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Reflection of Music 横井一江No. 283

Reflection of Music Vol. 81 JAZZ ART せんがわ 2021


JAZZ ART せんがわ 2021
JAZZ ART Sengawa, September 18 & 19, 2021
photo & text by Kazue Yokoi  横井一江


14回目を迎えた「JAZZ ART せんがわ、コロナ下の今年は万全の感染症対策をとり、会場キャパシティの半数に入場者数を制限しての開催である。入場者数を制限したこともあって、開催日前に完売となった日もあった。

初日と2日目は公演時間の関係で会場に行くことは叶わず、後日配信された映像を閲覧することにした。初日の巻上公一と高岡大祐による『激流ではなく、さざ波のありようで』は、このフェスティヴァルと縁の深いトランペッター、沖至に捧げたセット。2人の即興演奏のクリシェを踏み越えるようなサウンドが故人へのよき捧げものとなった。沖はアクセル・ドゥナーのような特異な個性も高く評価していたことを思い出す。続く『灰野敬二の世界』で、灰野はエレクトリック・ヴィーナを弾き、ヴォイス・パフォーマンスを繰り広げたばかりか、ビリー・ホリデイの<奇妙な果実>なども歌う。原曲は解体されながら言霊が舞った。それだけではなく、雅楽奏者 石川高(笙)中村かほる(楽琵琶)中村仁美(篳篥)中村香奈子(龍笛)との共演も。灰野の音楽的志向が窺いしれる稀有なステージだった。

2日目の『ライヴペインティングの日』は、JAZZ ARTならではの他分野とのコラボレーション企画で、ペインティング+音楽にフォーカスした2ステージ。アライヴ・ペインティングで現在注目されている中山晃子と太田惠資(vln) 不破大輔(b) 坂本弘道 (vc) とのセットは、音楽とステージに映し出されるペインティングとが交歓する「即興」世界である。視覚的な要素が加わると聴こえる音から得る印象がぐっと深まるから不思議だ。次は漫画家、山本直樹率いる「仙川ペインティングチーム」(山本、池田敏彦、鄒娜)と大友良英 (g) の共演、ライヴ・ペインティングも演奏もまた「即興」である。結果としての作品も残ったが、そのプロセス自体を楽しんだ。

3日目からは仙川に足を運ぶことができた。かつては毎年プログラムに載っていた『JOHN ZORN’S COBRA』(以下、コブラと略)を数年ぶりで見る。コブラは1984年にジョン・ゾーンが作曲したゲーム・ピースで、即興演奏のシステムだ。演奏者はプロンプター(指揮者というほど絶対的ではない一種の進行役)を囲んで半円形に位置し、プロンプターが提示するカード、そして呼応するハンドサインのやりとりで演奏が展開されていく。今回は「坂口光央部隊」、つまり演奏者は坂口の人選で、おそらくコブラ初参加者もいると思われる。プロンプターは百戦錬磨の巻上公一。プロンプターと演奏者達の瞬発的なやりとり、そのリアクションも含めて、コミュニケーションが展開する。音だけを聴けばまた違った印象を持つかもしれない。だが、サッカーのようなスポーツを観戦するのに似ていて、コブラはライヴを観ているほうが愉しい。

4日目。『ジャズピアニスト 渋谷毅が語り、弾く』は、聞き手に池上比沙之を迎えてのトークと演奏。昔話もさることながら、面白かったのはオリジナル曲についての問いかけに、「オリジナル曲ってナニ?」という反応。確かに誰かが曲を作ればその人にとってオリジナル、なぜそれに拘るのか、いい曲があればそれを弾けばいい、ということなのだ。思わぬ会話から渋谷の音楽観が垣間見える。ソロピアノは言うまでもなく、タッチといい、ココロに響く美しさだった。続いて、坂田明、坪口昌恭、坂田学、藤原清登による「四重奏団」。ネーミングの妙なのか、「四重奏団」というとフリージャズとはひと味違った演奏が聴けるのではという期待が湧く。一歩踏み出してこその即興演奏の極意、このような顔合わせもまた「JAZZ ART せんがわ」ならではだろう。

そして、今年の「JAZZ ART せんがわ」で一番楽しかったのが、長峰麻貴、大隅健司キュレーションによる「CLUB JAZZ 屏風」である。コロナ以前は、3つの屏風が会場の外の公共スペースに置かれ、屏風内の極小空間でミュージシャンとお客さんが相対して数分間演奏が行われるというユニークな企画だった。発案者は巻上、屏風の制作は長峰である。コロナ下のため、会場のホワイエで屏風の中でミュージシャンが演奏するのをその場に居る人たちが聴くという形になり、「親密な関係」は失われた。まるでコロナ下の私達の暮らしのようだ。しかし、屏風の扉が開けられ、ホワイエ全体が会場と化す。今年は中止となった「公園ライヴ」のように、ミュージシャンたちがそこかしこで自由に演奏を繰り広げる。さながらキャッチコピーのひとつ「野生に還る音」だ。ホールでのコンサート終演後は、エントランス前のスペースで道ゆく人も観客に取り込んでのグランド・フィナーレとなった。屏風も外に持ち出され、最後はお決まりの障子破り(既に障子には穴が開いていたが…)。来年は屋外での「CLUB JAZZ 屏風」と「公園ライヴ」を復活させてほしい。

JAZZ ART というネーミングはいい。ARTという言葉がJAZZと結びついていることで、一般的な「ジャズ」のイメージから外れた音楽を演奏することも、他分野とのプロジェクトにも積極的に取り組める。Jazz and far beyond をリアルに体現するイベントだ。来年もここでしかない出会いを期待しよう。


9月18日(土)

「John Zorn’s Cobra 東京作戦 坂口光央部隊」
坪口昌恭(p)、山本達久(dr)、かわいしのぶ(b)、飛田雅弘(g)、野本直輝(syn)、秋元修(dr)、松丸契(sax)、okachiho(computer)、松村拓海(fl)、田上碧(vo)、坂口光央(syn、オーガナイザー)巻上公一(プロンプター)

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9月19日(日)
「ジャズピアニスト 渋谷毅が語り、弾く」
渋谷毅(p,お話)、池上比沙之(聞き手)

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9月19日(日)
「四重奏団特別演奏会」
坂田明(sax)、坪口昌恭(p)、坂田学(dr)、藤原清登(b)

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9月18日(土)・19日(日)
「CLUB JAZZ 屏風」
キュレーション:長峰麻貴、大隅健司
18日:柳家小春(三味線)、西井夕紀子(accordion)池澤龍作(ds)、吉田隆一(b.sax, fl)、四家卯大(vc)
19日:池澤龍作(ds)、吉田隆一(b.sax, fl)、高岡大祐(tuba)、落合康介(b)、四家卯大(vc)

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横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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