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Live Evil 稲岡邦弥No. 225

#23 Project Cai 『Winter & Christmas featuring Marico』


2016年12月4日 大塚・グレコ

海沼正利 (perc)
藤田明夫 (sax,fl)
大藤圭子 (cello)
山野友佳子 (piano)
feat.
Marico (soprano)

長年のファンであるCCMのベテラン・シンガーKishikoのご子女 Maricoのクリスマス・ライヴを聴きに出かけた。正確には、パーカッショニスト海沼正利のユニットのライヴにMaricoがヴォーカリストとしてフィーチャアされたものだ。
会場で知らされたKishikoのクリスマス・ライヴについても別稿で取り上げたのでKishikoについての詳細は別稿に譲るが、CCM:Contemporary Christian Musicというのは神やキリストへの想い(信仰心)を歌詞のテーマに据えた音楽で装いはとてもポップ。多くの場合、神やキリストは「あなた」に置き換えられるので、とりようによってはラヴ・ソングとしても充分通用するだろう。
母親のKishikoはハスキーなアルトでバプチスト系のゴスペルを得意とするが、Maricoは透き通るようなソプラノ。プロフィールによれば、3才でピアノを始めたが高校3年のときに声楽に転向、フェリス女子大の音楽学部声楽学部/ディプロマコースを経てカナダのバーノン教会聖歌隊で実地訓練を積んだという。

パーカッショニストの海沼正利が率いるProject Caiは、パーカッション、サックス、チェロ、ピアノからなるチェンバー・カルテット。それぞれ腕のたしかな面々でアイルランド、スコットランド、オーストラリア産の素材をワールド・ミュージック風に料理して見せた。初見参のグレコはJR大塚駅から徒歩で5,6分、商店街を少し入ったテラスハウス風の落ち着いた佇まいで、ピアノを備えた50人規模の手ごろなヴェニュー。この日はケーキにコーヒーなどソフトドリンクが振舞われ日曜日の午後の格好の雰囲気を醸し出していた。
Maricoは賛美歌にCCMを交えたレパートリーで俗事に疲れた心を優しく絆(ほだ)してくれたが、3年前にリリースしたCD『ひ・と・や・す・み』にも収録されていたKishiko作曲の<We will be with you>(あなたのそばに)がとくに心に残った。リフのフレーズが覚えやすく、すぐにでも口ずさめそうだ。いつもピアノの伴奏で厳かに歌っている賛美歌が爽やかなアンサンブルのバックを得てさらに親しみやすく響いた。ひとつ難点を挙げればMaricoのトークの拙さだろう。ネタがなければとりあえずは曲について語れば済むことだ。有料のライヴであれば、客はトークを含めてプロのパフォーマンスを期待していることを念頭に置くべきだろう。

キリストの奇跡については聖書にいくつも紹介されているが、この日は僕にも奇跡が訪れた。大塚駅からグレコに向かう途中、都電の踏切の上で探し続けていた人物に遭遇したのだ。ほとんど足を踏み入れる機会のなかった大塚で、日中、この人物に出会えたという事実は、僕にとって奇跡以外の何ものでもない。この人物とのトラブルは僕の人生を大きく狂わせることになるのだが、心温まるクリスマス・イベントのレポートで語るべきストーリーではないだろう。(稲岡邦弥)

右派

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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