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小野健彦の Live after LiveNo. 294

小野健彦のLive after Live #253~#261

text & photos by Takehiko Ono 小野健彦

#253 6月24日(金)
合羽橋 jazz & gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/
さがゆき(voice/G)加藤一平氏(G)

真夏日となった今日、前週土曜日以来の合羽橋 なってるハウスで、さがゆき氏(voice/G)と加藤一平氏(G)のDUOを聴いた。
聞けばおふたりは過去に共演歴はあるものの今宵はかなり久しぶりの顔合わせだという。おふたりの最近の充実振りを知るこちらとしては、そこに新たな化学反応が起こることを期待してその幕開けを待った。
果たして、前後半に分かれた今宵のステージは、図らずも、互いの衝動の帰結点として、各々共に約30分弱の中編と約15分弱の短編を連ねる構成となった訳だが、特にゆきさんは目の前に用意されたマイクは1stセットの中盤で短く使用したのみで更に各種鳴り物には殆どふれなかったため、全編を通して、ほぼギター2本から生みだされる情報に的を絞った先鋭的な完全インプロヴィゼーションが展開されることとなった。しかし、この稀有な才能を持つ表現者ふたりのことだ、例え轟音が連なろうと、そこに一本調子の印象を受ける瞬間は皆無だった。まるで電磁波か、マグマか、はたまたマシンガンかと思わせるようなふたりのギターサウンドは、そう、動物のいななきから夜空に浮かぶ星屑が醸す風情に似たメロディ迄をも掌中に収めながら、太古から宇宙銀河を目指すような、極めて自由でいかなる束縛からも無縁の伸びやかな軌跡を持ったスペイシーな世界観を描いて行った。
この日この時をギターを持った渡り鳥二羽に徹することで自らの主張を思う存分吐露し切った在り様がいかにも潔く、こちら聴き人にとってなんとも清々しい印象を刻んでくれた。そうだ、今日は事前の打ち合わせをした訳ではなかろうが、共にオレンジ色が効いたコーデで揃えた。
「轟音矢の如し」。聴覚にも視覚にもビビッドに訴える鮮やかな現場。
当のご本人達の充実度も相当だったようで、終演後、おふたりが揃って喉を潤しながら再演にむけた作戦会議を熱く繰り広げている姿もまたなんとも印象的だった。

#254 6月25日(土)
Jazz Bar & Restaurant 菊川・なあ~じゅ Nage
https://nage64.wixsite.com/nage/blank
森田万里子「JAMING」レコ発記念ライブ

茹だるような灼熱の陽光の下、今日も快調に進むLAL。
今日の昼ライブの現場は初訪問の下町菊川・なあ~じゅ。
ここ都下江東区森下の地に39年前に洋食店として店を構え、その後ライブ空間に転じてから30年になるという程よい間尺を有する音楽スペースである。
店内壁面に所狭しと飾られた著名ミュージシャンのサインの中に、原田イサム氏・忠幸氏親子や西條孝之介氏のそれがあることからもその歴史を物語っていると感じられた。
今日のステージは、森田万里子氏(篠笛)入魂の新譜(3rdアルバム)「JAMING(JAZZと民謡の融合)」のレコ発記念の趣向。既に関東圏を中心に5箇所程でのレコ発ライブを経た森田氏であるが、今日は特に氏の民謡の師たる佐藤錦水氏を含む以下のレコーディング・メンバーが初めてライブの現場に勢揃いした豪華版でのステージとなった。

(本日の出演)※敬省略
森田万里子(篠笛)高田ひろ子 (P)杉山茂生(B)楠本卓司(DS)中澤美喜雄(唄)中野孝人(津軽三味線)ゲスト:二世佐藤錦水(尺八)

今日のステージでは新譜からの楽曲を中心にそこに津軽民謡の世界での著名曲(ジャズで言えばスタンダードといったところであろうか)を含めた約10品が供されると共に、その多くで曲の背景等について森田氏からの丁寧な補足説明が付されたため、民謡には決して明るくない私のようなズブの素人にもとっつき易い極めて誠意に満ちた構成だったと言える。
それはそうとして、肝心の音、だ。今日は前後半のセット共に最初の数曲で森田氏とピアノトリオによるジャズ/ラテン・ブラジルフレーバーに仕立てた民謡の世界が披露された後に、フロントに民謡界の匠3人を迎えて(所々ではリズム隊はお休みして森田氏+匠の独断場に持ち込むなどの起伏を生むアレンジもあったが)より民謡色を全面に出した音創りも披露されて行った。そんな流れに対して、今日の超満員の客席には津軽地方出身者や民謡愛好家と思しき方々の御姿も数多く見受けられたことから、タイトルコールへの即座・の反応と、更には曲に入るとなんとも賑々しい手拍子・合いの手・掛け声等がそこここから湧き上がりそれに後押しされるかのようにユニットの面々の演奏も次第に熱を帯び始め、終わってみれば、正味2時間半に迫ろうかという大熱演が繰り広げられて行った。
そんな中、私はと言えば、お隣に座られた先輩のご厚意により、残り少なくなったジントニックに芋焼酎を注いで頂いた強烈な和洋混合酒のグラスをかたむけながら、「民謡」ってよくよく考えてみると素晴らしい単語だなあ、などと独り言ちてしまった。「民の謡」か!と。
思えばジャズ/ラテンが、アフリカに起源を持つ北南米大陸全土の風俗に根差した音楽様式であることを考えた時、ジャズと民謡から透かし見える精神性に共通点の多いことは想像に難く無い訳であり、それ故に、今日私が味わったような両者にとっての融和への道程が幸せな形で開かれたのだろうと強く感じた次第である。
最後に、(ご本人がMCで仰っていたが)ご親族の介護と御母堂の看取りという人生の難局にあっても、信頼できる各々に芸達者な仲間達と先輩諸氏との協働を通じて、洋の東西の架け橋たる具現者となりジャンルの垣根を軽々と超えながらここまでの噛み応えのある充実した音創りへの昇華を成し遂げた表現者森田氏に最大級の賛辞を送りつつ本稿を閉じたいと思う。

 

#255 7月1日(金)
町田 Jazz Coffee & Whisky Nica’s ニカズ
http://nicas.html.xdomain.jp/
小太刀のばら (p) 安東昇 (b) 野崎正紀 (ds) スペシャル・ゲスト:さがゆき(vo)

町田ニカズにて、さがゆき氏(vo)〈同店初出演〉をスペシャルゲストに迎えた小太刀のばら氏(P)のトリオ:安東昇氏(B)+野崎正紀氏(DS)を聴く。
この組み合わせは、本年1月に、のばらさんの発意によりゆきさんをゲストに招き実に22年振りにオーソドックスなピアノトリオと共演する特別企画として他所で顔合わせをしたことに端を発したものであり、その時の配信ライブを見た当店の元岡マスターが強く感応し即座に出演を依頼したという経緯があり、私個人的にも、これまで多く触れて来たゆきさんのDUO編成での世界観とは趣きの異なる音創りに触れられるのではないかとの大きな期待感を持って迎えたステージとなった。
定刻19:30、今宵もリーダーを勤めたのばらさんによる各メンバーとの出会いにまつわる想い出話のMCの後、なんとも品のあるスローワルツに仕立てた、G. ミラー作〈alice blue gown〉で幕開きした今宵のステージでは、ゆきさん所有の貴重な潮先郁男氏(G)の手書き譜の中から、この夜のためにゆきさんとのばらさんが綿密に打ち合わせを重ねた前後半共にスタンダード6曲ずつが供されたが、総じて特にトリオの品の良さが際立った。安東氏の野太い音色と説得力のあるベースラインは、トリオの要としてその推進力をキープしながら、音場の緊張感を維持させることに大きな役割を果たし、野崎氏のブラシワークを中心としたしなやかなタッチのドラミングは、様々に曲想の異なる佳曲をよりカラフルに染め上げて行った。そんな堅実な仕事振りも冴える男衆の緩急自在のリズムに支えられて、のばらさんは、持ち前の一見たおやかな表情の中に(それは例えばサラリとイントロに入ったかと思うと)一瞬にしてこちら聴き人の心を惹きつける魔術的なアプローチと、時にトリッキーなアヴァンギャルドとでも言える音運びを交えた音創りを連ねて行った。
そんな刺激的なピアノトリオの演奏に対して、ゆきさんと両者の間の呼吸感は瞬間的に呼応し合う劇的な展開を次第に見せ始めて…。そこではまるで恋にも似た奇跡のような「溶け合い」の軌跡を描く中で、ゆきさんはのばらさんに対する全幅の信頼をベースに歌詞の部分は特に持ち前のウィスパーヴォイスを効果的に駆使しつつ楽曲が核心に及ぶと鍛え抜かれたヴォイス・パフォーマーの本領を遺憾なく発揮して、コントロールの効いた高音のスキャットを中心に自らの主張をきっちりと唄の中に織り込ませて行った。
〈when sunny gets blue〉〈taking a chance of love〉〈if i had you〉〈get out of the town〉〈in the we small hours of the morning〉等をまるで小唄・端唄のように粋で趣味よくまとめ上げた本編が終わりを迎えて…。満場の拍手に応えて供されアンコールは、最近頻繁にゆきさんの耳に聴こえて来た楽曲で、前夜の準備段階で偶然潮先譜の中から見つけたという〈because of you〉。今宵はこの佳曲が、今朝方元岡さんがその訃報に触れたというニカズ「オリジナル」マスターの宮崎昌也氏に捧げて極めて厳かに演奏されたことも付け加えておこう。
以上、スリリングな音創りに貪欲で一切の妥協を許さないひとりの唄歌いと派手さはないものの、手堅く気の利いて飽きのこない技量も際立つ表現者達との共演は、昼間の酷暑を鎮めてくれるかの様な一服の涼の効果も大だった。帰途に就くお客様の顔に一様に浮かぶ満足げな笑顔も印象的な夜だった。
のばらさんトリオ+ゆきさんのこのジャズボーカルを聴く愉しさに溢れた最強の組み合わせは早速11/12〈土〉に同所での再演も決定されたようで、いささか気の早い話ではあるが、今から秋の夜長が待ち遠しい。
※尚、添付写真最後は元岡・宮崎両新旧ニカズ・マスターのショット。

#256 7月9日(土)
新橋・ミュージック・サロン「シャミオール」
http://chatmiauler.web.fc2.com/
河田黎 (vo) 太宰百合 (p)

今日は、友人(大切な先輩)からの有り難いお誘いを受け、昼下がりの新橋にシャンソンを聴きに行く。
(出演)河田黎(唄)太宰百合(P)@新橋シャミオール 〈皆、お初〉
思い起こせば、私が初めてシャンソンのライブに触れたのは、倉本聰氏の初監督作品映画(’86)〈adieu l’hiver:時は過ぎて行く〉の主題歌を唄った金子由香利氏のリサイタルを高校生の時分に聴いて以来だから、凡そ35年振りのシャンソンの現場となった。
まず会場に入るなり驚いたのは、河田氏の長年のファンと思しき人生の先輩方の顔、顔、顔。今日は休日の昼公演、更にはJR新橋駅前から至近距離というロケーションの利便性の良さも手伝ってか、会場は約50名、ほぼ満席の賑わいを見せた。
そんな客席が固唾を呑んで見守る中、定刻14時に音が出た。冒頭のMCで河田氏からは「約3年振りのこうした本格的な舞台で自分自身どうなるか予想も付かない」とのコメントがあるも、蓋を開けてみると、J.コスマ、L.フェレ、C.ヌガロ(更に加えて、C.ミンガス〈フォーバース知事の寓話〉迄)といった自家薬籠中の佳曲18編が次々と供される充実の音創りが展開された。中でも特筆すべきは、それらの大半の詩作(J.プレヴェール、C.ボードレール、C.ヌガロ、J.R.コシモン等)に対して、河田氏自身の訳詞が施されていた点だろう。
聴いていてそれらのコトノハの断片はいずれもメロディーの流れを邪魔することなく、しっくりと音に馴染み無理なくこちら聴き人の耳に届いてくるあたりは流石に多くの舞台を踏んで来た熟達者の技をみせたと言えよう。総じて、押し付けがましくなく大仰な展開にならなかった点も好ましく感じられた。それでも確かに途中現場から数年遠ざかっていたブランク故か河田氏が構成の繋ぎに苦慮されている場面があったものの、そこは長年の協働者たる太宰氏がタイミング良くアシストに回るなど微笑ましいフレンドシップでステージ全体を充実のひとときに仕立て上げたこのコンビに対して満場からは惜しみのない賞賛の拍手が送られた。
おふたりの、決して声高でない静かで穏やな表情がなんとも印象的な佳き時間だった。

#257 7月10日(日)
Live Cafe 荻窪ルースター
http://www.ogikubo-rooster.com/
デラシネライブシリーズ2022「phantom pain vol.10」
カルメン・マキ (vo, perc) 丹羽博幸 (g) 鎌田清 (ds) 澤田浩史 (b) 清水一登 (key)

カルメン・マキさんのデラシネライブシリーズ2022「phantom pain vol.10」を荻窪ルースターで聴いた。
初出演のこのハコにマキさん(歌・鳴り物)は初のメンバー構成となるデラシネバンドを率いて登場した。[共演]丹羽博幸(G)鎌田清(DS)澤田浩史(B)清水一登(KEY)。
私にとっては今年4回目のマキさんの現場であるが、思い起こせば氏との最初の出会いは’20/2の茅ヶ崎JAM IN THE BOX。その夜は、自宅隣町でマキさんの生唄に触れたいというのが主目的であったのだが.今ひとつ、そのハコに鎮座するハンブルグ・スタインウェイをその夜お初の清水一登さんがどう鳴らし切るのかに大きな関心があったことも確かである。
結果的に、その余りの鬼才振りに圧倒されることとなった訳であるが。そうしてその後清水氏の音創りとは、小森慶子氏・小林武文氏との独創的なユニット「ludus tonalis」で嬉しい再会を果たすことになったのだが、今宵はそんな清水氏とデラシネバンドの一員として再びお逢い出来るとあって格別の期待感に包まれこの日この刻に狙いを定めたというのが偽らざるところである。
それはそうとして肝心の音、だ。
定刻18:30過ぎに開始された今宵のステージは途中短い休憩を挟みお馴染みの曲(それらは、これまでのマキさんのステージで触れたことのある曲達やポピュラーソングを含めて)を中心に全15曲、時間にして2時間半に迄及ぼうかという充実過ぎる内容となったが、マキさんの声の伸びは申し分なく、支えるバンドも分厚い音層で彼女を鼓舞し続けた。中でも私が特に印象に残ったのは、バンド全体の「リズムに対する強い追究の姿勢」とでもいうもの。浅川マキ氏の歌唱で知られる〈あなたなしで〉〈かもめ〉〈it’s not the spotlight〉〈にぎわい〉〈少年〉や、〈悲しくてやりきれない〉〈アフリカの月〉更には〈the man i love〉〈tennessee waltz〉〈デラシネ〉〈eveの夜〉〈lilly was gone with windowpane〉等の佳曲の数々が従前のアレンジを下敷きにしつつも、メンバー構成の変容を経て、各々に初顔合わせ故の互いの呼吸感を慎重に押し図ろうとしながら瞬時にこの日この時にしか実現出来得ないバンドサウンドの獲得を目指そうとする姿勢がこちら聴き人にも強く伝わって来て、そこでは聴き慣れたメロディが全く違う表情をして立ち現れた。バラード、4ビート、8ビート、スローブルース、スローシャフル、レゲエ、ホンキートンク〜ラグタイム更には今宵の飛び切りの見せ場となったマキさん18番の〈will you still love me tomorrow〉で纏わせたソウルフレーバーに至る迄のバラエティに富んだリズムとテムポ達はそのどこを切り取ってもありきたりの仕立てがなされた瞬間は皆無であり、そこには「個」対「個」ひいてはバンド全体から生み出された生々しいまでの「揺らぎ」を随所に聴き取ることが出来、それ故にこのバンドの世界観が広く深い軌跡を描いて見せてくれたのだと痛感している。今日のMCでマキさんは「曲は、(その日その時のメンバーと状況により)旅をする」とのコメントを度々されていたがその意味では、「バンド自身も旅する」ものであると言えよう。そうであるとすれば、この伸びしろも予測不能なニューデラシネバンドの生成発展の旅立ちの第一章に立ち合えた我々はなんとも幸せだったと実感する次第である。
最後に特に御目当ての清水さんの今宵について一言付記させて頂こう。やはり、この方は「とてつもない」というのが、改めての私の印象であった。氏の細い腕と指が鍵盤の上を踊る時、それが早いパッセージでも強い和音でも、即座にバンドが引き締まりサウンドの空気感が変わる瞬間を度々聴きとることが出来た。その呼吸感の揺らぎがマキさんにもダイレクトに伝わり、更にバンド全体に伝播してサウンドが鮮やかに新たなる局面に向けて転がり出す瞬間はなんともスリリングなものであった。終演後早々に早期の再会を調整しているバンドの皆さんの声を聞きながら、この清水氏という「確信」を懐に抱いたバンドサウンドとの再会を心待ちにしつつこの上なく満ち足りた心持ちでハコを後にした。

#258 7月11日(月)
新宿・末廣亭
https://suehirotei.com/
柳家小春(音曲

今日は新宿に所用があったため、古典芸能に造詣の深い「ソボブキ(素朴でぶきっちょな個性派東京人の音楽集団)」主宰の西尾賢氏・豆奴さんご夫妻をお誘いして、常席(常設の寄席)の新宿・末廣亭を久しぶりに訪問した。〈七月中席初日〉
今日の御目当ては、音曲師の柳家小春さん。
加藤崇之さんとのユニット「和ボサ」や青木カナさん・藤ノ木みかさんとの「ハルカナミカン」などで知られる小春さんであるが、これまで触れて来た現場は、至近距離でその音と対峙出来るジャズ系のライブハウスであったため、今日は謂わばホームグラウンド:寄席での遠目(我々の席は1F最後列)からの初のご対面となった。小春さんの出番は昼の部前半13時過ぎからの約10分間という限られたものであったが、それでも持ち前の柔らかく穏やかな声で吟じられた小唄・端唄の数々は、この暑さの中にあって一服の涼しさを届けてくれるのに余りあるものであった。

 

#259 7月17日(日)
本八幡 cooljojo jazz+art
https://www.cooljojo.tokyo/
かみむら泰一 (ts/ss) 高田ひろ子 (p)

前日土曜日の超荒天予想で足止めされたLALを取り返さんとしつつ、一方で感染対策ゆめゆめ怠らず向かった先は千葉県市川市本八幡cooljojo。その昼ライブにて実に三年振りのご対面となったかみむら泰一氏(TS/SS)と高田ひろ子氏(P)のDUOを聴いた。
現時点では同所限定今回が3度目となる両者の協働ステージでは、各々のオリジナル2曲ずつに加えてソプラノサックスを手に曲想の核心を掬い取りながら伸びやかに唄い込んだかみむら氏に対して高田氏がダンサブルなパッセージですかさず応え鮮明完結に纏め上げたS.スワロー作〈outfits〉やソプラノとピアノの瀟洒なハーモニーのコントラストも涼しげだったF.ハイミ作〈minha〉、更にはたっぷりとしたスロービートを纏わせたスタンダード曲〈i should care〉(満場のアンコールに応えて)等いずれも印象的なメロディーを持つバラエティに富んだ佳曲の数々が披露された訳であるが、中でも特にクライマックスになったのは、おふたりの表現者が自らのライフワークとしている音楽群からこの日この相手と再構築したいと選りすぐった曲が登場した瞬間だったと言えよう。
先ずはかみむら氏が追究中のO.コールマン作から選択したのは〈music always〉と〈beauty is a rare thing〉。ソプラノサックスを用いて初めは穏やかに徐々にエッジを効かせながら切れ味の鋭さを増して行くかみむら氏に対して思索的なトーンとメロディアスなアプローチを重ねる高田氏の音像が混じり合う中で、オーネットの祝祭的かつ内省的な世界観が浮かび上がる様は、流石に卓越した表現者の巧みな技を見せつけられた感があった。対して高田氏が選択したのは、讃美歌:安かれ我がこころよ;〈stille.mein wille! dein jesus hilft siegen〉(18C独福音教会修道女ADVシュレーゲルの作詞に後年シベリウスの交響詩フィンランディアの曲がつけられたもの)だった。
2ndセット冒頭で満を持して供されたこの曲において、かみむら氏はテナーサックスを手にとり、その馥郁たるメロディをこれ以上無いとも言える儚さを纏った浮遊感溢れるトーンで慈悲深い「哀切のバラード」に仕立て上げて行った。
そこでは最早支える高田氏の音の連なりが至極の静謐さを湛えたことは言うまでもない。
総じて、眼前にある素材の持つ深淵なる世界観を誠実にその掌中に収めながら、フレーズの間に間に浮かぶ表情はいかにも芯のある確信に満ち溢れている。そんな聴き応えのある音創りとの幸せな出会いのひとときであった。

 

 

#260 7月21日(木)
Jazz&Booze 茅ヶ崎ストリービル
http://www.jazz-storyville.com/
中島朱葉 (as) 大口純一郎 (p)

自宅隣町の茅ヶ崎ストリービルで、中島朱葉氏(AS)と大口純一郎氏(P)のDUOを聴く。
最早自身のリーダーライブや、同世代の仲間達との協働によるバンド「PUSH」、更には各種セッションにと引っ張りだこの朱葉さんと、数日前迄のフラメンコギターとelbを交えブラジル・キューバ・スペイン色の音楽並びにオリジナルを追究するユニット「ロス・エルマノス」のプチツアーを経て更に当月末には朱葉さんを含め若手注目株を召集する二管編成のニュークインテットを始動させるというこちらも相変わらずの精力的な活動を続ける大口氏が真っ向勝負に挑むとあって、大いなる期待感を持ってその幕開けを待った。
B.ゴルソン作(along came betty)でスタートし、途中、スタンダードから〈someday my prince will come)〈embraceable you 〉〈have you met miss jones?〉〈but beautiful〉等を経由しながら、ブラジル系のA.バローソ作〈na batucada da vida〉T.オルタ作〈francisca〉H.パスコアール作〈pipopa〉等を挟み込みつつ、(W.ショーター作品も供されたが曲名失念)〈2 degrees east-3 degrees west〉にて本編を締め、アンコールに応えた〈round midnight〉で幕を下ろすまで、特にバラードでその説得力が際立ちミディアム・テンポに転じても迷う素振りを微塵も見せずに吹き込んだ「一筆書き」の趣きを見せた朱葉さんに対して、淀みなく清廉なメロディラインの中に強靭なタッチから繰り出す時機を捉えた強く美しい句読点を刻んだ大口氏の織り成すハーモニーの連なりは申し分の無いものであり、そんなおふたりの世代を超えた緻密な音創りからはなんとも趣味の良い落ち着いた時間が静かに産まれて行った。
そうだ、最後に蛇足ながら恒例のライブの前呑みについて触れておこう。
今宵も同所に行く際のお決まりの前呑みコース、「居酒屋金栄」にて喉を潤し早めの夕食(共に美味なるしめ鯖と馬刺し等)をとった後現場に向かったのだった。
やはりno aperitif/appetizer- no life 、no music- no life といったところか?

#261 7月24日(日)
World Jazz Museum 21(伊香保・切り絵 緑の美術館)
https://m.facebook.com/World-Jazz-Museum-21-102133488968508/
The Blend:鈴木良雄 (b) 峰厚介 (ts,ss)  中村恵介 (tp, flgh) ハクエイ・キム (p) 本田珠也 (ds)

5/末以来2度目の訪問となった伊香保・切り絵緑の美術館内World Jazz Museum21(群馬県吉岡町)にて、大好評の最新作「Five Dance」盤を携え全国津々浦々を巡る長期レコ発ツアー&ライブを継続中の鈴木’チン’良雄氏(B)率いるクインテット「The Blend」を聴いた。
鈴木良雄 (B)ハクエイ・キム(P)本田珠也(DS)峰厚介(TS/SS)中村恵介(TP/FLH)
旅の始まりは前回同様バスタ新宿から。高速バスに座していれば新宿駅から最寄りの渋川駅/伊香保温泉辺りまで約2時間強で連れて行ってくれるのだから有難いところだ。
チンさん曰く「珠也とハクエイの音空間が凄くブレンドし、いぶし銀のような厚ちゃんと溌溂として輝いてる若い恵介がこれまたブレンドしている。自分はそんな場を後から支えている」というそのバンドのアンサンブルの極意は最新盤からの選曲を中心とした今日のステージにあっても圧倒的な迄の熱い迫力と説得力をもって我々聴き人の耳目を捕らえ続けて行った。
私達の身体が骨格筋という筋肉と骨、関節の連携プレーにより動いているのと同様にバンドのメンバー各々が過不足なく互いを補完し刺激し合う瞬間の連続からは、「動と静」のいずれの表情も豊かなそれはまるで生き物のようなしなやかさと俊敏さが随所に感じられた。今後の更なる音創りにおける収斂を通して、無限大の深化熟成•生成発展の可能性を秘めていると強く感じさせられる稀有なバンドとの幸せな出会いのひとときだったと言える.
※尚、添付最後の写真は当館・菅原光博館長の冒頭挨拶の模様

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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