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Live Evil 稲岡邦弥No. 225

#24 追悼特別展「高倉健」

2016年12月16日 東京ステーションギャラリー

2014年11月10日に物故した映画俳優・高倉健の3回忌を記念した追悼特別展。俳優の追悼展が美術館で開催されるのも稀であれば、入場が日時指定の予約制というのも珍しい。特別展の内容が、高倉健が出演した作品205本のほとんどのトレイラー(予告編)の上映が中心であるため、入場者の流れが緩慢にならざるを得ないという事情によるもののようだ。入場者の制限をした結果、人気作家の展覧会のように気に入った作品の前に立ち止まることも許されないような状況は避けられ、好みの映画のモニターの前で数分間トレイラーを楽しんだり、幾つかのモニターの間を往き来する余裕さえあった。また。所々に大型のモニターと椅子席が用意され、さながら映画館の雰囲気を束の間ながら味わえる配慮もなされており、シニアの入場者には好評だったようだ。

入場したわれわれを迎える部屋に張り巡らされたスクリーンを動き回る巨大な高倉健の顔にまず圧倒される。「展覧会」に入場したわれわれの予想を裏切るプロジェクターの効果だ。キャビネ・サイズのスチルをびっしり張り巡らした高い吹き抜けも圧巻だ。規模こそ及ばないが、何万冊という蔵書を脳壁のようにディスプレイした司馬遼太郎の記念館を思い出した。順路は1956年のデビュー作『電光空手打ち』から2012年の遺作『あなたへ』までクロニクルとして組まれており、私蔵されていた台本やポスター、プレスリリースなども交えながら健さんのキャリアを追っていく。順路を追いつつも、<網走番外地>や<緋牡丹博徒>など高倉健の歌声が耳に入るとついつい後戻りしてモニターにクギ付けになってしまう。上映されるのは映画のクライマックスを編集したトレイラー中心なので、前半の東映時代は切った張ったのシーンの連続で息を抜く暇もないが、後半の独立時代のヒューマンな出演作に出会ってほっとしたというのが正直な感想である。

それにしても感じ入るのはいつも颯爽とした高倉健を支えるひと癖もふた癖もある豊富な脇役陣の素晴らしさである。加えて画面を彩り圧倒的な存在感を見せつける女優陣。彼ら、彼女らがいて高倉健の映画、いや日本の映画は成立していたのだ。そういう意味で、このクロニクル展は、高倉健というひとりの俳優を切り口とした日本映画史の一断面だ。

ビデオアートの開拓者ナム・ジュン・パイク(白南準)はかつてTVの受像機を駆使した「TVガーデン」などのインスタレーションを発表、TVに翻弄される世相を活写したが、この高倉健の特別展はプロジェクターや大小さまざまなデジタル・モニターを駆使したデジタル時代の新しい形態の美術展のひとつと言えるかも知れない。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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