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特集『ECM: 私の1枚』

星 向紀『Keith Jarrett,Gary Peacock,Jack DeJohnette / Bye Bye Blackbird』
『キース・ジャレット,ゲイリー・ピーコック,ジャック・ディジョネット/バイ・バイ・ブラックバード』

初めてのジャケ買い、初めてのECM

ジャズほどレーベル(作り手)のこだわりや世界観が反映される音楽はないと思っている。特にジャケットのデザインからはレーベルのコンセプトが一目で感じ取ることができ、「うちではこういう音楽を作ってます!」という文言がわざわざ添えられていなくともどんなサウンドか想像することさえ可能だ。ブルーノートにはブルーノートの、プレスティッジにはプレスティッジの、そしてECMにはECMのジャケットがあり、レーベルの世界観や音楽性を明確に打ち出している。
『Bye Bye Blackbird』を手に入れたのは今から約10年前、ジャズを聴き始めたばかりの大学生の頃だ。マイルス・デイヴィスを覚えたばかりで、当然キース・ジャレットのことは知らない。このアルバムもマイルスのシルエットに惹かれて購入した。初めてのジャケ買いだったと思う。おそらくジャズをレコードで集める人からすれば、CDのジャケ買いなど邪道だろう。12インチの円盤が入るあの大きさこそジャケ買いに値するのだと。だけど僕はCDど真ん中世代なのでアナログレコードもレコードプレーヤーも当然持っていない。なので、このアルバムもCDで購入した。アナログジャケットの約1/4ほどのサイズながら興味をそそられるには十分すぎるほどの魅力を放っていた。人差し指サイズのジャズの帝王に「さあいこーか」と言われてる気さえした。
アパートに帰ると六畳部屋の奥にあるCDプレーヤーに一直線。多少乱暴にレコード店の袋からCDを取り出してイジェクトボタンを押す。プレーヤーに飲み込まれていくCDを眺め数秒待つとタイトル曲〈Bye Bye Blackbird〉が始まった。
5分ほど経ってもトランペットの音がしないことに違和感を抱き、ふとジャケットに目をやるとマイルスの名前は書かれていない。ケースを裏返してみてもやはりどこにも「Miles Davis」とはクレジットされておらず、そこで初めてキース・ジャレット・トリオによるアルバムだと理解した。ネットでも検索してみるとマイルスが亡くなって13日後に録音された作品と紹介されている。なるほど。つまり俺はジャケットに騙されたわけだ。買う前にパーソネルくらい確認しておけよという正論は受け付けない。
少し肩を落としながらもCDを聴き続けてみると、キース、ピーコック、ディジョネットの三人が展開する演奏がジャケットと同じくらいかっこいい。それに数は少ないがこれまで聴いた名盤と呼ばれる作品とも違って、洗練されてるというかすごく新しい感じがした。いいね、これ!
本作を機に、僕はECMという新世界へ踏み出していく。


ECM 1467

Keith Jarrett (Piano)
Gary Peacock (Double-Bass)
Jack DeJohnette (Drums)

1 Bye Bye Blackbird (Mort Dixon, Ray Henderson) 11:11
2 You Won’t Forget Me (Kermit Goell, Fred Spielman) 10:42
3 Butch And Butch (Oliver Nelson) 06:37
4. Summer Night (Al Dubin, Harry Warren) 06:38
5 For Miles (Gary Peacock, Jack DeJohnette, Keith Jarrett) 18:39
6 Straight No Chaser (Thelonious Monk) 06:44
7 I Thought About You (Johnny Mercer, Jimmy Van Heusen) 04:01
8 Blackbird, Bye Bye (Gary Peacock, Jack DeJohnette, Keith Jarrett) 03:00

Recorded October 1991, Power Station, New York
Produced by Keith Jarrett


星 向紀  ほしこうき
1991年福島県出身。専修大学卒。ジャズ批評編集部所属編集主任。

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