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特集『ECM: 私の1枚』

中川ヨウ『Pat Metheny / Bright Size Life』
『パット・メセニー/ブライト・サイズ・ライフ』

ECMレーベルから1作品を選ぶという依頼をいただき、私はパット・メセニーの1975年録音のデビュー作『ブライト・サイズ・ライフ』を選んだ。
パット・メセニーは、1954年8月12日、カンザス・シティで音楽一家に生まれた。報じられている以上にさまざまな楽器を演奏できるマルチ・プレイヤーだが、ギタリストとしては15歳の頃から地元のジャズ・ミュージシャンたちと共演を重ね、1974年からはヴィブラフォン奏者のゲイリー・バートンに見染められて彼のグループに加入。一躍、活躍の場を世界へと拡げた。
そうして1年、21歳の時にECMにレコーディングしたのが、本作『ブライト・サイズ・ライフ』だった(リリースは1976年1月)。
共演者は、ウェザー・リポート加入前の朋友、ジャコ・パストリアス(el~b)とボブ・モーゼス(ds)。クレジットはされていないが、ゲイリーもレコーディングに立ち会っている。
このアルバムで、パットが重ねてきたギターへの研鑽が一つの形となった。全てのデビュー作がそうであるように、その後の音楽人生の凝縮されたエッセンスが散りばめられている。そのギター・サウンドの多彩さ。温故知新のそのプレイ。〈ユニティ・ヴィレッジ〉の“ユニティ”という概念は、21世紀に入ってからの“ユニティ・グループ”などの、ユニティというコンセプトを立てる礎となった。(その裏には、ライル・メイズの病気を人に知らさずに、パット・メセニー・グループの活動を休止していたという友情に満ちた措置もあった。)
また、冒頭のタイトル曲〈ブライト・サイズ・ライフ〉は、パットが現在活動している若手との(メンバー変更可能な)トリオ、“サイド・アイ”でも取り上げられ、今も進化を続けている。
オーネット・コールマンの〈ブロードウェイ・ブルース〉を収録しているが、当時のパットとジャコは、いわゆる“ジャズ・ロック”が好きではなく、かえってフリーに強い関心をもっていたことを思い出させる。
後にパットは、ゲフィン・レーベルに移籍する際、「オーネット・コールマンとの共演作を移籍作とさせてほしい」という一項をゲフィンに飲ませ、契約書にサインした。
それらの布石がデビュー作で打たれていることも、実にパットらしい、新鮮でブライトな作品である。


ECM 1073

Pat Metheny (6-String Guitar, Electric 12-String Guitar)
Jaco Pastorius (Bass)
Bob Moses (Drums)

1 Bright Size Life (Pat Metheny) 04:45
2 Sirabhorn (Pat Metheny) 05:27
3 Unity Village (Pat Metheny) 03:38
4 Missouri Uncompromised (Pat Metheny) 04:13
5 Midwestern Nights Dream (Pat Metheny) 06:00
6 Unquity Road (Pat Metheny) 03:36
7 Omaha Celebration (Pat Metheny) 04:17
8 Round Trip/Broadway Blues (Ornette Coleman) 04:58

Recorded December 1975, Tonstudio Bauer, Ludwigsburg
Produced by Manfred Eicher



中川ヨウ なかがわよう
ジャズを軸に、さまざまなメディアで評論活動を展開し、21世紀の”グローカルな音楽”を語れると評価の高い音楽評論家/ ジャズ研究者。洗足学園音楽大学名誉教授、慶應義塾大学アート・センター訪問所員、デジタルハリウッド大学客員教授。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。
執筆媒体:毎日新聞毎日特薦盤Jazz、ジャズライフ誌ほか。

 

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