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No. 218Live Evil 稲岡邦弥

#017 庄田次郎+織茂サブ / 大由鬼山+織茂サブ

庄田次郎+織茂サブ
2016年4月24日  白楽 Bitches Brew for hipstars only
大由鬼山+織茂サブ
2016年5月20日  白楽 Bitches Brew for hipstars only

庄田次郎 (as,pocket trumpet) 大由鬼山(尺八)織茂サブ(地無し尺八)
photo & text:稲岡邦弥

ひょんなことから地無し尺八奏者の織茂サブと出会った。ご両親はアヴァンガルドのパフォーマーということだが、織茂は鎌倉で庭師を務めながら尺八に励んでいる。『鎌倉十二所』というCDを手に入れ聴いたところ、その独特の音色とアーティキュレーションに興味を持った。鎌倉の小さなカフェのライヴに出かけたところ (Live Evil #012)、彼の吹いている楽器は手製の地無し尺八だった。地無し尺八というのは文字通り、竹の内側を漆などの地塗り処理を施していないいわば素材そのままの尺八をいう。禅に由来する虚無僧などが使用していたという「古管」。音が出にくく、音程も奏者が補正をする必要があるかなり厄介な代物である。

1年半振りに聴く織茂は、70年代フリージャズを彷彿させる庄田次郎を相手にまったく違う側面を見せた(庄田次郎についてはLive Evil #015で取り上げた)。鎌倉でのソロを「竹林を渡る風の風情」と評したが、当夜の織茂を評すると「竹林を騒がせる野分の風情」といったところか。庄田のポケット・トランペットに和したバラードではしなやかな旋律を聴かせたが、庄田の空を切り裂くアルトサックスに対しては楽器を持ち替えて強烈なスタッカートやめまぐるしく変化するパッセージで対応した。

1ヶ月も経たないうちに織茂が再びBitches Brewに帰ってきた。都山流の大師範大由鬼山師に相対するという。最近のBitches Brewはオーナーの杉田誠一のキュレーションでスケジュールが組まれており、若い織茂に百戦練磨の鬼山師の胸を貸そうという意図はすぐ読み取れた。この夜の織茂はまた違った面を見せた。鬼山師の音も違っていた。最初の一音から気配を制するような厳しさがこもっていた。対する織茂の音も尋常ではなかった。ありていに言えば尺八を表現手段に選んだ者同士の真剣勝負。そういえば織茂は入り口の貼り出しで「海童派(わだづみは)」を名乗っていた。「市井の尺八奏者」と認識していた織茂が初めて拠って立つところを明らかにした夜だった。海童道祖(わだづみどうそ)。学生運動とフリージャズに象徴される70年代に一世を風靡した尺八奏者。切り出したままの孟宗竹に全霊を込めた息を吹き込む。演奏というより禅の修行に通じる厳しさがあり当時何度かその場を共有した。一代限りのはずの海童道(武満徹の<ノヴェンバー・ステップ>のソロで知られる横山勝也師が道祖に学んでいる)の精神を継承する若者が平成に存在するとは何とも心強い。

2部冒頭、両者はそれぞれが拠って立つ流派の証として、まず織茂が鬼山師の所望に応えて道曲<産安>を、次いで鬼山師が本曲<木枯らし>を献呈し合った。織茂は笛を良く鳴らし、どれほど早いパッセージを吹いても旋律がどこまでもしなやかなのに驚いた。対する鬼山師は“野生尺八”を自称するに相応しい音量の大きさと入魂の音の充実感、メリハリの効いた表現力に百戦練磨の経験を滲ませた。鬼山師の演奏に、より海童道の厳しさを感じたが、これは選曲にもよるものと思われる。

庄田との夜の終演後、織茂の未熟さを過酷なまでに叱咤(激励)したキュレーターの杉田オーナーだったが、この夜の織茂の演奏にはそれなりに納得したようだった。僕自身、“鎌倉の竹林を渡る風”が“野分”に変貌していくさまを目の当たりにして織茂の可能性に驚くとともに、織茂の可能性を引き出した鬼山師の技量と懐の深さに感銘を受けた一夜だった。
*最後の写真は、織茂手製の地なし尺八を試奏する鬼山師。

Live Evie 017b Live Evie 017a
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稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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