JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 50,920 回

小野健彦の Live after LiveNo. 274

小野健彦の Live after Live #129~#133

text and photos by Takehiko Ono 小野健彦

#129 11月20日(金)
高田馬場 Blues and Jazz GateOne ゲイトワン
https://jazzgateone.com/

昭和子供バンド: 大口純一郎(p) 峰厚介(g) 小杉敏(b) 楠本卓司(ds) 梶原まり子(vo) 

四囲の状況を十分勘案しながら、自らは万全の感染対策をしつつ、万全の感染対策に配慮したライブの現場に出かけて行く。
今夜のライブは本当に久しぶりの@高田馬場 GateOne 。ご存知、名ソウルフル・ギターリスト橋本信二氏とボーカリスト梶原まり子氏のご夫妻が1999年に創業したハコである。
いつものように、看板娘の舞さんに介助頂きながら、狭く急な階段を降りて行く。
以前であれば、そこには本番を控え、黙々と自主練に励む信二さんが居て、私の顔をみつけると、あの、’ニカー’っとした笑顔で迎えてくれたものだが、それが無いGateOneは私には初めてのことだけに、この4ヶ月間の不義理と重ね合わせ、やはり、胸がずきーんと痛む。
それでも開演が近づくにつれ、舞さんが、ツイキャス配信の準備など含めて気忙しさをみせ始め、カウンター奥の定位置で譜面の整理に余念のなかったまり子さんも腰を上げる段になるとお客様もチラホラみえ始め、前後して今宵の演者が集い、彼らと旧交をあたためる頃になると、私のココロも徐々に平穏を取り戻すことに。

ベースの小杉敏氏が、そうしてこのバンドでは初めての経験となるドラムスの楠本卓司氏とテナーサックスの峰厚介氏が、さらに暫し遅れてピアノの大口純一郎氏が到着する。そう、今宵のステージは、昭和子供バンドだ。
役者は揃った。音が出ていないのに場がすでに十分暖まった感がするのは、今日の陽気のせいではなく、千両役者揃い踏みの発する気のなせる技だろう。
まずは、熟練の男衆4人によるたっぷりとふくよかな時間が滔々と流れて行く。
互いに遊びの極意をわきまえた表現者同士のハーモニーは極上だ。
そうして、場が芯から暖まったところで、いよいよまり子さんの登場となる。

男衆の遊び心のツボを適度に刺激しながら唄い込んでゆくその様は、キュートでかつ懐深く余裕たっぷりなのだから、こちら聴き人も毎度のことながらすっかりと参ってしまう。
決して同世代の仲良しバンドではない。下校時間まで存分に遊び尽くそうとする少年少女の貪欲で無垢な心を持ち続けている個が集った稀有なバンドだ。
そこに一切の妥協が感じられないのがこのバンドの真骨頂だと言って良い。
私は昭和半ばに生まれた子供だけれど、あと20年後にはあんな大人になっていられたら良いなあとつくづく実感した充実の宵。
正月には未だ早かったけれど、何だか実家に帰ってきたような心持ちになった。


#130 11月23日(月)
藤沢 カフェ・バンセ
https://cafepensee.wixsite.com/pensee

EL SUR:大口純一郎 (p) 中西文彦 (g)

霜月二十三日。「勤労感謝の日」であると共に、稲の収穫を祝い翌年の五穀豊穣を祈願する収穫祭である「新嘗祭」の日にもあたる。
今宵は予定していた他所でのライブが急遽中止・延期となったため、予定重複に涙を飲んでいたライブに出掛けてきた。だって、旧知の表現者のDUOが自宅の最寄駅で聴かれるのだもの。
ということで、今宵私のライブの現場は@藤沢カフェバンセ。普段はなんとも居心地の良いこのカフェも、ご亭主・金井元氏の慧眼による好企画により、時に極上のライブ空間へと変化を遂げる。
今日のステージには、ピアニストの大口純一郎氏とギターリストの中西文彦氏が登場した。(ユニット名は EL SUR=南へ向かう)。このおふたり、これまでもかつての中西氏のお住まい・大船や、鎌倉・藤沢等の湘南地区から、遠くは沖縄まで、すでに多くの時空を共有して来た間柄だけに、その当意即妙のコンビネーションは抜群。共に、ラテン全般のメロディとリズム・ハーモニーに大変造詣の深い両氏がグングンと弾き込むにつれ、店内の温度と湿度も自然南半球のそれを濃く感じさせることに。
極く控えめでクールに支配された熱情とキレの匙加減がなんとも心地良い。
今宵のステージでは、中西氏の印象的なテーマを持つオリジナル曲が多く披露されだが、その他では、中でも約50分間のセットのほぼ半分を使って熱演された2ndセットの冒頭2曲、それらは、ブラジルの至宝H. パスコアール・バンドのベーシスト  イチベレー・ヅァルギ氏のオリジナル曲と続く親分パスコアールの〈Montreux〉さらにはD. カイミの〈Amazon River〉等において、中西・大口氏は、早急な結論付けを行わないアヴァンギャルドな表情迄をも見せ、大きな見せ場を創っていった。
しかし、この時点で2020年も残す所あと1ヶ月強。2021年の世界が物心共に「五穀豊穣」であることを祈らずにはいられない。そんな小さくも麗しき実りの種を沢山頂けたようなそんな気分になれた宵だった。

#131 11月26日(木)
茅ヶ崎 Jazz and Booze ストリービル
http://www.jazz-storyville.com/

南博 (p) 岩見継吾 (b)

都心部のキナ臭さが増した今週のLive After Liveは河岸を再び自宅近場に戻し、月曜日の藤沢に続き、今宵は茅ヶ崎へ。
今宵のライブの現場は@茅ヶ崎南口・ストリービル。
今宵のステージは、そのユニークな文筆活動でも知られる鬼才ピアニストの南博氏と、オーソドックスからアヴァンギャルド迄、今や引く手数多のベーシスト岩見継吾氏のDUO。
お聞きすれば、共演歴は多いものの、DUOは今宵がお初だという。
そんなおふたりの親密な語らいを聴いていて、私は、パブロ・ピカソのキュビズムを連想した。
抽象と具象の音像をその視点を巧みにズラシながら描いて行くハードボイルドな交歓のループ。
その語り口は、強靭で明快鮮烈、かつなんとも飄々としていながらも含蓄に富み、ウニュウニュ・グネグネ・ザクザク・ゴリゴリとしたその風情に身を委ねていると、不確定なモザイクの中から次第に明確に主張する輪郭のあるサウンドが立ち上がって来る。そうそう易々とした心地良さにはさせてくれないヒリヒリとした緊迫感が店内に横溢した晩秋の候。

#132 11月28日(土)
野毛・ジャンク
http://www7b.biglobe.ne.jp/~nogejunk/

赤坂由香利(vo, p) 永塚博之 (b)

未知なるハコ、とそのご亭主、さらには、言うまでもなく未だ観ぬ表現者との御縁を頂きたいという欲求が、私のLive After Liveの原動力になっていると言っても決して過言ではない。
今夜はまさにそんな夜。
今宵のライブの現場は、@野毛・ジャンク。
港町横浜で有数の繁華街・野毛界隈も、コロナ禍影響をまともに受け、人通りは予想以上に少ない。そんな街の真ん中の雑居ビル2階にひっそりと佇むのが、今宵の河岸・JUNK。
そのステージには、ボーカル&ピアノの赤坂由香利氏とベースの永塚博之氏のDUOが登場した。
赤坂さんと言えば、私にとっては、2000年秋録音の1st.album 『Blue Prelude』でその声に接し、いつかは生でと思いながら、なかなかタイミング合わずで、今夜念願叶いようやく直接の御縁を頂く機会が訪れた。
果たして、小細工無しの外連味を全く感じさせない赤坂さんの唄の数々は、こちら聴き人にストレートに迫り来て、心の襞をとっくりとなぞって行く。そうしてその語り口は、決してベタつかず、あっけらかんとドライなところがなんとも小気味良い。

 

〈O GrandeA Mor〉で幕を開けた今夜のステージ。〈Tenderly〉や〈Our Love Is Here To Stay〉〈Just In Time〉〈枯葉〉等の所謂ジャズスタンダード曲から、〈Please Send Me Someone To Love〉や〈N.Y. State Of Mind〉、さらには〈Here’s To Life〉等のソウルフルでブルージーな楽曲達まで、全て十分に自家薬籠中と思われるバラエティに富んだ佳曲達の、その一言一言を大層丁寧に弾き唄い語り切ろうとするその姿は、おおいに好感が持てた。
声とピアノと弦がまろやかに溶け合いながら、広く深くて、ちょっぴり小粋でおつな音場にこちら聴き人を誘ってくれた。
得難い出会いに恵まれた夜だった。

 

#133 11月29日(日)
新宿ピットイン
http://pit-inn.com/

大友良英 (g)  山崎比呂志 (ds)

今宵、私のライブの現場は、@新宿ピットイン。今夜は、所謂レコ発ライブ。
ギターリスト大友良英氏とドラマー山崎比呂志氏による4年前11月のヨーロッパ・ツアーを捉えた『LIVE in EUROPE 2016』(jinya disk)の発売記念ライブである。
すでに多くの時空を共にして来たコンビではあるが、その鮮度は変わらず抜群。今宵も終始、極めてしなやかに、かつ時機を外さない鋭さが際立っていた。1ステージを約40〜50分間の長さで打ち込み続ける山崎氏の最近の演奏スタイルに慣れている者としては、1stステージ目、1曲・35分は、少々物足りなく感じられたのは事実だが、それでも2ndセットに入り、一転20分・15分・10分と短編を畳み掛け、さらにアンコールでは8分と簡潔にまとめあげたA. アイラーの〈ゴースト〉まで繰り出したその全体のステージ構成は鮮烈かつ珠玉に過ぎた。まさに、両者共に「蝶のように舞い、蜂の様に刺す」如く、それは刹那に咲いた圧巻の肉声の吐露であったと言えよう。

*演奏中の写真は、ピットイン・スタッフの方々のご厚意により撮影頂いたものを掲載させて頂きます。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください