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Reflection of Music 横井一江No. 281

Reflection of Music Vol. 80 鈴木昭男

鈴木昭男 @ いわき市立美術館 2020
Akio Suzuki @ Iwaki City Art Museum, September 20, 2020
Photo & text by Kazue Yokoi  横井一江


もう一年前になる。いわき市立美術館で鈴木昭男のパフォーマンスを行うというので、ふらりと出かけることにした。新型コロナウイルスが蔓延してからほぼ半年引きこもり状態だったので、久しぶりの東京脱出である。コロナ禍さえなければ、この日はジョン・ブッチャーとのデュオ公演の予定だった。だが、他の多くの来日ミュージシャンの公演やツアーと同じく、ブッチャーの来日はキャンセルされてしまった。とはいえ、鈴木のソロ・パフォーマンスは行うという。ならば、違う楽しみがあるのではないかと何かが背中を押したのである。

いわき市立美術館の入り口横のホワイエで、パフォーマンスは行われた。鈴木は石笛を叩きながら、その小さく響く音と共に現れた。石笛の素朴な音を聞きながら、いつのまにか音に導かれるように耳を澄ませていた。そして、1970年に考案した筒状の自作音具アナラポスを吹く。糸電話を巨大にしたような単純な構造の音具だが、倍音を含んだ不思議なサウンドが発せられる。それが吹き抜けになったホワイエの中で音が舞うように広がっていく。そして、グラスハーモニカをこするように奏でたり、マレットで叩くことによって、音響的空間を創り出す。また、スタンドにセットしたアナラポスの導線を擦ったり、叩いたり、上を切った段ボール箱を音具として使う。無音にしたカメラを手に忍足で動きながら写真を撮ると同時に、シャッターを押したポイント、ポイントで違う音の響きに出会えることを体感していた。一番のポイントは、階段を上って2階から吹き抜けを見下ろせる場所で、ここに立った時は少しばかり得をした気持ちになった。静かに座って聞いていた人にはごめんなさいであるが…。

演奏後、使用した楽器について、柔らかい口調で淡々と話す鈴木を見ながら、年輪を経たことによるかろみとその言葉の奥行きに引き込まれていく。標準時子午線が通る京都府網野町に居を移し、秋分の日に一日自然に耳を澄ますという「日向ぼっこの空間」(1988年)のようなとんでもないサウンド・プロジェクトを遣り果せたのも、このようなキャラクターゆえだったのだろうか、と思う。気がつけば、秋分の日も間近だった。

鈴木昭男はサウンド・アーティストとして国内外で数多くの展示、そしてパフォーマンスも行ってきた。熱心に追いかけていたとは言い難いが、とりわけ耳と足跡のマークがつけられたエコー・ポイントでマークに立ち、耳を澄ませる「点 音(おとだて)」は好きなプロジェクトだった。聴覚が洗われるように、小さいけれども何かしら新鮮な発見が耳から入ってきたからである。それだけではなく、視覚的な気づきもあった。聴くという能動的な行為がもたらすものを愉しんだのだった。またどこかで体験したいものである。

ところで、彼のパフォーマンスはサウンド・アートなのか、演奏なのか。それはパフォーマンスにもよりけりである。とはいえ、それは楽曲的な構造をもつ音楽とは異なり、音響的な響きや音色の変化に主眼がある。即興演奏家と共演する時は音楽的でありながらも楽器演奏家とは異なったアプローチが、とりわけジョン・ブッチャーのような演奏家とは相性がよいのだ。いわき市立美術館のホワイエは、吹き抜けがあって、残響効果もあるので最適なのだろうな、とあらためて思った。先ごろリリースされた『Evan Parker Electroacoustic Quartet / Concert in Iwaki』(Uchimizu Records)はここで録音されている(→リンク)。アコースティックな二人ならば、どのようにこの空間に音を谺させ、共鳴させたのだろうか。コロナ禍が去り、その日がもし来るのなら、ウイットネスとしてその場に立ち会いたいものだ。

今年傘寿を迎える鈴木だが、展示会に参加する他、『David Toop, Akio Suzuki, Lawrence English / Breathing Spirit Forms』(→Bandcampへのリンク)リリースしたばかり。 またどこかでその音と出会い、耳が拓かれる日を楽しみにしている。

 

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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