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小野健彦の Live after LiveNo. 287

小野健彦のLive after Live #207~#212

text & photo by Takehiko Ono 小野健彦

#207 11月23日(火)
Jazz Dining Bar 中野 Sweet Rain
http://jazzsweetrain.com/
池田芳夫 (b) 赤坂由香利 (p/vo)

このコロナ禍にも関わらず、自ら積極的に行動し、待望のご縁を頂けた表現者は少なくないが、今宵のこの方も待望の初対面となった。
1942年元旦生まれのベースの巨匠・池田芳夫氏だ。その池田氏、近年はベースソロから御子息・聡氏とのベースDUO、更にはピアノレス2ホーン入り「DADAバンド」、加えて各種セッション等様々な編成で、ナマのステージに、CD自主制作にと旺盛で意欲的な活動を展開されている事実には、正直頭の下がる思いだった。
その今日の池田氏のお相手は私も昵懇の赤坂由香利氏(P/VO)。実はこちらのDUO、同所には不定期に出演されており、そのことを以前から知っていた私は吉報を待ち続けたが、数ヶ月前にようやく赤坂氏からの決定の報を受け、早々にこの日に狙いを定めた。
果たして、〈Beautiful Love〉で軽快に幕開けした今日のステージ。その後も〈The Shadow Of Your Smile〉〈In Love In Vain〉〈Round Midnight〉〈Just In Time〉等の著名曲が並ぶが、そのいずれでも、赤坂氏は巨匠を前にしても臆する素振りは微塵も見せず、自らの音創りを極めて潔く貫いた。彼女のその意気を感じてか、池田氏も比類なき強靭さと深さを持って赤坂氏に寄り添いながら自らの主張を頑強な語り口で紡いでくれた。そこに無駄な音は何一つない。
未知のメロディが、より斬新な新たなるメロディを呼び覚まして行く。緩急に亘るパッセージに宿る静かな気迫。流れの中の、あるべき確たる音に賭ける職人から醸し出された崇高な佇まいがこちら聴き人の胸に強く迫った。

 


#208 11月25日(木)
横浜・馬車道・上町63
http://kanmachi63.blog.fc2.com/
遠藤ふみ (p)落合康介(b)北澤大樹 (ds)

今週は、日・火・木とリズミカルに飛び石で進むLAL。
今宵のライブの現場は、「大変ご無沙汰でした」の、本年4/9以来7ヶ月振りの横浜・馬車道・上町63。
そんな久しぶりのハコではあるが、私自身にとってはなんとも楽しみな展開。
今宵のバンドスタンドには、フレッシュなピアノトリオが登場したが(聞けば今日が初顔合わせだという)、落合康介氏(B)以外のおふたり、リーダーの遠藤ふみ氏(P)と北澤大樹氏(DS)は共に初対面。私の手元にあるのは、これまで触れて来たSNS上のかなり断片的な情報のみ。それでも何故か非常に気になり、自分の直感を信じてこの瞬間に賭けてみた。
果たして、思索的なピアノの最弱音に、タイコはブラシで、ベースは弓で至極慎重に合わせにかかった冒頭のインプロ曲から「持って行かれた」。
心も身体も温まっていない中でのこの一撃は正直かなり効いた。ゆるやかなズラシの美学とでも言おうか、リズムは絶妙に伸び縮みし、そこに殆ど壊れかけた如何にも儚げなメロディがまとわりついて行く。そうしてステージをそのままの神妙なテンションで押し切るのかと思うと、2曲目には、意外にもG.ホール作〈waltz new〉が供された。柔らかなワルツテンポの中にあっても、遠藤氏は所々でトリッキーなパッセージを繰り出すなど一筋縄ではゆかないアプローチを見せてこちら聴き人を全く飽きさせない。そんな流れを大切にしながら、爽やかな4ビートに仕立てたD.ブルーベック作〈the duke〉と、続けて、鍵盤の中〜高音域を効果的に使いスケール豊かにまとめ上げた遠藤氏オリジナル〈かささぎ〉で充実の1stセットが終わりを迎えた。
続く2ndセットも、1st同様に曲想豊かな展開でステージが進められて行く。冒頭には再びインプロが配置されたが、その様相は1stとは全く異なり、各々の資質が巧みに引き出されるようなダイナミックで華やかな肌合いを持つもの。続く2曲目は、落合氏が持って来たという、かのアメリカ公民権運動の象徴歌でP.シーガーが広めた〈we shall overcome〉を落合氏の野太いベースラインとそこに絡まる遠藤氏の優しさ溢るるピアノでじっくり聴かせにかかった後、続けてこちらも1stとは趣きを変えた軽快な4ビートのスタンダード〈there will never be another you〉を経由した後で、私には嬉しい選曲だったラテンフレーバーのC.ヘイデン作〈sandino〉が続き、本編最後には、これまた印象的なテーマ部を持つ遠藤氏オリジナルの〈雨音〉でしっとりと締めた。
一夜を通して、紡いだ音の連なりにバラエティ豊かな起伏の違いを持たせた構成から、「私、実は欲張りで色々なことをやりたいんです」とでも言いたげなこの控え目なリーダーの積極性と音楽的センスの良さが見てとれて、極めて好感度の高い音創りだったと言える。そんなリーダーの往き方に対して、自在に潮目を変えさせながらも手堅く丁寧な姿勢でそれを支え続けた落合・北澤両氏の技が冴えた点も特筆しておきたい。

 

#209 11月27日(土)
甲府・桜座
https://www.sakuraza.jp/
「Trident」中山拓海 (as/ss) 魚返明未 (p) 水谷浩章 (b) + 森山威男 (ds)

一大事である。今日は、’13/3にジャカルタの地で脳梗塞に倒れて以降、LALはおろか、通常生活でも単身としては最長の旅程である。そこに不安がなかったと言えば嘘になる。
しかし過日、当夜のベーシストから当夜のフライヤーを頂き、即座にこの日この刻に狙いを定めた。何せ、注目のユニット「Trident」〈中山拓海氏(as/ss)魚返明未氏(P)水谷浩章氏(B)〉が何と森山威男氏(DS)をゲストに迎え、何と甲府・桜座でギグを行うというではないか。

桜座と言えば、ご亭主の龍野治徳さんとは、氏が新宿ピットインの名物マネージャーとして在籍されていた頃から不思議なご縁があり、その後ピットインの周年等で顔を合わせる度に、桜座にはなるべく早く必ず伺いますからと言いつつ、そのお約束を果たせねままにいた。そうして今宵、遂に機は熟したのである。

翻って、森山さんである。私がそのナマのプレイに触れたのは、’85/12 新宿ピットイン20周年記念コンサートが最初であるが、それ以降は、河岸は首都圏から離れて行く。
’80年代後半の八ヶ岳ジャズフェスティバル。
当時の会場は、現在の小淵沢・女神の森・ウェルネスガーデンの前、どこかスキー場のゲレンデであったか、峠の中程に開けた野っ原にいきなり現れた仮設のデカイ舞台だった。当時、森山さんは名古屋にお住まいだったのではなかろうか、恐らくご母堂?含めご家族で会場入りしたお姿が微笑ましく私の瞼の裏にある。そうして同じ頃、恒例の年末京都 RAG 公演には、青春18切符で乗り継いで、師走の京の都に奔った。更に時代は下り2000年代、大阪単身赴任時代には、上本町から近鉄特急に乗って名古屋ラブリーに度々通ったものである。ことほど左様に森山さんは旅と結びついて私の記憶の中に鮮明にあり、そうして今日もやはり旅の空での再会となった。
さて、前置きが随分と長くなってしまった。話を前に進めよう。

定刻の18:30 過ぎに水谷氏のMCで始まった1stセット、まずはホストのTRIDENTによる演奏が三曲続く。魚返氏オリジナル〈Seven〉水谷氏オリジナル〈Song315〉W.ショーター作〈アウン・サン・スーチー〉。漆黒の空間にいきなり雄大な景色が開けて行くようだ。私がこれまで各人に抱いていた印象が最良の形で発露する。中山氏のトーンは憂いを帯びつつどこまでも伸びやかに飛翔し、魚返氏は、この国固有の湿度を纏いながらその口跡はきわめて明晰である。そんなふたりを底辺で支える水谷氏の音創りはしなやかで強靭の極みを維持し続けて行く。中山・魚返両氏の陰陽軸と水谷氏の天地軸との交点、否、3つの大きな環の重なる部分から輪郭も鮮やかに立ち上がって来るこのユニットの四年間の歴史の堆積はおおいに説得力のあるものであり、このスペシャルな宵のオープナーとして見事過ぎる役割を果たしてくれた。

さて、続いては中山氏がマイクを握り、いよいよ森山氏を呼び込みにかかる、舞台下手の楽屋から登場かと思いきや、上手客席の間を縫って登場した森山氏の相変わらずのお茶目振りに場内が一気に和む。続けて、中山氏「演奏しますか?それとも喋りますか?」に、森山氏「今日はそうゆう会ですか?」、ととぼけ、もうほとんど噺家の趣き。
と、場内を笑いの渦に包んでおいて、ここでいきなりの〈ハッシャ・バイ〉にはこちらもノゲぞってしまう。しかし、出会い頭のこの展開も、そのトップスピードのドライブ感たるや半端ない。これにはトリオの御三方も弾けに弾けた。そのまま、森山氏オリジナル〈ハチ〉に繋ぎ、フリーフォームのドシャメシャを繰り広げてこのセットは締め。
続く2ndセットは、まさに当夜の顔合わせの旨味が凝縮される展開となった。本篇は4曲。魚返氏オリジナル〈Lost Vision〉に中山氏オリジナル〈Born Live And Die〉と板橋文夫作〈渡良瀬〉〈Sunrise〉を同居させる構成。
Tridentの音創りからは、四年の歳月を経て、ようやく見つけられた最高の4ピース目と同じ時空を共有する歓びがヒシヒシと伝わって来る。
一方で、満場の拍手に応えてのアンコールで板橋文夫作〈Good Bye〉が場内に響き渡るに及んで、歴代森山バンドのみならず、日本のジャズ界の中に脈々と流れるひとつの系譜が繋がった。そんな感動すら覚える一夜だった。
これまで洋の東西の巷で語られて来た森山威男考の前では私如きの講釈等憚られてしまうのが本音のところである。しかし、一言で言うならば、
森山氏のプレイはまさに、「蝶の様に舞い、蜂の様に刺す」の一言に尽きた。全編に千両役者の風格ある所作が冴え渡る。それはしなやかで惚れ惚れするような美しさを持つ型が醸し出す「気迫」という名の音だったと言える。
私の中の歴史の点と点が繋がった佳き夜だった。生きていてジャズと一緒にいられて本当に良かったと感じられた一日だった。




※尚、本日の演奏中の写真撮影は、桜座スタッフの方のご承諾を得てさせて頂きました。

#210 12月11日(土)
合羽橋・jazz & gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/
原田依幸 (p)藤井信雄(ds)

今宵のハコは合羽橋なってるハウス
冒頭から極めて私事にて恐縮だが、この時期はコロナ禍が若干の沈静化を見せていたにもかかわらず、私自身のLALは足踏みをしてしまい、当夜は11/27以来2週間振りのライブの現場行きとなった。
と言うのも前週の金曜日、定例の脳神経内科の受診日の待合室にて、脳梗塞の後遺症に起因する突発性のてんかん痙攣発作(6年振り!)に襲われたことから、大事をとってそれ以降のライブ行きを全てキャンセルしていたからである。
そうしていよいよ意を決して臨んだ当夜のステージには、原田依幸氏(P)と藤井信雄氏(DS)が登場した。原田氏とドラマーの顔合わせと言えば、同所では過去に、山崎比呂志氏、外山明氏とのそれを体験し、いずれも鮮烈な印象を残してくれただけに、今宵もおおいなる期待を持ちつつ現場へと急いだ。一見意表を突いた、それでいて如何にも玄人好みのこの組み合わせには、同業者の方々も強く心惹かれたようで、あのピアニスト、このサックス吹き達と、見知った表現者の御顔も散見される中での幕開きとなった。
聞けば、藤井氏はかつて原田氏のバンドに在籍したことがあり、今宵は約30年の時を経て藤井氏からオファーがなされ実現したとのことであった。
果たして、最弱音の印象的な和音でピアノが先行した幕開け。と、即座にスネアとシンバルがしなやかにそこに寄り添う。その後程なく低音部から高音部までを鮮やかに駆け巡り始めた原田氏に対して、堅牢さと柔軟性を兼ね備え、更にそこに先鋭性が加味された藤井氏のサウンドマネジメントがつかず離れずの展開をみせて行く。今ここと全体の構成を俯瞰しつつそこに自らの表現スキルの粋〈すい〉を凝縮させながら、両者のスピード・密度・時機の幸せな同期の先に現れたのは、いわばエレガンスの極みとでもいうべきもの。
いつもながら卓越した表現者の胎内時計にも驚愕の、1stセット、2ndセット共にほぼ同じく30分という必要充分な程に鮮やかな中編小説に纏め上げた匠同士の技が冴え渡ったひとときだったと言える。

#211 12月12日(日)
新子安・Live & Cafe しぇりる
http://barsheryl.com/
さが ゆき (vo/g) 高木潤一 (g/vo)

このコロナ禍の中、待望のご縁を頂いた表現者は少なくないが、この方とは8月の町田・ニカズでの飛び入り時を皮切りに、最低月一回のペースでこの秋冬を共に過ごしながら、今日が6回目のご対面となった。さが ゆき氏(VO/G)である。
しかし、9月以降のステージに接し驚くべきは、その編成が全てDUOだということ。
順に、山崎弘一氏、高田ひろ子氏、八木のぶ夫氏、ファルコン氏等卓越した表現者達と共に繰り広げられた現場はいずれも創造性に富み、圧倒的な迄に強烈な印象を私に残してくれた。(その他、私が伺えなかったライブでもDUOの実に多いこと!)
そのさがさん、ステージで見せる奔放さに比して、普段着の横顔からは意外にも人見知りでおとなしい印象を感じさせられる部分もみられ、それ故にステージ上で共演者に対して全幅の信頼を寄せてその胸に全身全霊を委ねられることの出来るこのDUOというフォーマットがことの他お気に入りなのだろうか、等と思い巡らしながらその幕開きを待った。
そう、そうして今日もDUO。
ここ、新子安・しぇりるには不定期で登場している「塩と胡椒」なるユニット。その実、G/VOの高木潤一氏との、主に「昭和歌謡」にどっぷりと浸るひとときである。
それはそうとして、肝心の音、だ。
題を昭和歌謡に採りながらも[今夜のショーケースを、各々の代表的な歌唱者からみても(敬称略)小椋佳、浅川マキ、ちあきなおみ、中島みゆき、岩崎宏美、井上陽水、中森明菜、越路吹雪、中村雅俊等錚々たる面々]過ぎ去りし時代のノスタルジーに潜むその憂い・荒んだやるせなさ等の特性を外すことなく、自らの主戦場であるさが氏は、南米趣やインプロに、一方の高木氏は、スパニッシュやフラメンコのフィールドに引き付けながらまさにソルト&ペッパーの如くのぴりりとしたスパイスを効かせながら自在に調理を施して行く。そのいずれもがシェフでありスーシェフで存りえる抜群のコンピネーションを誇るこのチームの今宵のレシピは実に珠玉と言えるものだった。全体のステージを通して、昭和歌謡で場が一本調子に陥るのを避けるべくとの意図からか、それでも全体を貫く語り口を損なわせることなく、各々の曲の芯に昭和の匂いを嗅ぎ取ったさがさん自らの日本語歌詞によるA.ピアソラ作〈oblivion〉やS.テイラー作〈黒い痕跡のブルース〉を当夜のフルコースに組み込んだのは、意表を突いたアクセントの効果を生み出した点で好感の持てるメニュー構成だったと言えよう。一方で、これだけの佳曲を取り揃えていながら、各々の作詞家・作曲家に対する言及が少な目だったのは、私としては少々残念であった。しかし、総じて唄にギターにと聴き応えのある技有りユニットとのファーストコンタクトに大満足の宵だった。

 

#212 12月16日(木)
合羽橋・jazz & gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/
さが ゆき (vo/g) 広瀬淳二 (b)

5日振りの合羽橋なってるハウス。4日振りのさがゆき氏(voice/G)の現場である。
LALを続けていると、時にその方のライブの現場にとことん付き合いたい=聴き込みたいと思わされる表現者と遭遇することになる。こんな言い方は妙だが、私にとっての「今が旬」がさがさんなのである。過日、そんなさがさんの日頃からDUO編成の現場が多い現状について会話をしている際、彼女が私に語ってくれたのは、「お互いの呼吸を一番自由に、詳細に楽しめるのがDUO編成」であり、それに付け加えて「自分が歌っているのは、例え既存曲であってもいずれのジャンルにも属さない全部(自分なりにオリジナルメイクさせた)マイソング、なんてM.デイビスみたいに言っちゃって」とおどけて見せてくれたのだった。
そうして今夜もDUO。今宵の同行者は、広瀬淳二氏(B)だ。これまで私にとっての広瀬氏は、いつの日もテナーサックス奏者であったが、このコンビの時は、ベースを選択されることが多いとのことだった。お聞きすると、今夜も店のドアの看板の当初の(B/SAX)のSAXの文字を自ら消されたとのことだった。
広瀬氏は更に今夜はかなり以前に買い求めたというオートハープなる楽器まで持ち込み(加えて膨らましたゴム風船も足元に用意)それをさがさんが担当することになったことから、今宵は両者共に弦楽器を主たる相棒にそのステージを進めて行くこととなった。
果たして、トータル2セット・約2時間に亘るステージは、約15分〜30分前後に亘る中長編5品を組み合わせた組曲風の趣きを見せた。ここでは、そのいちいちについて詳細な紹介は避けることにするが、全体を通して私が受けた印象としては、まるで密やかな聖務をつかさどる司祭として広瀬氏のベースがサウンドの下支えをしながら緩急の自在に亘って丁寧に音を置きながら音の連なりを紡ぎつつさがさんをゆるやかにサウンドの中核へと誘って行く。そうして導かれたさがさんも歪ませたエレキギター(愛機・テレキャスター)や効果的な各種鳴り物の一撃により決して独りよがりと感じさせない狂気を鮮やかに描いて行き、その先に生まれた内的欲求の当然の帰結点として、「マイソング」を繰り出していった。今宵の場合、その言う所の「ヴォイス」は、即ち①-1の途中で現れたアラビア音階/コーラン的なフレーズ①-2の冒頭の撥音群、更にはピアノとオートハープの両弾きを伴った②-1〈通りゃんせ〉や②-2で意表を突いて現れたC.ミンガス作〈goodbye pork pie hat〉②-3カズーにより先導された〈清しこの夜〉等の断片を通して如何にも粒立って我々の眼前に立ち現れて来た。
しかし、このこれ程迄に充実の音創りをいくら世情穏やかならぬ且つ年の瀬の迫った平日夜とはいえ、かなり限られた聴き人とハコのスタッフだけで独占する状況はいかにも寂しいものがあった。終演後、早速春頃の再演の話題もなされていただけに、その際にはひとりでも多くの方々にこの音場を味わって頂きたいと強く感じながら闇に紛れて下町を後にした。

 

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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