
さて、本日の演者は、ピアノの高田ひろ子氏とギターの市野元彦氏。
おふたりの清冽なハーモニーは、決して互いを束縛することなく、自由に解き放ちながら、緩やかに淀みなく整然と溶け合って行く。
その優しく穏やか語り口は、落ち着いた街の落ち着いた時間と空間にお似合いの、極めて居心地の良く、それでいてほのかにピリリと刺激的な音場だった。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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